第49話 テスト最終日

『キーンコーンカーンコーン』


「よし、全員筆記用具を置いて答案用紙を前にまわすように」



 先生の合図を聞いて、俺はテスト用紙を前にまわす。

 今日がテスト最終日。これで全て終わったと思うと、体から力が抜ける。



「春樹」


「紗耶香、どうしたんだよ?」


「今日のテストどうだった?」


「またそれかよ。毎日聞いてない?」


「別にいいでしょ!! 気になるんだから」



 紗耶香は何故か俺のテスト結果が知りたいらしい。

 こうして毎日のように俺の所に来て聞いてくる。



「テスト結果か。まぁ、ぼちぼちかな」


「私も!」



 全身の力が抜けて疲れ切っている俺とは対照的に、紗耶香はやけに元気そうである。

 俺は毎日寝不足なのに、いい御身分だ。



「紗耶香はいつも元気だな」


「そりゃそうよ。だってやっとテスト期間が終わったんだよ」


「それもそうか」



 今日でやっと俺も姉ちゃんから解放される。

 あの姉ちゃんとの辛かった勉強会も、今日で終わりだ。



「小室君、お疲れ様です」


「友島さんこそ」


「はい。さすがにちょっと疲れました」


「友島さんも?」


「はい。小室君もお疲れのようですね」


「まぁね」



 友島さんもいつもとは違いどこか疲れている様子。

 疲れているというよりはほっとしているのかな。



「やけに自信があるようだけど、紗耶香は赤点は大丈夫なの?」


「もちろんよ」


「やけに自信満々だな」


「だってこのテスト期間中、楓先生にみっちり教えてもらってたんだから」


「なるほどな」



 友島さんがどうしてこんなに疲れているのかわかった。

 根気強く紗耶香の勉強を教えていたからだな。



「友島さんも苦労しているね」


「小室君程でもないですよ」



 どうやら友島さんも俺の事情を何となく把握しているようにも見える。

 今なら友島さんと苦労を分かち合えるかもしれない。



「みんな、集まってるね」


「守。今日はやけに遅い登場だな」


「まぁ、ちょっと色々あってね。それよりも紗耶香ちゃん、そんなに元気だってことはもしかして赤点だから?」


「ちょっと守!! いきなり来て何を言うのよ!!」


「あぁ、悪い悪い。まだ期末テストもあるから補習になるかはわからないよね」


「ちょっと!! まだテスト結果も帰ってきてないのに、赤点だって決めつけないでよ!!」



 俺と友島さんの前で、流れるように喧嘩を始める紗耶香と守。

 ギャーギャーと騒いでいて、正直うるさい。



「小室君!? どうしましょう?」


「あの2人は放って置いて大丈夫だろう」


「でも‥‥‥」


「変に介入して、こっちに飛び火してきたらそれこそ大変だよ」


「確かに」


「ここは2人の事を見守ろう。2人にとって、これはスキンシップと同じだから」


「わかりました」



 友島さんも同意したし、あの2人の事は放って置こう。

 今も言い合いを続ける2人をしり目に、俺は友島さんに向き直る。



「そうだ。友島さんにはお礼を言わないと」


「えっ!? 何がですか!?」


「この前友島さんが勉強を教えてくれたおかげで、結構いい点が取れそうだから」


「本当ですか!」


「うん、本当だよ」


 友島さんが勉強を教えてくれたおかげで、苦手だった数学も手ごたえはバッチリだった。

 だから友島さんには感謝しかない。



「ありがとう、友島さん。俺に勉強を教えてくれて」


「こちらこそですよ。あの時小室君に英語を教えてもらったおかげで、私もいい点数が取れそうです」


「うん。じゃあお互いあの勉強会は有意義な時間だったってことだね」


「はい」


「それならよかった」



 正直俺だけが得する勉強会だと思ったけど、友島さんにもいいことがあってよかった。

 これならまたファミレスで勉強会をしてもいいかもな。出来ればまた守のおごりで。



「そういえば、この後小室君は時間ありますか?」


「ごめん、今日は部活があるんだよ」


「テスト明けも部活があるんですか!?」


「うん。もうすぐ夏の大会があるから、それに向けて練習をしないといけないんだよ」



 このテストのすぐ後に夏の大会が始まってしまう。

 登録メンバーを決める為のレギュラー選考もあるので、実はめちゃめちゃ忙しくなる。



「小室君はレギュラーになれそうなんですか?」


「それは難しいと思うよ。まだ3年生もいるから」


「1年生でレギュラーになるって大変なんですね」


「うん。特にこの学校のサッカー部って中途半端に強いから、1年生じゃ登録メンバーに入るのも難しいと思う」



 全国大会にはいけないけど決勝トーナメントには必ず入る、超中途半端な高校。それが俺のいる高校だ。

 確かに強豪高校と言えば強豪ともいえなくもないが、都道府県を代表する高校かといえば微妙なレベルの中堅高校だった。



「でもでも、ベンチ入りメンバーに入れば小室君が試合に出る可能性もあるんですよね?」


「まぁ、その可能性はゼロではないけど‥‥‥」


「それじゃあ私、小室君がベンチ入りメンバーに入ったら応援に行きます」


「友島さん!?」


「だから、小室君は絶対に試合に出てくださいね」


「あぁ、まぁ‥‥‥頑張るよ」



 正直レギュラーどころかベンチに入れるか微妙なラインだけど、入れる可能性はゼロではない。

 ゼロではないなら頑張るしかない。登録メンバーに残る為に。



「あの‥‥‥小室君」


「どうしたの? 友島さん?」


「私も紗耶香ちゃん‥‥‥みたいに‥‥‥君って‥‥‥」


「何だって?」


「私も‥‥‥私も紗耶香ちゃんみたいに、春樹君って読んでもいいですか!!」


「友島さん!? 声!? 声が大きいよ!!」


「あっ!? すいません!!」



 クラス中に聞こえるぐらい大きな声で、友島さんは話してしまった。

 そのせいで周りも俺達のことを注目してしまう。



「待って!? 何でもないから!? だからこっちを見なくても大丈夫だよ」


「なんだ。てっきり面白いことが起きてると思ったのに」



 誰かがぼそっと声を上げると、興味をなくしたのか俺達から背を向けてしまう。

 正直助かったのだけど、その事を億尾にも出さない。



「すっ、すいません。小室君!?」


「別に大丈夫だよ」


「そのですね、先程の事なんですけど、大した意味はないんですよ。小室先輩と小室君を呼び分けるのに同じ呼び方だと紛らわしいってことで‥‥‥」


「うん、大丈夫だよ。理由はわかるから」



 中学の時も周りから同じことを言われた。

 それから男女関係なく、周りの人達は俺の事を下の名前で呼ぶようになったのだ。



「それじゃあ‥‥‥春樹君」


「何?」


「私、春樹君の試合見に行きますね」


「あぁ。応援してもらえると俺も嬉しい」


「わかりました。あっ!? ちなみに私の事もこれからは楓って読んで下さいね」


「えっ!?」


「よ・ん・で・く・だ・さ・い・ね」


「わかった」



 友島さんからの謎の圧力を受けて俺はおののいてしまう。。

 俺はともかく、友島さんの呼び方はそのままでいいような気がするけど気のせいなのかな。



「あらあら、私達が知らない間に青春が繰り広げられているわね」


「本当だ。僕達が喧嘩している間に、仲睦まじく」


「ちょっ!? 茶化すなよ!! 2人共!?」


「はぁ、僕にも早く春が来ないかな」


「選び放題より取り見取りのくせに何言ってるんだよ!!」


「ふん。春樹には僕の気持ちなんてわからないんだ!!」


「何で守が切れてるんだよ!! そもそもお前は‥‥‥」



 その後俺は帰りのホームルームが始まるまで、守と言い合いを続ける

 後になって気づいたことだけど、俺と友島さんの会話はクラス中の人達が聞いていたらしくサッカー部に行った時部員全員からいじられるのだった。


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