第54話 主役はどっち??
数日後、俺達は初の決勝トーナメントとなる試合会場に来ていた。
俺は選手なので、ウォーミングアップ後、ユニフォームの上にジャージを着てベンチに向かう。
「周りが騒がしいな」
俺はその原因となるスタンドの方へと目を向ける。
会場がにわかに活気づいているのには理由があり、全てはスタンドにいる人物が原因だった。
「おい!! 小室!!」
「何ですか? 先輩?」
「あそこに座ってるの、お前の姉ちゃんだろ!? 何で!? どうして今日に限って俺達の試合を見に来たんだよ!?」
「そんなの俺に聞かれてもわかりませんよ」
そう、この騒ぎの原因はスタンドで試合を観戦している姉ちゃんにある。
スタンドではどこかの芸能事務所に所属している女優が来たんではないかとにわかに盛り上がっている。
「全くいい迷惑だよ」
これではどちらが今日の主役なのかわからない。現に今も姉ちゃんはスタンドで声をかけている人達に愛想を振りまいている。
みんな姉ちゃんの見た目に騙されているからだろう。男共の顔が緩んでいる。
「一体どんな心境の変化があったんだろうな」
夏の大会が始まる前はベスト8に入るまで部活が忙しいから絶対に来ないって言っていたのに。
急に昨日になって暇になったから見に行くとか言って、姉ちゃんに一体何があったんだろう。
「おい見ろ!! よく見たら女神様の隣に天使様までいるじゃないか!?」
「学園の2代巨頭が来るなんて‥‥‥俺、今日死んでもいいかも」
「春樹、よくやったぞ。女神様だけじゃなくて、天使様まで会場に連れてくるなんて」
「俺が連れてきたわけじゃないですよ。玲奈も姉ちゃんが連れて来たんですから、勘違いしないでください」
連れてきてほしいと頼んではいたが、こんな早くそれが実現するとは思わなかった。
玲奈はメモ帳のようなものに目を落としているような気がした。
「それにしても、今日はやたらスタンドで応援する人が多いですね」
「殆どがうちの学校の生徒だろうな」
「本当ですね」
よくよくスタンドを見ると紗耶香や楓の姿もある。
2人は近くにいた守を見つけたからか、楽しそうな表情で話をしていた。
「先輩!!」
「どうした、影山?」
「あそこの方を見てください!! 女神様や天使様以外のバレー部の他の部員も見に来ていますよ!!」
「あっちにはバスケ部の人達もいます!!」
「こんなにうちの学校の生徒がいるなんて、俺達サッカー部が久々に決勝トーナメントに行ったからですよね?」
「もちろんだ!! なんてったって、今の俺達は学校の中では注目の的になってるからな」
先輩の言う通りだった。俺達サッカー部が決勝トーナメントに進出したことで、学校中の注目を浴びてる。
スタンドに俺達の学校の生徒が多いのはそのせいだろう。やたら見覚えのある顔が多い
「守の奴、試合の前なのにあんなにいちゃついて」
先程までスタンドで紗耶香達と話していたのに、いつの間にか紗耶香達とは離れクラスの女子達と楽しそうに話している。
他にも見知らぬ学校の女の子と話していたりして、俺達とは別の意味で忙しそうだ。
「こんなことなら、俺もスタンド応援していればよかった」
そうすれば今頃玲奈と隣同士になってたのしくおしゃべりできたかもしれないのに。
なんて惜しいことをしたんだ、俺は。
「でも、ここまで来ただけでも凄いよな」
「歴代の先輩達だって、皆ここを目指してサッカーをしていたんだ」
「本当本当。あとは思い出に残るいい試合をして‥‥‥」
「先輩、何言ってるんですか」
「何だよ、小室?」
「先輩達は決勝トーナメン進出で満足しているようですけど、俺はこんな所で負けるつもりはありませんよ」
俺の目標はあくまでベスト8。そこで点を取って、玲奈に告白するんだ。
だからこんな所で負けてなんていられない。何が何でも勝ってやる。
「春樹、お前本気で今日対戦するチームに勝つ気かよ」
「もちろんですよ。絶対に倒しましょう」
「対戦相手は去年の夏の大会でベスト8に入ったチームだぞ。俺達が勝てるわけ‥‥‥」
「それはやってみないとわからないだろう」
「監督!!」
「サッカーの試合は強いチームが必ずしも勝つわけじゃない。ジャイアントキリングって言葉があるように、格下のチームが格上のチームを倒す場合もあるんだ!!」
「はい!!」
「だから絶対にあきらめるな!! 走って走って走りぬいて、俺達らしい泥臭いサッカーを敵チームに見せてやれ!!」
監督の言葉で先輩達も引き締まったようだ。先程スタンドを見て舞い上がっていた時とは違い、緊張した面持ちでいる。
「せっかくここまで来たんだ!! みんなで歴史を作ろう!! 絶対勝つぞ!!」
「はい!!」
「それじゃあ解散だ。レギュラー陣は早く整列してこい!!」
監督の言葉で選手が散る。そのままレギュラーは審判が並んでいる所に整列しに行く。
対する俺はベンチスタートなので、監督達がいるベンチに座るのだった。
「小室、ありがとな」
「何がですか?」
「お前が他の奴等を引き締めてくれたおかげで、今日は緊張感のある試合ができそうだ」
「引き締めたって、監督がしたことじゃないですか」
「きっかけをつくったのは春樹、お前だ。俺がいくら言った所で、聞かない奴は聞かない」
「そういうものなんですか?」
「そうだ。お前も大人になって子供達を指導するようになればわかる」
それっきり監督は黙ってしまう。
俺は俺で監督の隣に座り、試合を見る。
「春樹」
「はい」
「いつも通り後半から行くぞ。ちゃんと試合に入れる準備をしておけ」
「わかりました」
俺が監督に返事をした瞬間、試合開始を告げるホイッスルが鳴る。
センターサークルからボールが転がり、試合が始まるのだった。
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