第57話 春樹の悩み

 あの白熱した試合から1週間後であるベスト16の試合。うちの学校の生徒達が注目する中、サッカー部の試合が終わった。

 整列を終えてベンチに戻る先輩達は喜んでいる中、俺は1人顔を下に向けうなだれていた。



「やったぜ!! 初のベスト8だ!!」


「ベスト8って、開校以来の快挙だろ!!」


「俺達が歴史を作ったんだ!! やったぜ!!」



 周りの先輩達が大喜びする中、俺の気持ちは晴れない。

 理由はいたって簡単だ。俺は今日も全く得点に絡めなかったからである。



「そんな辛気臭い顔をするなよ、春樹」


「先輩」


「お前の今日の動き、凄くよかったって周りから評判だったぞ」


「ありがとうございます」



 先輩達に連れられてロッカールームへと戻る。

 そこで着替えをした後、競技場を後にする。



「周りからの評判がよくたって、意味がない」



 後半に投入されて1人だけ元気なんだ。それ相応のプレーをしないとピッチに入った意味がない。



「とにかく今は点が欲しい」



 今のままの俺じゃただの役立たずだ。FWなんだから、得点に絡めるプレーができないと意味がない。



「一体どうすればいいんだ?」


「春樹?」


「どうすれば‥‥‥もっと上手くできる‥‥‥‥」


「春樹!! 春樹!!」


「守? どうしたんだよ? そんなところで?」


「どうしたもこうしたも、今ミーティングが終わって解散したところだろ? 忘れてたのか?」


「あっ!?」



 1人で考え事をしていたせいか、忘れていた。

 俺が周りを見回すと、先輩達がちょうどバラバラに解散していく所だった。



「どうしたんだよ? 春樹? そんなにぼーっとして」


「あぁ、何でもない」


「それよりも今日も紗耶香ちゃんや楓ちゃん達とご飯行くんだけど、春樹も来るよな?」


「そうだな‥‥‥‥」



 あそこにいけば、紗耶香や楓の他に姉ちゃんや玲奈達もいる。

 みんなに今日のプレーについて、俺の事を褒めてくれるかもしれない



「悪い、守。今日はこのまま帰ってもいいか?」


「あぁ。別に大丈夫だけど。珍しいな、疲れたのか?」


「まぁな。ちょっと今日は頑張りすぎた」



 実際はこんな気持ちのまま、みんなと話す気になれないからである。

 みんなが楽しそうなのに、こんなふさぎ込んだ気持ちのままみんなと話せない。



「わかった。でも、本当に大丈夫か? 辛かったら帰り付き添うけど」


「俺のことは心配しないでくれよ。今日は姉ちゃん達と楽しくやっててくれ」



 精一杯の空元気を守に見せた。

 いまだに不安そうな顔を守はしているけど、ある程度納得してくれたようにも見える。



「紗耶香ちゃん達には言っておくけど、何かあったらいつでも相談してくれよ」


「わかってるよ。ありがとう、守」



 それだけ言って、俺と守は別れる。きっと守は紗耶香達とは別の場所で待ち合わせているのだろう。

 観客席の入口方面へと歩いていく。



「俺も帰ろう」



 帰って家で今日の反省会をしよう。次の試合こそチームに貢献しないとまずい。

 入り口を出た俺はそのまま駅へと向かう。

 そのまま電車に乗り込み、1人で自宅へと向かうのだった。



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