第53話 謎のマスクマン
姉と誓いを立てた日から早2週間が経ち季節は6月間近の5月下旬。
試合が行われた翌日の昼休み、前日の試合で疲れていた俺は机に突っ伏していた。
「ちょっと!? 春樹!? 起きなさいよ!!」
「何だよ!! 紗耶香!! そんなに騒いで!!」
俺は疲れてるんだよ。少しは休ませてくれ。
そんな俺の思いとは裏腹に紗耶香は隣で騒ぎ立てる。
「紗耶香ちゃん。周りが見てるので、少し落ち着きましょう」
「これが騒がずにはいられないでしょ!! 春樹は何で話さなかったのよ!!」
「何のことだ?」
「インターハイ予選の事よ!! インターハイ予選でサッカー部が決勝トーナメントに進んだんでしょ!?」
「‥‥‥まぁな」
昨日の試合を3対2で勝利したので、その試合を持って無事決勝トーナメントに進出した。
その試合に俺も途中から出場したけど、精一杯走ったせいで体中が筋肉痛だ。
「校内中お祭り騒ぎよ。サッカー部の歴史的勝利だって」
「そうなの?」
「1年生の所はそんなに盛り上がってないけど、2年生と3年生の所では大盛り上がりよ。私もさっき知ったけど、びっくりしたわ!!」
まさか決勝トーナメントに行っただけでこんな盛り上がってるなんて思わなかった。
俺達の階ではあんまり盛り上がってなかったので、大したことないものだとずっと思っていたからだ。
「でも、何で他の学年は盛り上がってるのに1年生の階だけ盛り上がってないのでしょう?」
「それは1年生でベンチ入りしたのが春樹だけだからだよ」
「守!?」
「一体どこから出て来たんだよ!?」
神出鬼没とはまさにこのことである。
俺達が呼んでないのに、守が俺の後ろから現れた。
「そんな些細なことはいいじゃん」
「些細なことではないと思うんだけど?」
どこからともなく突然現れたんだから、みんなびっくりしていると思うけど。
紗耶香も驚いてるし、楓なんて目を見開いている。
「1年生の階だけ盛り上がりに欠けてることをみんなが知りたいんでしょ?」
「うん」
「何か理由があるんですか?」
「それはね、1年生で登録メンバー入りしているのが春樹しかいないからだよ」
「春樹君しかいないからですか?」
「それの何が関係しているのよ?」
「よく考えてみてよ、紗耶香ちゃん。2年生や3年生の中には登録メンバー入りした人がたくさんいるんだ」
「そんなのわかってるわよ」
「3年生はもちろん、2年生が登録メンバーに入ってるのは当たり前のような気がしますけど?」
「そうなんだよ。この話がどこから流れたかわかる?」
「普通に考えれば、サッカー部の人達よね?」
「正解。1年生は春樹以外誰も登録メンバーに入ってないから、あまり話題にしないんだよ。紗耶香ちゃんだって、その話を誰から聞いたの?」
「それは2年生の先輩から‥‥‥」
「そう。メンバー入りしている当人の春樹はこんな調子だから、1年生の階ではあまり話題にならないんだよ」
「なるほどね」
「守君の説明でよくわかりました」
だから1年生の教室は静かだったのか。
正直俺としては助かっている。授業中も寝れない以上、休み時間にこうして寝れる時間は貴重だからな。
「でも、春樹は何でそんなに大人しいの? こんな快挙、中々ないわよ」
「決勝トーナメント進出は通過点だからだよ。本番はこれからだ」
姉ちゃんと約束した決勝トーナメントベスト8まであと少し。
トーナメント表に記載されているチームはどこも強豪だけど、なんとしても勝つ。
「そういえば試合中の春樹ってどうだったの? 私バスケ部で忙しくて、試合を見に行けてないのよね」
「試合に出ている春樹君、ものすごい格好良かったですよ」
「えっ!? そうなの!?」
「はい。殆どが途中出場でしたけど、どの試合も活躍していてすごく格好良かったです」
「へぇ~~、そうなの」
「ありがとう。だけど先輩達の力があってここまで来たんだから、俺の力だけじゃないよ」
俺達のチームは全員一丸をテーマに試合に臨んでいる。
決して俺1人のおかげでここまで来たわけではない。先輩達が必死に守ってくれたから、ここまで来れたんだ。
「そんな謙遜しないでください!! 春樹君は出た試合全部ゴールに絡んでるじゃないですか!!」
「待って、楓!! 何で楓が春樹の試合内容まで知ってるの!?」
「だって私、春樹君達の試合を見に行ってますから」
「え~~!! 嘘!? 何で誘ってくれないのよ!?」
「だって紗耶香ちゃんは週末バスケ部の試合で忙しって話していたじゃないですか」
「確かに楓にはそう言ったけど。私達友達じゃない!!」
「紗耶香、楓ちゃんは紗耶香ちゃんの為に気を使ったんだから、そんなに怒らないであげてよ」
「あんたにそんなこと言われなくても、わかってるのよ!! それにいつの間にあんたまで楓のこと下の名前で呼んでるの!!」
「苦しい!! 紗耶香ちゃん!! 苦しいから首を絞めないで!!」
「ちょっと、紗耶香!? 落ち着いて!!」
「そうですよ!! 周りから見られていますよ!!」
「昼ご飯を食べて、少し落ち着こう」
「そうですそうです!! 早く食べないと、休み時間が終わっちゃいます」
紗耶香が暴れているのをなんとか俺と楓で止め、机の準備をする。
椅子に座り俺達はそれぞれ昼食を食べ始めた。
「そういえば楓はいつから春樹達の試合を見に行ってるの?」
「1次トーナメントからですね」
「それってテストが終わってからすぐってこと!?」
「そうですよ。守君に場所を聞いて、試合をずっと見に行ってました」
「楓って行動力あるよね」
「そんなことないですよ。春樹君がどんな試合をしているか気になって見に行っただけです」
謙遜しているけど、俺の想像以上に楓って行動力があるよな。
姉ちゃんや玲奈の試合をよく1人で見に行っていたけど、友達の試合を1人で見に行ったことはない。
「試合の時の春樹ってどうだったの?」
「凄い格好良かったですよ!! 試合に出ている時の春樹君!!」
「そうかな?」
「そうですよ。鬼気迫るような表情をしていましたけど時には仲間のことを気遣っていて、すごく男らしかったです」
「そこまで褒めてくれると少し照れるな」
社交辞令だと思うけど、こうして直接言葉にして言ってくれると嬉しい。
姉ちゃんからはもっとこうした方がいいああした方がいいしか言われないので、あまり褒められ慣れていないのかもしれない。
「そういえば試合で思い出したんけど、楓に聞きたいことがあったんだ」
「何ですか?」
「いつも試合に行った時に親しげに話している、マスクマンって誰なの?」
俺がその話題に触れた瞬間、楓と守が硬直したのがわかった。
誰も話題にしなかったってことは、もしかして地雷を踏んだのかな。
「マスクマン? 何よ、それ?」
「マスクをした不審者だよ。俺達の試合を毎回見に来てるんだけど、この季節にマスク姿に帽子を被って眼鏡をかけてるんだよ」
「それは見るからに怪しいわね」
「そうだろ! 2人組なんだけど、片方は眼鏡じゃなくて黒のサングラスをかけてるんだぜ!! 不審者以外の何者でもないだろ」
ベンチに座ってた時に目に入ってはいたが、怖くて口に出せなかった。
たまたま楓と親し気に話していたことから、一度誰なのか聞いてみたかったのだ。
「1試合だけだったら気にならないけど、その人達が毎試合いるからさすがに怖いよ」
「何よ!! その人達!! まるでストーカーじゃない!!
「本当本当。世の中には変な人っているんだなって思う」
「あれ? 楓と守はどうしたの? そんな遠い目をして?」
「何でもないです」
「右に同じく」
さっきから黙っているし、2人共どうしたんだろう。
楓は普段から大人しいから気にならないけど、いつも率先して話す守が静かなのが不気味だ。
「守君、やっぱり止めた方がよかったんじゃ‥‥‥」
「後で俺の方からを連絡入れておくよ」
「お願いします」
「2人共、何こそこそ話してるの?」
「いや!? 何でもないよ!!」
「そうですよ!! 不審者なんていませんから!! スタンドで応援している人達はみんな仲良しですよ!!」
「そうなんだ」
2人がそう言うならそうなのだろう。
これ以上しつこく追及してもしょうがないし、ここは放って置くのがいいだろう。
「それよりも次の試合、私も応援に行くからね」
「あぁ、ぜひ見に来てくれ」
「それなら試合後、みんなでご飯にでも行きませんか?」
「いいね!! そうしよう」
「それじゃあ紗耶香はいつ来れる?」
「私は次の試合の日は空いてるから、その時に試合後ファミレスに‥‥‥」
こうして昼休みは過ぎていく。
俺達は昼休みが終わるまで楽しく談笑するのだった。
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