第50話 テスト結果発表

 テストから数日後、今日はテスト結果が発表される運命の日。

 発表される前の教室で、俺は1人でびくびくしていた。



「春樹そろそろ廊下に張り出されるから、見に行こうよ」


「そうだな」



 俺達の学校では廊下にある掲示板に学年20位以内点数が張り出される。

 その中に俺の名前がないと終わりだ。玲奈との仲を姉ちゃんに引き裂かれてしまう。



「あっ、春樹!! 遅いよ!!」


「紗耶香に楓。もう見に来てたの?」


「はい。紗耶香ちゃんにせかされて、張られた直後に見に来ました」


「紗耶香ちゃんはランキングに載っているはずないのに、よくここに来たね」


「うるさいわね、守!! 何かの間違えで載っているかもしれないじゃない」


「間違って載るぐらいの点数だって事がわかってるんだよな?」



 ということは紗耶香は自分の得点が低いことがわかっているのだろう。

 紗耶香が赤点じゃないことを祈るばかりだ。



「一体私達は何位なのかしらね」


「大丈夫。紗耶香ちゃんの名前が載っていることはないから」


「ちょっと、守!! どういうことよ!!」



 紗耶香と守の恒例となった喧嘩。止めるのも面倒くさいので、放って置くことにする。



「小室君は20位以内に入っていると思いますか?」


「正直微妙なラインだな」



 帰ってきた答案用紙の点数は過去最高によかったけど、20位以内に入っているかと言われると微妙なラインだ。

 姉ちゃんに話した時も首をひねられたので、ランキング入りしているかわからない。



「果たして俺の名前は載っているのか不安だ」


「大丈夫ですよ。春樹君はあんなに頑張っていたんですから」


「ありがとう、楓」


「いえいえ。それよりも早く掲示板の方に行きましょう」


「そうだな。守達も早く掲示板に行こう」


「わかった」


「ちょっと、守!! まだ話が終わってないわよ!!」



 守達と一緒に掲示板に近づく。掲示板には色々な人のクラスと名前が並んでいる。



「頼む!! 20位以内に入っていてくれ!!」



 姉ちゃんとの約束で20位以内に入らなければ、玲奈のことをあきらめないといけない。

 諦めるだけじゃない。姉ちゃんが紹介するイケメンと玲奈は付き合ってしまう。



「それだけは絶対に阻止しないと‥‥‥」



 奇跡でもいい。頼むから20位以内に入ってくれ。



「あっ!? 僕7位だ」


「嘘!? 守ってそんなに頭がよかったっけ?」


「ちゃんと勉強していたからだよ。紗耶香ちゃんと違って」


「私だってちゃんと勉強していたわよ!! 今回赤点だってなかったんだから」


「紗耶香ちゃん、赤点がなかったんですか!?」


「何で楓が驚いてるのよ」


「だって中学時代、ボロボロの成績だったじゃないですか」


「ボロボロの成績って、よくこの学校に入れたな」



 曲がりなりにもそこそこ頭のいい進学校。

 俺が言えた義理ではないけど、紗耶香もよくこの学校に入れたな。



「中学3年から、この学校に入る為に紗耶香ちゃんの勉強を見てましたので」


「楓にはあの時ものすごいお世話になったわ。それはそれは猛勉強をしていたから」



 しみじみと話す紗耶香。どうやら中学時代相当勉強を頑張ったみたいだな。



「何で紗耶香ちゃんはこの学校にこだわってたの?」


「別にこだわっていたわけではないけど」


「でも、この学校に入る為に勉強を頑張ってたんでしょ?」


「まぁ、そうだけど‥‥‥」



 どうやら紗耶香にもこの学校に入りたかった理由があるらしい。

 一体それはどういう理由だろう。



「だって、この高校には美鈴先輩がいたじゃない」


「美鈴先輩って、姉ちゃんのこと!?」


「そうよ。たまたま先輩のバスケの試合見に行った帰りにその近くの会場でバレーの試合もやっていたから見に行ったのよ」


「そこで姉ちゃんを見つけたのか」


「そうね」



 紗耶香が入学した時にやけに姉ちゃんのことを話していたのはそういうことなのか。

 なんだか紗耶香が姉ちゃんに憧れていた理由が何となくわかった。



「でも、何で紗耶香ちゃんはそこまで美鈴さんに憧れていてバレー部に入らなかったの?」


「恐れ多かったからよ。今までずっとバスケをやっていたのに、バレーをやって美鈴先輩の足を引っ張るような真似をしたくないじゃない」


「姉ちゃんはそんなことで文句は言わないと思うけどな」



 むしろかわいい子が来たって喜ぶだろう。

 長年姉ちゃんの弟をやってきた俺の判断だ。間違いない。



「いいの。私はずっとバスケをやっているのだから、バスケ部で」


「それよりも点数を確認しましょう」


「そうだな」



 再び俺達は掲示板を見る。そして掲示板を見て、自分の名前を探す。

 掲示板を上から見るが、中々自分の名前はない。



「私の名前がなかった」



 どうやら紗耶香はランキングに入ってなかったらしい。

 入っていないことがわかっても、少し悔しそうな表情をしているように見えた。



「楓は‥‥‥1位じゃない!! やったわね!!」


「1位!?」


「すごい!! めっちゃ頭いいじゃん!!」


「ありがとうございます」



 楓も1位を取れてうれしいのか喜んでいる。

 俺の家での勉強会やファミレスで楓とも勉強して頭がいいことはわかっていたけど、ここまで頭がいいとは思わなかった。



「さて、春樹は一体何位なのかな?」


「頼む!!」



 紗耶香も一緒に探してくれているけど、中々俺の名前は見つからない。



「1位~10位には春樹の名前はないわね」


「くそ!!」



 どうやら俺は1位から10位以内には入っていないようだ。

 残りは11位~20位の間になる。



「もしかすると春樹も私と同じ圏外なんじゃない?」


「不吉なこと言うなよ!!」



 かえって来た答案用紙は過去1ぐらいの成績だったのに。

 絶対に上位に入っているはずだ。



「頼む!! 20位以内に入っていてくれ」



 祈るように20位から下を見ていく。

 19位、18位、17位。一番有力とされていた順位で俺の名前はない。



「もしかして‥‥‥ランキングに入ってないのか?」



 そんな絶望感さえ襲ってくる。

 過去一成績がよかったとはいえ、これ以上の順位は見込めない。



「あっ!? 春樹君の名前、ありましたよ!!」


「どこ!? 俺はどこにいる!?」


「あそこです。10位以降の順位の一番上」



 そこにかかれていた順位を見て驚いた。それは1位のすぐ横に書かれていた。



「俺の順位‥‥‥11位!!」


「凄いですよ!! 春樹君!!」


「やった‥‥‥20位以内に入った‥‥‥」



 当初姉ちゃんとの目標にしていて10位以内には入れなかったけど、なんとか20位以内に入ることが出来た。

 目標も達成したし姉ちゃんとの約束は果たされた。これで玲奈がイケメンと合コンをすることはない。



「よかったぁ~~」


「やけにほっとしてるわね」


「まぁ、姉ちゃんに教えてもらっていた手前ちゃんと結果は出さないとな」



 今言ったことは建前で、本当の理由は玲奈と一緒だからだ。

 俺がほっとしていると駆け寄ってくる人影が見えた。



「春樹!」


「玲奈!!」


「春樹の成績凄かったね」


「それほどでもないよ。玲奈は何位だったの?」


「私は10位だよ」


「10位か」



 テスト結果を見ると、確かに玲奈は10位だ。

 掲示板の下の方に名前が載っていた。



「私達の順位って近かったんだね」


「そうだな」



 どうやら俺と玲奈は隣り合った順位だったらしい。

 隣り合っていたのか。俺達は。



「なんだかんだこうして順位が近いと親近感がわくな」


「うん」



 まさか玲奈と同じ順位に並べるなんて。

 正直嬉しい以外の言葉が出ない。



「玲奈ちゃんも凄いですね」


「楓程じゃないよ」


「そうだ。春樹。次の勉強会は玲奈ちゃん達も呼ぼうよ」


「それもいいかもな」


「私も一緒にいていいの?」


「当たり前でしょ!!」


「そうですよ。玲奈ちゃんも頭がいいですし、皆で勉強会をした方がはかどります」


「そう。2人がそう言ってくれるなら私も参加したい」


「じゃあ今度は皆でやりましょう」


「いいね。玲奈もちゃんと予定を空けといてね」


「うん。あけとく」



 玲奈の様子を見るに、以前よりも紗耶香や楓と打ち解けたみたいである。



「よかったな、玲奈」



 玲奈に姉ちゃんの他に仲のいい友達ができて俺も嬉しい。

 正直よく姉ちゃんといるので、友達がいるか心配だった。



「せっかくだから美鈴先輩も呼ぼう」


「えっ!?」


「美鈴さんもいれば勉強も更に捗るでしょ?」


「ねっ、姉ちゃんも呼ぶの!?」


「何かまずかった?」


「いや、まずくはないけど‥‥‥」



 姉ちゃんは何をするかわからないからな。

 もし本当に呼ぶなら、注意しないといけない。



「じゃあ決まりね。春樹は期末テストが近くなったら美鈴さんにも声をかけてね」


「‥‥‥わかった」



 あんまり誘いたくはないけど、仕方がないだろう。

 紗耶香の要望に応えるしかない。



「確か今日の放課後に夏の大会のメンバー発表もあったよね?」


「そういえば、そうだな」


「春樹、頑張るんだよ」


「メンバー入りを決めたら、連絡をくださいね」


「わかったわかった。だけど可能性は低いから期待はしないでよ」



 それから俺達はしばらく廊下で話し合う。

 休み時間を終了を告げる鐘がなるまで、俺達は楽しくおしゃべりを続けるのだった。



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