第37話 食事をシェアーしよう

「買った、買った。いっぱい買っちゃったわ。こんないいものが買えるなんて、今日はついてるわね」



 買い物が一通り終わり昼食の為に入ったイタリアンレストラン。

 その中で姉ちゃんはふんぞり返り、満足そうに買い物袋を叩きながら笑っている。



「ちょっと春樹、こんなに楽しいショッピングなのに何でそんなに俯いているのよ!!」


「少し疲れただけだよ」



 主に姉ちゃんが買った荷物のせいでな。

 玲奈のなら土下座してでも荷物持ちに立候補させてもらうが、俺が持っている手荷物の殆どが主に姉ちゃんの私服である。

 自分用の服だけならはまだしも姉ちゃんが購入した服まで全部持たされているのだ。

 しかも俺よりも多くの服を買っているのだから質が悪い。



「それにしても今日の姉ちゃん、めちゃめちゃテンションが高くないか?」


「きっと美鈴さんも楽しんでるんじゃないかな?」


「楽しんでるね」



 こんなニッコニコの姉ちゃん、普段はなかなかみられない。

 学校でも笑っている所をよく見るけど、いつもの姉ちゃんとはかけ離れてるのでカウントに入らない。



「学校でもよく笑ってるけど、全然雰囲気が違うもんな」



 なんというか、今みたいな親分みたいな笑い方じゃなくて小動物がクスっと笑う感じである。

 たまに姉ちゃんの姿を見るけど、あの笑い方をしている時はむしろストレスが溜まってるんじゃないかとハラハラする。 



「それにしても、やっぱりこのショッピングモールっていいお店が揃ってるわね」


「うん、他の所と比べても多いと思う」


「玲奈もこのショッピングモール気に入った?」


「うん、また今度来る」


「そうね、また一緒に来ましょう」



 女3人寄れば姦しいというが、2人だけでも充分姦しい。

 いや、姉ちゃんだけでも姦しいか。学校以外では世界は私を中心に動いていると豪語しているからな。

 ある日突然俺の部屋に来て、一通り文句を俺に言った後ドヤ顔でそのフレーズを言ったのでドン引きした覚えがある。



「春樹も今日の買い物はよかったでしょ?」


「まっ、まぁな」


「全く歯切れが悪いわね。これ、少しもらうわね」


「あっ!? 俺のパスタ!!」



 俺の皿にフォークを押し付けると、そのままぐるぐるとまわし勝手に取っていく。



「おいしい!」


「俺が楽しみにしていたカルボナーラが!?」



 姉ちゃんと話していたせいでまだ一口も食べてないのに。

 くそ、どこまで強欲なんだよ。うちの姉ちゃんは。



「しかも今の一巻で1/3のカルボナーラが持ってかれた」


「上にのっていた半熟卵もしっかりいただいたから」


「くそ!!」



 俺の楽しみにしていた半熟卵まで!!

 せっかく自分で黄身を割った後、パスタに絡めて食べようと思っていたのに。



「春樹」


「玲奈、どうしたの?」


「もしよかったら、私の一口食べる?」


「いいの!?」


「うん。せっかくだからシェアーしよう」



 そう言って玲奈が自分のパスタが入った皿をちょこんと前に出す。

 玲奈のパスタはナスやカボチャを使った野菜のパスタ。

 トマトベースのいい匂いが漂ってきて、見るからにうまそうだ。



「本当にいいの?」


「うん」


「それじゃあいただきます」



 玲奈の皿にフォークを突き刺し、一口いただく。

 口に含むとトマトのこくと香りが口の中に充満し、凄くおいしかった。



「うまい!」


「本当?」


「本当だよ。玲奈も俺の一口食べる?」


「うん」



 玲奈は俺のカルボナーラの皿にフォークを指すと、それを口に入れる。

 パスタを租借し始めると目を見開く。その様子は玲奈には珍しく驚いているように見えた。



「おいしい」


「マジで!? 俺も食べてみよう」



 俺もカルボナーラを食べてみるがうまいの一言に尽きる。

 玲奈のパスタもうまかったが、これも中々のものだ。



「私そっちのカルボナーラの方が好きかも」


「そしたら半分わけようか?」


「いいの?」


「もちろんだよ。すいません、店員さん。取り皿ください」



 店員に頼み取り皿を2つもらう。もらったお皿にカルボナーラを盛り付けていく。



「玲奈、はい。これ」


「ありがとう。そしたら私のも半分あげる」


「いいの!?」


「うん。半分もらったから、そのお返し」


「ありがとう」



 まさか玲奈がパスタを半分シェアしてくれるなんて。超うれしい。

 小皿をもう2枚店員さんに頼んで持ってきてもらい、皿に取り分けた。



「玲奈が頼んだパスタもおいしいな」


「うん、春樹のもおいしい」


「特にこの茄子。パスタを和える前に素揚げしてるでしょ?」


「多分そうだと思う。他の野菜もひと手間加えたものになってる」



 それだけこのパスタにこだわりがあるのだろう。

 料理人がどれだけこのパスタに入れ込んでいるかわかる。



「春樹のも卵がたっぷりかかっていて凄くおいしい」


「うん。チーズも多すぎず少なすぎずでちょうどいいから、チーズがあまり得意でない人もおいしく食べれそう」


「このお店を選んで正解だったな」


「うん、美鈴さんありがとう」



 姉ちゃんのことを褒めるのは癪だが、相変わらず選ぶ店はセンス抜群だ。

 洋服屋といいレストランといい、姉ちゃんが選ぶ物にははずれがないな。



「気に入ってもらえて何よりだわ」


「そういう割には不機嫌そうだけど」


「別に。あんたと玲奈が仲良くしていてるのが、死ぬほどむかつくわけじゃないから」


「本音が駄々洩れてるよ!?」


「うるさいわね!!」


「姉ちゃん、それ俺のカルボナーラ!?」



 我が姉は再び俺の皿にフォークを差し込むと、俺のカルボナーラを奪われる。

 玲奈に上げた分を抜くと残りの1/3殆どが姉ちゃんのフォークに持ってかれていく。



「ちょっ、待って!! 俺が頼んだカルボナーラ殆どないんだけど!?」


「別にけちけちしなくてもいいじゃない。あっ、すいません。この季節のピザを追加で」


「さらに注文までするの!?」



 待って、ここの会計は誰がするの?

 もちろん割り勘だよね? そうだよね!?



「もちろんよ。玲奈もせっかくだからピザ食べたいでしょ?」


「うん」


「即答!?」



 姉ちゃんもよく食べる方だが、玲奈も食欲は負けてないな。

 その華奢な体のどこにパスタとピザが入るんだよ!?



「そしたらピザを半分こしましょう」


「待って、姉ちゃん。俺の分は?」


「もちろんないに決まってるじゃない」


「酷い!!」


「大丈夫だよ、春樹。私の少しわけてあげるから」


「玲奈」



 捨てる神がいれば拾う神あり。まさに今この時玲奈が女神さまに見えた。



「すいません、店員さん。このマルゲリータも追加でお願いします」


「まだ食べるつもりなの!?」


「そうよ。もし残ったら全部あんたが責任を持って食べなさいよ」


「横暴だ!! ここに暴虐の王がいるぞ」


「私は王じゃないわよ。女王よ」


「暴虐は否定しないんだな」



 そこは姉ちゃんらしい。ちゃんと自分の立ち位置をわかってらっしゃる。



「こうなったら今日は徹底的に食べて食べて‥‥‥食べて遊びましょう」


「食べてってワードが少し多すぎない!?」


「玲奈好きなだけ食べていいわよ。なんでも頼みなさい」


「それならこのデザートも‥‥‥」


「まだ食べるの!?」



 姉ちゃんと玲奈の食欲に驚愕しながら、昼食はつつがなく過ぎていく。

 結局姉ちゃんと玲奈が残した分のピザは俺が美味しくいただくのだった。



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