第60話 一筋の光明

「最初の試合は1次トーナメント決勝の対吉良南高校との試合だ」


「この高校は近年決勝トーナメントに行ったり行かなかったりする強豪校。今年は上級生がが揃っていなかったから、あまり強くないはず」


「玲奈は詳しいな。まさにその通りだよ」



 映像を流しながら俺は玲奈がそこまで敵チームを分析していたことに驚いた。

 いや、驚いたというよりは感心したと言った方がいいかもしれない。



「玲奈の言う通り、この高校は毎年1次トーナメントの決勝に顔を出すけど、そこで負けてしまう事が多い高校なんだ」


「決勝トーナメントには行ったことないんですか?」


「過去に何回かあるよ。だけどたまに勝利して決勝トーナメントに行ったとしても、大体ベスト32で終わることが多いんだ」


「だから周りからエレベーター高校って揶揄されてる」


「強豪校に推薦される力もなく、かといって下手でもない人達が多く集まる高校だな」


「2人共よく知ってるな」


「次の試合の情報を集めるのは普通だろ?」


「今は動画投稿サイトでもupされてるものもあるから、調べようと思えば誰でも調べられる」


「玲奈の言う通りだ」



 今は便利になったものだとつくづく思う。

 もちろん監督が次の試合の映像を見せて敵チームの分析データを話してくれたおかげでもある。



「春樹君の言い分はわかりましたけど、何で玲奈ちゃんがそこまで調べているのでしょうか?」


「それはもちろん‥‥‥」


「そっ、そんなことよりとりあえず試合を見よう!! 今日は春樹がどうすれば点を取れるようになるのか、その分析をするのが目的でしょ!!」


「確かにそうですね」


「ほら!! 今春樹にボールが渡った。ここからドリブルが始まるよ!!」



 守の言葉を聞き、玲奈と楓が試合の映像に集中し始めた。

 それを見て守は何故かほっとしている。よくわからないけど、守は守なりに気苦労が絶えないように思えた。



「この高校との試合、私覚えてる」


「春樹君が2ゴール取った試合ですよね」


「うん」



 そうだ。この試合は後半の頭から投入された俺は1点ビバインドで負けている中、2点を決めたんだ。

 ちょうどこのドリブルから俺の1点目が生まれたんだ。



「春樹が点を決めたのはこの時間だな」


「ドリブルの後サイドにはたいて、センタリングからのシュート。お手本のようで綺麗」


「そこから敵に競り勝ってのヘディングシュート。これが1点目だな」


「この時の得点シーン私は好き」


「私はその後決まったジャンピングボレーシュートが格好良かったです」


「楓はわかってない。この味方がセンタリングをする前の春樹の動き出しを見て。ディフェンダーと駆け引きをして春樹はマークを外してる。敵もファーに行くと思って油断してるからついていけてないの」


「れっ、玲奈!?」



 いつの間にか玲奈が俺のゴールシーンを巻き戻して再生させている。

 しかも速度を遅らせているのか、ゆっくりとした映像だ。



「確かに玲奈ちゃんの言う通りですね」」


「だからこそ敵は動き出しがワンテンポ遅くなって‥‥‥ここ!! このシーンだけど、敵はワンテンポ遅れてるからボールの落下点に入れてない!! だから競り合っても春樹の方がいい位置にいるから、ゴールが決まるの」


「でもなんか地味じゃないですか?」


「地味でもこれは普段の練習でやっていたプレーのように思う。その証拠にセンタリングをあげた人もつられないでニアに蹴ってる。どんなゴールよりもこういうゴールをする人は格好いい」


「確かにこのゴールシーンも格好いいですけど、このシーンを見てください」


「かっ、楓!?」



 今度は楓が別の部分まで早送りする。

 そのシーンは俺が敵が中途半端にクリアーしたボールを敵のゴールに叩き込んだ2点目だ。



「このクリアーボールをダイレクトでゴールに入れる春樹君の方が、さっきのプレーよりも豪快かつ綺麗で格好いいと思います」


「それも格好いいけど、絶対に1点目の方がいい」


「2点目の方がいいです!!」


「1点目の方がいい!!」


「ちょっ、ちょっと2人共!? 落ち着いて!?」


「守!! この前の試合を流そう!! この試合はいい!!」


「わかった」



 2人の討論が激化する前に別の試合の映像を流す。

 今度流す映像はこの前の1つ前の試合。決勝トーナメント1回戦の試合を流してくれる。



「2人共、見て見て!! 決勝トーナメントの映像だよ!!」


「ここからが本番だから、こっちの映像を見よう」


「そうですね」


「うん。早く見よう」



 よかった。2人の言い争いはどうにか収まったみたいだ。

 この試合の映像は俺が後半投入されたシーンも流れており、ピッチラインの外にたたずむ俺が鮮明に映し出されていた。



「今見ても春樹はカチカチ。すごく緊張しているように見える」


「初めての決勝トーナメントだからですかね」



 何も知らない玲奈と楓はそのように思っているみたいだけど、実際は違う。

 玲奈がみていたから緊張していたなんて、口が裂けても言えない。



「春樹‥‥‥」


「守!! 今は試合に集中しろ!!」



 守は何か言いたかったみたいだけど、今はそれどころではない。

 注目するべきところは別の所だ。



「春樹にマークが2枚ついてる」


「これじゃ春樹君が、ろくに動けないじゃないですか!!」


「いや、2枚じゃなくて3枚ついているよ」


「えっ!?」


「春樹のマークしている人の少し後ろの方にもう1人いるでしょ? あれは2人抜かれた後のカバーをする人なんだよ」


「そうなんですか?」


「たぶんそうだよ。どこへでもすぐ飛び出せるように準備をしてるけど、今も春樹ばかり見てる」


「確かにそうですね」



 映像では確かに後ろの方に映るDFが俺の事をチラチラと見ている。

 いつでもカバーが入れる準備をしていたのだろう。俺がボールを持つたびに、露骨に警戒していた。



「酷いです!! これじゃあ春樹君が自由に動けないじゃないですか!!」


「楓ちゃん。これも敵の作戦だよ」


「えっ!?」


「それだけ春樹が敵にとって脅威だってこと」


「うん。春樹はうちの高校の得点源だから。敵がそこを重点的に潰すのは常套手段だよ」



 確かによく見ると俺に対してマークがほぼ3枚ついている。

 マークをしている人がいるのはわかっていたけど、まさかこんなにマークがついているとは思わなかった。



「うわぁ~~、春樹が動いたら3人が同じ所に動いてくよ」


「春樹が敵の脅威になってるってことだよね?」


「確かこのシーンの後に別の先輩がゴールを決めてるんだよね?」



 そのシーンを何度も見る。そこを見てある違和感を覚えた。



「守!! ベスト16の試合の映像ってある?」


「あるけど‥‥‥」


「それをすぐ見せて!!」


「わかった」



 守はその後すぐにベスト16の映像を流してくれる。

 その試合でも俺に対してマークが着いている。



「この相手は春樹にマークが3枚もついているね」


「さっきよりも露骨に春樹の事をマークしてる」


「よっぽど敵は春樹君の事を脅威に思ってるみたいですね」



 この映像と先程の映像。そして1次予選の映像。

 それらを見比べて気づいたことがある。



「もしかすると‥‥‥いけるかも」


「えっ!?」


「俺がチームに貢献する方法、見つけたかも」



 この事を意識して練習に取り組んでいけば、もしかすると上手くいくかもしれない。

 一筋の光明、次の試合の突破口が見えてきた。



「本当か!? 春樹!?」


「ありがとう、守。俺やっと気づいたよ」


「それならよかった。この映像は役にたったか?」


「役にたった!」



 後は映像を見て、イメージトレーニングをするだけだ。

 技術といえば技術だけど、一朝一夕でできるものではないからな。

 普段の練習でも意識して取り組めば、きっとこの短期間でも物にできる。



「このシーン。春樹君がドリブルで持ち込んでのシュート。惜しくもキーパーに防がれたけど、格好良かったです!!」


「楓はわかってない。オフサイドになったけど、この春樹が飛び出してキーパーと1対1になった所!! この時春樹が飛び出す前DFが全員一瞬前に出て、オフサイドになるように誘導してる。この駆け引きに春樹のプレーの醍醐味がある!!」


「そんな地味なプレーを見てても面白くないですよ!!」


「楓は派手なプレーを見すぎ!! 本当のサッカーの醍醐味はこういった見えない所での駆け引きだよ!!」


「ちょっ!? 2人共落ち着いて!!」



 玲奈と楓がまた映像を見ながら言い合いを始めたので止めに入る。

 サッカーに興味を持たない2人がサッカーの話をしてくれるのは個人的にはうれしいが、さすがに激しくなってきたら止めざる得ない。



「あれ? でも玲奈って俺の予選の試合を見るのはこれが初めてじゃなかったっけ?」



 そんな考えが頭によぎるが気にしないでおこう。

 結局この日は4人で今までの試合を鑑賞しながら、玲奈と楓の言い争いの仲裁をするのだった。


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