第45話 鞭と鞭ときどき飴
ファミレスで紗耶香達と別れた後、俺は自分の家へと向かう。
途中まで守と一緒にいたが帰り道が違うので、近くの交差点で別れた後一人っきりで歩いている。
「ふぃ~~、今日は勉強がはかどったな」
友島さんに勉強を教えてもらったおかげで、いつもよりも効率的に勉強できた。
この前の勉強会でもそうだったけど、友島さんは本当に教えるのが上手いな。
「正直姉ちゃんと勉強するより効率がよかったかも」
鞭をひたすら振るわれるよりは断然いい。たまには飴がないとさすがに俺も疲弊してしまう。
「友島さんのおかげで明日のテストへの自信がついた。今日の夜は軽く復習するだけでいいか」
あれだけ重点的に勉強すれば明日のテストも大丈夫だろう。
昨日はあまり眠れなかったし、今日はゆっくり家で休もう。
「さて、家に着いたぞ。鍵は確かポケットにあったはず」
ポケットから鍵を取り出し、家の鍵穴に入れる。
鍵を開けたことを確認し、俺は気分よく家のドアを開けるのだった。
「ただいま!」
「おかえりなさい。春樹」
玄関を開けた時、俺の目の前に現れたのは地獄の番人。その名も姉ちゃん。
いつもの超激ダサないもジャーに眼鏡をかけ、長い髪は頭の上でまとめている部屋仕様。
学校で見る女神様姿は見る影もない。今はただの芋娘のように見える。
「ねっ、姉ちゃん!?」
「あら、春樹。どうしたの? そんなに怖がって?」
俺の帰りを首を長くして待っていたのか、姉ちゃんが腰に手をあてて仁王立ちをして待ち構えていた。
その気迫に一瞬後ずさってしまうがもう遅い。家に入ってしまった時点で俺の逃げ場はない。
「それにしても遅かったじゃない、春樹。こんな時間まで一体どこで油を売っていたのかしら?」
ニコニコと笑う姉ちゃんだけど、その威圧感は半端ない。
玄関にたたずむその姿は、まるでこれから何かの厳罰を与えようとするう執行人のようなにも見えた。
「いや、これはちょっと‥‥‥ファミレスで勉強会を‥‥‥」
「ファミレス? 今の貴方にファミレスに行くお金なんてあるのかしら?」
「ぐっ!!」
鋭い。確かに今朝姉ちゃんにコンビニでたかられたせいで、俺の財布の中身ではファミレスに行く余裕はない。
だが、俺にだって言い分はある。ちゃんと理由を説明すれば、姉ちゃんもわかってくれるはずだ。
「春樹、言い訳はやめなさい」
「言い訳じゃないって!?」
「じゃあどうやってファミレスに行ったの? お金もないのに?」
「それは守が奢ってくれたからで‥‥‥」
「守君?」
「そうだよ!! 守が奢ってくれるって言ったから、ファミレスで勉強会をしていたんだよ!!」
守の言葉が出てきた瞬間、姉ちゃんはいぶかし気な表情をした。
それから何か考えこむような仕草をし、ぶつぶつ何かを唱えている。
「やっぱりあの子は油断ならなわね。こうなったら今度しっかりと制裁を加えて社会的に抹殺を‥‥‥」
「姉ちゃん!? 1人でぶつぶつ言ってどうしたの? 気持ち悪いんだけど?」
俺が気持ち悪いと言ってるのに、姉ちゃんは独り言をやめない。
どうやら俺の言葉が届いていないみたいだ。
「春樹」
「サー!! イエスマム!!」
「意味の分からない返事をされてもわからないんだけど、もしかしてその勉強会って紗耶香ちゃんや楓ちゃんもいたの?」
「まぁ、そうだけど‥‥‥」
「なるほどね。そういう事か」
勉強会の話を聞いた瞬間、姉ちゃんからの威圧感が一段階上がった気がした。
上がった気がしたじゃない。確実に一段階以上は上がっている。
「私
「それは先に守達が俺の事を誘ってくれたからで‥‥‥ちょっと待って、姉ちゃん!? 今私
姉ちゃんは無言で俺を睨みつける。
でも姉ちゃんのあの口ぶりからして、他に誰かいるんだろう。そうとしか思えない。
「誰かいるなら、今日の朝伝えてくれればいいじゃん!!」
「どうせお金のないあんたの事だから、真っすぐ家に帰ってくると思ってたのよ!!」
「何だよ、その偏見!?」
「偏見じゃないわよ!! 普通ファミレスで人の分まで奢るなんて考える高校生、いるわけないでしょ!!」
「確かにな」
あれは守だからできる芸当であり、普通の人じゃ絶対にそんなことはしてくれないだろう。
「未来を予測できる姉ちゃんからしても、この状況は予想外だったってことか」
「当たり前でしょ!! どんなに安い場所でも1000円以上はかかるのに、自分の貴重なお小遣いを使って他人に奢る人なんているわけないでしょ!!」
「至極真っ当な意見だ」
つまり守は生粋の変人だってことだ。
哀れ守。ファミレスで全額負担した挙句、姉ちゃんまで敵にまわすなんて。
明日学校であったら少しは優しくしてやろう。そう心に誓った。
「そういえば姉ちゃん、勉強会をしていたって言ってたけど、一体誰と勉強会をしていたの?」
「私以外でこの家にい来る人なんて1人しかいないでしょ」
「姉ちゃん以外でこの家に来る人‥‥‥もしかして‥‥‥」
「私だよ」
俺がその人物を思い浮かべた瞬間、リビングから顔を出す人物がいる。
その人物は俺がよく知っている俺の思い人でもある。
「れっ、玲奈!?」
リビングのドアから顔を半分出した状態の玲奈が俺の事を見ている。
一見無表情で何を考えているわからないけど、玲奈専門家を謡う俺には玲奈の感情がわかってしまう。
「もしかして玲奈‥‥‥怒ってない?」
「‥‥‥何が?」
駄目だ完全に怒ってる。何故怒っているかわからないけど、下手をすれば姉ちゃん以上に怒ってる。
「今日は学校終わりに私が玲奈を招待して勉強会をしていたのよ」
「勉強会!? それも2人で!?」
「そうよ」
大体話がわかった。どうやら姉ちゃんが気を利かせて玲奈を呼んでくれたみたいだ。
きっと俺と玲奈の仲を深める為に呼んでくれたのだろう。
だからこうして首を長くして待っていてくれたのだ。
「でも、それならそれで俺に連絡をくれても‥‥‥」
「文無しのあんたには連絡なんて入れなくても、真っすぐ家に帰ってくると思っていたのよ!! あれだけ薄ら寒い財布を持っていたら、普通そう思うでしょ?」
「確かにな」
姉ちゃんの言っていることに対して妙に納得してしまった。
現に俺は金欠なのをいいことに、一度守達との勉強会を断ったという経緯がある。
だからあながち姉ちゃんの言っていることも間違ってはいない。
「それでも‥‥‥それでも一言連絡をしてくれれば、俺は家に戻ったのに‥‥‥」
「何度も連絡はしたわよ!! あんたが電話を取らないのが悪いんじゃない!!」
「嘘!? 電話していたの!?」
「何であんたが驚いてるのよ。そもそもスマホはどこにやったの?」
「やばっ!? スマホは鞄の中だ!!」
勉強会の邪魔になると思って、スマホはマナーモードにして鞄に入れたままだった。
慌てて鞄からスマホを出したが、時すでに遅し。画面には大量の着信履歴がのっていた。
「うわっ!? こんなに連絡してたんだ」
「私だけじゃなくて、玲奈からも電話が来ているはずよ」
「嘘!?」
「嘘じゃないわよ。履歴を確認してみなさい」
姉ちゃんに促され履歴を確認してみると、確かに玲奈からの電話もある。
むしろ玲奈からの着信が多いんじゃないかって程だ。
「俺は‥‥‥俺は何でこの電話に出なかったんだ‥‥‥」
「何であんたが後悔しているのよ」
「だって玲奈と一緒に勉強するチャンスだったんだよ。それをふいにするなんて、俺はなんてついていないんだ」
後悔先に立たずとよく言うけど、こういう事を言うんだな。
玲奈と勉強できることがわかっていれば、もっとあそこで強く断っておくべきだった。
「あんたがそう思ってるなら、しょうがないわね」
「えっ!? 姉ちゃん!? 何か言った?」
「何でもないわよ。それよりもそんな所にいないで、早くお風呂にでも入ってきなさい」
「えっ!? 何で!?」
「玲奈とこれから夕ご飯を食べるのよ。もう準備はしてあるから早くしなさい!!」
よくわからないけど、どうやら夕食は既に準備してあるようだ。
そして玲奈と夕ご飯‥‥‥もしかしてこれって‥‥‥。
「そうか。今日は勉強しすぎたから頭が疲れすぎてしまって、俺は幻覚を見ているんだな」
「貴方の頭がどれだけおっぱっぴーなのかわからないけど、これは全て現実よ」
玄関の前であきれた姉ちゃん。大きなため息をついて、俺の事を見ている。
「着替えは私が準備してあげるから、貴方はこのままお風呂に行ってきなさい」
「大丈夫だよ。着替えぐらい自分で‥‥‥」
「いいから!! 早くお風呂に行きなさい!!」
「はい!!」
姉ちゃんが激怒する前に、俺は急いで風呂場へと向かう。
慌てて風呂に入る準備をして、俺は急いで湯船に浸かるのだった。
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