第59話 秘密の試合観戦

 翌日の放課後、俺は教室を出て視聴覚室へと向かう。

 理由は昨日の試合の録画データを再生させるためである。



「春樹、試合のビデオテープは持ってるの?」


「ちゃんと顧問の先生から借りて来てるよ」



 このビデオを見る為に俺は朝、顧問の先生に頼んで試合の録画データをもらってきた。

 後はこれを視聴覚室で見るだけだ。



「そういえば春樹、視聴覚室の使用許可はもらったの? あそこって使用許可がなければ使えないと思うけど?」


「実はもう既に使用許可は取ってあるのだよ」


「嘘!?」


「本当だ」



 そう言って俺は守に視聴覚室の鍵を見せた。守は俺が持つ鍵をまじまじと見つめている。



「本当に視聴覚室の鍵だ」


「だから本当だって言っただろ?」


「いつもの春樹じゃない。春樹ならここで視聴覚室の許可を取ってなくて慌てふためくのに」


「ふっふっふ、いつもの俺じゃないんだよ」



 実際はとある人に朝その事を指摘されて、慌てて申請したのは伏せておく。

 幸い今日は事前予約が入っていなかったので、割とすんなり物事は進んだ。



「それにしても、春樹が急に決勝トーナメントの試合を見たいって言った時は驚いたよ」


「俺が試合を見たいって言ったのはそんなに意外なの?」


「うん。だって春樹って考えるより体を動かすタイプじゃん」


「守、それは俺の事を馬鹿にしてるんだよな?」


「馬鹿にしてないよ。ただ春樹は脳筋だって言ってるだけだ」


「それが馬鹿にしてるって言うんだよ!!」



 誰が脳筋だ!! 守が普段から俺の事をどう思ってるのかが今の発言でよく分かった。

 場合によっては守との今後の付き合い方を一旦考え直した方がいい。



「まぁいいや。それにしても一体どういう風の吹き回しなんだろうな」


「まぁ、それは色々とあって」



 そうこうしているうちに俺達は視聴覚室に到着する。

 視聴覚室の前には中に入るのを今か今かと待ちわびる人影があった。



「春樹」


「ごめん玲奈。遅れちゃって」


「うんうん、大丈夫。私も今来た所だよ」



 制服姿でたたずむ玲奈に思わず見とれてしまう。

 よく姉ちゃんが学園の女神と呼ばれていたけど、本当の女神は玲奈なのではないだろうか。



「あ~~なるほどなるほど。春樹がどうしてこんなに急いでいたのかがわかったよ」


「守!? 何言ってるんだよ!?」


「さっきまでの視聴覚室を予約を促したのは玲奈ちゃんだね?」


「それは‥‥‥」


「うん。一応春樹に確認したよ」


「れっ、玲奈!?」


「やっぱりね。色々と合点がいったよ。玲奈ちゃんのアドバイスか」



 どうやら今の会話で玲奈が俺にアドバイスしてくれたことが明るみに出たらしい。

 守には知られたくなかったけど、こうなったら仕方がない。



「守、このことは内緒な」


「もちろんだよ。その代わり今度ハンバーガーを奢ってね」


「それは‥‥‥」


「別にいいよね? この前ファミレスを奢ったんだし」


「ぐっ!!」



 守の奴まだあのファミレスでの勉強会の事を引きづっているらしい。

 確かに俺も奢ってもらったけど、紗耶香や楓だって容赦なく食べてただろ。



「‥‥‥わかった。その提案を飲もう」


「だそうだよ、玲奈ちゃん。今度みんなでハンバーガーを食べに行こうね」


「えっ!?」


「うん。楽しみ」


「ちょっ、待てよ!? 玲奈も一緒に行くの!?」


「そりゃそうだよ。せっかくなんだから玲奈ちゃんも一緒に行こう」


「うん、行く」


「決定だね」



 駄目だ、これは。玲奈も既にハンバーガーショップに行く気満々である。

 こういう時にどんな言い訳をしても玲奈には通じないことは俺がよく知っている。。



「玲奈と行くのは楽しみだけど、これを喜んでいいかわからない」



 本来なら喜ぶべきことなんだろうけど、何故か釈然としない。

 特に姉ちゃんじゃなくて、守がついて来るという事がどうにも腑に落ちなかった。



「う~~ん」


「守、どうしたんだよ? そんなに唸って?」


「いや、玲奈ちゃんが来るならちょっと余計な事したかなって思っただけだよ」


「余計な事?」


「春樹には関係ないから、早く中に入ろう」



 意味深な発言をする守の事が気になったけどその事は置いておいて、とりあえず視聴覚室の中に入る。

 中に入り試合の映像を流す準備を順々に進めていく。



「悪いな、玲奈。部活で忙しいのに、こんなことに付き合わせて」


「全然大丈夫。今日は部活も休みだし暇だったから、気にしないで」



 玲奈も準備をしながら、淡々と話す。

 その様子は今日俺に付き合う事を本当に気にしないどころか、むしろ楽しみにしているように見えた。



「それより春樹。いつから玲奈ちゃんと一緒に試合を見る話をしていたんだよ」


「昨日玲奈と話す機会があって、その時に試合の映像を見て俺のプレーを分析しようって話になったんだよ」



 具体的にはハンバーガーショップで玲奈と話していた時に出た案だ。

 もし試合の録画があれば、それを見て一緒にどこが悪かったか分析しようって話になっていた。



「だから昨日玲奈ちゃんがいなかったのか。美鈴さんはさすがだな」


「守? 急にどうしたんだよ? 姉ちゃんの事なんて褒めて」


「何でもないよ。やっぱりあの人には敵わないなって改めて思っただけだ」



 姉ちゃんの事を褒めるなんて、変な守だな。

 守は守で色々と納得いったのか、椅子を並べている。



「そういえば守はいいのかよ? 他の1年生が外で自主練習しているのに行かなくても?」


「別に1日ぐらい休んだ所で変わらないよ。それにあっちで練習しているよりも、春樹のプレーをじっくり分析した方が勉強になるだろう」


「そういうものなのか?」


「そういうものなの」



 俺にはよくわからないけど、守がそれでいいならいいのだろう。

 俺のプレーが参考になると言ってくれているのだから、これほど嬉しいことはない。



「それよりも何で椅子が4脚もあるんだよ。俺と守と玲奈しかいないんだから、3脚で十分だろう?」


「いいや、4脚で合ってる。間違いはない」


「間違いはないって‥‥‥どう考えても人数に対して、椅子の方が多い‥‥‥」


「遅れてすいません!!」


「楓!?」



 ドアが勢いよく開いたと思ったら、そこに現れたのは楓だった。

 急いでここまできたからなのか、肩で息をしている。



「どうしてここに来たの?」


「守君から春樹君の試合の映像を見るって話を聞いたので‥‥‥」


「えっ!?」


「楓ちゃんは僕が誘ったんだよ」


「守が!?」


「うん。紗耶香も誘ったけどバスケ部の練習があるからこれないってことになって、楓ちゃんだけ参加って話になったんだよ」


「そういう事なら俺に何か一言頂戴よ」


「サプライズだよ、サプライズ。そっちの方が春樹も喜ぶかなって」


「サプライズにしたって、もっと別のやり方があっただろ」



 それこそ祝勝会の時とか、もっとやりようがあったはずだ。

 こんな所でやる必要はないように思う。



「すいません!! 突然来てしまって、お邪魔でしたよね?」


「全然だよ。ちょっと驚いたけど大勢の人達と見た方が色々な意見が出て俺も勉強になるから歓迎するよ」


「ありがとうございます」



 よかった。楓が気に病んでなくて。

 心なしか楓もほっとしているようにも見えた。



「うんうん。全てが丸く収まって、めでたしめでたしだ」


「守、お前も今度俺にハンバーガー奢れよ」


「何で僕が春樹に奢らないといけないの!?」」


「それは自分の胸に手を当てて聞いて見ろ」



 元々は事前に楓が来るって話してなかった守が1番悪い。

 事前に話してくれれば、俺も玲奈にその事を伝えられたのに。余計なことをする。



「そういえば玲奈、姉ちゃんはなんか言ってたの?」


「美鈴さん? 美鈴さんは今日は生徒会の仕事をするって言ってたよ」


「そうか。珍しいな、姉ちゃんが来ないのは」


「少し仕事も溜まってるみたいだから、集中して終わらすって言ってた」


「なるほどな。姉ちゃんも忙しいのか」



 そういえば姉ちゃんは生徒会にも入ってたっけ。

 部活はバレー部に入ってるし、きっと俺が思っている以上に忙しいのかもしれない。



「それじゃあこれから映像を流すから、みんな座って」


「わかった」



 それだけ言うと、守は部屋の明かりを消す。

 そして大画面に俺の試合の映像が流れ始めるのだった。



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