第56話 祝勝会

「それではみんな! うちのサッカー部の勝利を祝って、乾杯!!」


『乾杯!!』



 サッカーの試合後、俺達は高校の近くのファミレスに集まっていた。

 メンバーは守や楓や紗耶香のいつも集まるクラスメイト3人と姉ちゃんと玲奈、そして俺を含めた総勢6人である。



「それにしても守君、せっかくクラスメイト同士の親交を深める場所に私達が参加してもよかったのかしら?」


「全然大丈夫ですよ」


「むしろ私は美鈴先輩達とこうしてご飯をご一緒できることが嬉しいです!」


「ありがとう、紗耶香ちゃん。私も紗耶香ちゃん達に誘って貰えて嬉しいわ」



 姉ちゃんの言葉が嬉しかったのか、紗耶香の目がハートマークになっている。

 だが紗耶香が見ているのは女神様モードの姉ちゃんだ。本当の姉ちゃんを見たら、一体どんな顔をするのだろうか。



「どうしたの? 春樹? そんな渋い顔なんてして?」


「いや、何でもないよ!?」



 姉ちゃんの奴、余計なことを言うなと俺に対して圧力をかけてきやがった。

 ニコニコと笑っているが、それはフェイク。その頭の中ではきっと俺に折檻を加える準備をしているに違いない。



「でも、今日の試合は本当に凄かったね」


「本当よ。まさかうちのチームが勝つなんて思わなかったわ」


「学校創設以来初めてのベスト16。春樹君達は歴史を作りましたね」



 ドリンクバーで取ってきた飲み物を飲みながら、姉ちゃんと楓は楽しそうに話している。

 歴史を作ったと言っても、あまり実感が湧かない。正直今日の試合は先輩達に勝たせてもらった物だと思っている。



「それにしても、春樹があんなにサッカーが上手かったなんて思わなかったわ」


「そうですね。私も最初に春樹君の試合を見た時は、同じことを思いました」


「人は見た目じゃ判断できないのね」


「ちょっ、紗耶香!? それはどういう事だよ!?」


「そのままの意味よ、春樹」



 姉ちゃんは冷たい目で俺を見る。

 冷たいというよりは、俺の事を見て呆れているように思えた。



「ベスト16なんて開校以来初めてのことらしいですね」


「そうなんだ」


「どうしたんだよ、春樹? 今日の試合に納得いってないように見えるけど‥‥‥」


「納得していないなんて、そんなはずないわよ。ベスト16よ!! 16!! うれしくないわけないでしょ!! そうよね、春樹?」


「まぁ、そうだな」



 正直な事を言うと守の言う通り、今日の試合は全く納得いっていない。

 得点にも絡めなかったし、試合に出て何もできなかった。

 正直チームに貢献できなかったという思いが強く、自分のプレイが非常に腹立たしい。



「そういえば春樹、今日は途中から出場して点を決めてないわね? 調子でも悪いの?」


「もしかしたらそうかもな」


「珍しいわね。あんたが調子悪いってことを認めるなんて」


「調子が悪い時ぐらい誰にでもあるだろ? これぐらい普通の事だよ」



 調子の悪い時は誰にでもある。幸い今日は1対0でうちの学校が勝利した。

 先輩達が必死で守ったおかげだけど、この恩は次の試合で得点という形で返せばいい。



「でも美鈴さん、今日の春樹はよくやってたと思うよ。春樹がピッチに入った時、マークが2人もついてたじゃん」


「2人もついてたの!?」


「それだけ相手は春樹君の事を危険視していたんですね」


「そうだと思うよ。でもこれで紗耶香もわかっただろ? 春樹がどれだけ凄いかって」


「うん、人は見かけによらないという事ね」


「おい」



 紗耶香は俺の事を見直しているのかけなしているのかわからない。

 ただ、今日の試合の話を聞いて、びっくりしている。



「そうそう。次はベスト16のチームを倒してベスト8に行こう」


「そうだな。次を見据えて俺も頑張るよ」



 とりあえずここはその場のノリに合わせておこう。

 今俺の悩みを話してもしょうがない。今日の反省を生かして、次に活かそう。



「まぁ、残念な春樹の事は忘れて早く食べましょう」


「ちょっと待って、姉ちゃん!? 何で俺が残念なことになってるの?」


「だってあんたゴール前でヒキガエルが死んだように倒れてたじゃない?」


「なっ、何故それを!?」



 みんなゴールをした先輩に注目していたから俺の恥ずかしい姿は見られていなかったと思ったのに、姉ちゃんは目ざとく俺の事を探し当てていたみたいだ。

 玲奈もその事を思い出しているからなのか、俺の隣でクスクスと笑っていた。



「えっ!? 美鈴先輩、そんなシーンありましたっけ?」


「得点が入る直前の話だから、記憶に残らないのも仕方がないわ」


「春樹がDFに潰されたシーンですね?」


「そうよ。ちょうど得点が決まった後だから、見逃している人も多いと思うわ」


「姉ちゃん!? 俺の恥ずかしい話はしなくてもいいだろう!!」



 そのことを紗耶香達にわざわざ拡散するなんて、絶対にわざとだろう。

 現に俺の恥ずかしいことを話している姉ちゃんは先程よりも楽しそうに見える。



「春樹、怪我はなかったの?」


「大丈夫だよ。体のどこにも以上ないから」


「よかった」


「玲奈、春樹の事は心配しなくて大丈夫よ。春樹は体が頑丈なの事だけが取り柄だから」


「姉ちゃん!! 頑丈だけが取り柄って言うなよ!! 俺にだって取り柄はいっぱいある」


「ほぅ。ならその取り柄というものを言って見なさい」


「うっ」



 俺の取り柄。考えればいっぱいあるはずだ。

 だが急に言われると何も出てこない。

 姉ちゃんは面白い玩具を見つけて喜んでいるからか、楽しそうに俺の事を見ていた



「ほらほら、言ってみなさいよ。春樹」



 落ち着け、落ち着くんだ。春樹。

 絶対俺にもいい所があるはずだ。それを姉ちゃんに言えばいい。



「かっ‥‥‥」


「かっ?」


「かっこいい所‥‥‥とか」


「春樹より格好いい人は五万といるわよ!!」


「即否定しないでよ!!」



 自分でわかっていても、即座に指摘されると辛すぎる。

 慌てて次の事を考えるが何も浮かばない。

 俺が何も答えられないことを察したのか、姉ちゃんはため息をついた。



「結局春樹の自己肯定感が低いことがわかったわね」


「悪かったな。自己肯定感が低くて」


「別に悪くなんてないわよ。それよりも早くご飯を食べましょう。せっかく熱々のご飯が届いたのに冷めちゃうわ」


「姉ちゃん!? 今の俺の話を聞いてた!?」


「貴方の話よりも、まずはご飯が優先よ。それじゃあ、いただきます」


「おい!!」


『いただきます』



 俺のツッコミを無視して、全員が食事を始める。

 この時隣にいた玲奈が、俺の事を横目で見た。



「玲奈、何かあった?」


「なんでもないよ」


「そう」



 玲奈は俺に向かって何か言いたそうな表情をしている。

 終始その事が気になりながらも、俺は紗耶香や姉ちゃん達との食事を楽しむのだった。



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