第51話 泥臭い男
放課後、俺達はサッカー部員は部室に集まっている。
今日は夏の大会のメンバー発表の日。この後監督から登録メンバーとなる20人が発表される。
「春樹、今の心境は?」
「そんなに期待はしてないよ」
練習も参加させてもらってはいるけど、登録メンバーにまで入れるとは思っていない。
守は自分が登録メンバー入りできると思っているみたいだけど、そんなに現実は甘くないだろう。
「全員揃ってるな。それでは夏の大会の登録メンバーを発表する」
監督が部室に入ってきて、そこでメンバー表を見ながら話す。
「いよいよか」
「緊張するな」
選ばれないとわかっていても、この瞬間は緊張する。
守と共に祈りながらメンバー発表を待つ。
「まずはキーパーから‥‥‥」
出来る限りの事はやった。後は天命を待つだけである。
監督が自分を選んでくれることを祈るしかない。それはわかっている。
「お願いだ。メンバー入りしていてくれ」
思わず小声でそう呟いてしまう。
「紗耶香や楓達も応援してくれているんだ」
「だから僕達もメンバー入りできるように頑張らないとね」
「そうだな」
それにもし俺がメンバー入りしたら、きっと玲奈も喜んでくれるだろう。
過去に姉ちゃんと一緒にいる時になりいきで玲奈にも報告していたけど、俺がレギュラーになることをすごい喜んでくれた。
「だから頼む」
間違いでもいいから呼ばれてくれ。
そう祈りながら、監督のメンバー発表を待つ。
「MFはこれで終わりだ。次はFW‥‥‥」
「あちゃ~~。僕は駄目だったみたいだな」
「1年生からベンチ入りメンバーに入れるわけないだろ? 守は考えが甘いんだよ」
「そうだけど、1年生まで呼んでこんな風に発表するなら期待するじゃん」
「まぁ、そうだな」
守の言うこともわかる。かくいう俺もベンチ入りメンバーになれないか今か今かと待つ1人だからだ。
「うちのチームって学年関係なく練習試合に出るじゃん。だから余計に期待しちゃうんだよね」
「それはわかるわ。試合で通用していると、余計にそう感じるよな」
特に俺は練習試合の何試合で先発した経験もあり、そこで数ゴール決めていた。
メンバー選びは監督の好き嫌いがあるからレギュラーとは言わない。
だけど登録メンバーには入っていてほしい。
「春樹ならいけるんじゃないか?」
「それは難しいんじゃないか?」
「何でそう思うの?」
「3年生の先輩達は2年半の間、この日の為に練習をしてきたんだ。それをぽっとでの1年生がそう簡単に奪えるわけがないだろう」
「それもそうだな」
「だから宝くじを買ったような感覚でいればいい」
1年生は基本スタンドでの応援がせきの山なんだ。俺達はどっしりと構えていればいい。
「春山」
「はい」
「ほら言っただろ? ベンチ入りなんて夢のまた夢って?」
「小室」
「だからあまり期待しすぎても仕方がないだろう」
「おい!! 小室!! 小室はいないのか!!」
「‥‥‥えっ!?」
今俺の名前を呼ばれなかったか?
聞き間違えじゃなければ、俺の名前が呼ばれた気がした。
「どうした? 小室という名前の奴はここにはいないのか!!」
「はい!! はいはいはい!! 俺はここにいます」
まさかの1年生でのベンチ入りメンバーに抜擢。
あまりに意外な人選に部員一同どよめいた。
「FWは以上だ。1年生の小室を入れたのには賛否両論あると思う。だがこの厳しい県予選を勝ち抜くには、小室のような意外性のある一芸秀でた選手も必要だと感じた」
「俺が、必要‥‥‥」
「そうだ。この群雄割拠の県予選でサプライズを起こすには小室の泥臭く狙っていくゴールへの嗅覚、泥臭い守備、そして体を張った泥臭いキープ。それから‥‥‥」
「もう大丈夫です。俺が泥臭いってことだけはよくわかりました」
監督は俺の事を褒めているのかけなしているのかわからない。
現に隣にいる守は俺の事をチラチラと見ながら笑いをかみ殺している。
「とにかく泥臭いプレーが持ち味のお前が必要なんだ!! 頼むぞ!!」
「わかりました」
釈然としないけど、何とか夏のメンバー入りはした。
レギュラーになれるかわからないけど、選ばれた以上は頑張ろう。
「それでは解散だ!! 呼ばれた者は週末の試合に向けて、しっかりと体調を整えて準備をするように。以上!!」
監督の一声で部員達は練習をする為に、部室から出ていく。
残された俺は呆然としていた。
「やったな!! 春樹!!」
「守!!」
「夏の大会のメンバー入りだぞ。もっと喜べよ」
「喜びたいんだけど、なんか現実感がなくて‥‥‥」
本当に俺が選ばれたんだよな。夢を見ているんじゃないよな?
「春樹」
「先輩!?」
「お前の泥臭いシュート、期待してるからな」
「泥臭いキープも期待している」
「泥臭いパスも」
「みんなただ泥臭いっていいたいだけでしょ!!
全員監督に感化せれたからか、俺の事を泥臭いと言い続ける。
褒めてるのかけなしているのかわからない。だけど俺に期待している事だけはわかる。
「まぁ、なんだ。俺達が言いたいのは、メンバーに選ばれたからって、そんなに気負うなってことだ、
「お前もまだ1年生なんだ。ここは先輩である俺達を頼って、お前はドーンと思いきりプレイしてくれ」
「先輩、ありがとうございます」
「いいってことよ。それじゃあ俺達は先に練習に行ってるからな」
そう言って先輩達は部室を出て行ってしまう。
どうやら先輩達はメンバー入りした俺の事を気遣ってプレッシャーを減らすために、俺のことを励ましてくれているようだった。
「いい先輩達だな」
「そうだね」
「春樹、頑張れよ。俺も応援してる」
「あぁ、がんばるさ」
忘れてはいたけど、俺はメンバーを外れた人達の思いも一心に受けている。
だからその人達の思いも背負って戦わないといけない。
「そういえばさっき春樹は泥臭い泥臭いって言われていたけど、まるでどぶねずみみたいだな」
「守、言い方!! 言い方に注意しろ!!」
「悪い悪い。冗談だって」
「冗談になってないから言ってるんだよ」
守は手元のスマホをじーっと眺めている。
そして何か連絡が来たのか、スマホを操作し始めた。
「守? 何でスマホを見ているの?」
「ちょっとな」
スマホを操作し終えると、そのまま守は自分の鞄にしまう。
何をしていたかはわからないけど、その行動が少し不気味に思った。
「それじゃあそろそろ練習に行こうか。泥臭い春樹」
「泥臭い言うな!!」
こうして俺は守や先輩からいじられながら、練習に向かう。
その後しばらくの間、泥臭さが持ち味の春樹ということが周りに浸透するのだった。
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