第33話 忘れた頃に襲われる

 あの騒ぎの後があった後も勉強会は粛々と進んでいく。

 わからない所は玲奈と友島さんに教えてもらったおかげで、いつもよりも勉強が捗っていた。



「もう夕方ね。今日はこの辺で終わりにしましょうか」


「そうですね。もういい時間ですし、そろそろ私達もお暇しましょう」


「えっ!? もうそんな時間!?」



 時計を見ると既に時刻は17時を回っている。

 勉強に集中していたせいか、時間が過ぎるのがあっという間だった。



「今日はやけに時間が過ぎるのが早い」


「本当です。まださっき来たばかりに思えます」


「そう思えるのは貴方達が集中して勉強してたからよ。きっといつもより効率よく勉強できていたのね」


「そう言われるとそうかも」


「私もです。いつもより全然集中できました」


「俺も」


「実りのある勉強会になってよかったじゃない。春樹、皆に感謝しないとね」


「もちろんだよ」



 姉ちゃん達が乱入して来た時はどうなることになるかと思ったけど、結果的にいてもらってよかったと思う。

 友島さんや玲奈が説明に困っていた応用問題等を姉ちゃんがわかりやすく解説してくれたおかげで、勉強が苦手な俺もちゃんと理解することができた。



「それじゃあ私達はそろそろお暇しますか」


「そうですね。あまり長くいても、小室君達の邪魔になるかもしれませんし」


「美鈴さん、僕達はこれで帰るね」


「玄関まで送ってくわ」


「ありがとうございます」



 帰る準備ができた紗耶香達を俺達は玄関まで送る。

 玄関に着くと紗耶香達が自分達の靴を履く。



「それにしても今日は収穫だったわ」


「何が?」


「まさか春樹は私のことをそんな風に見ていたとは。これからは用心しなきゃね」


「だからあれは誤解だって言ってるだろう!!」



 勉強会の最中から散々訴えていたけど、その訴えは姉ちゃんと言う裁判官の前にことごとく棄却されている。

 話題に出す度に紗耶香に散々胸のことをいじられ、玲奈と友嶋さんの絶対零度の視線を受けるという羞恥プレイを受けていた。



「いくら私の胸に興味があるからって、学校でも私の事をエッチな目で見るなよ(笑)」


「見るか!!」


「にしし~~。冗談だってば、冗談」


「紗耶香のいう事は冗談に聞こえないんだよ」



 ゴールデンウイーク明けに俺が紗耶香の胸をガン見していたとがクラス中に広まっていてもおかしくない。

 そうなると俺のあだ名がおっぱい星人とつけられてしまう。紗耶香は言わないと言っているけど、その辺りは注意しないといけない。



「それにしても、まさか美鈴先輩や玲奈ちゃんと一緒にお勉強ができるとは思いませんでした」


「私も私も。美鈴先輩とこうして談笑することができてうれしかったです」


「私も今日は紗耶香ちゃん達とたくさん話すことができてうれしかったわ」


「美鈴先輩」


「今日は来てくれてありがとう、紗耶香ちゃん。おかげでいい1日になったわ」



 おい、姉ちゃん。何でそんなおしとやかなさわやか系キャラを演じているんだよ?

 いつもの毒舌腹黒キャラはどうした? 羊の皮を一体何枚被れば、そんな言葉が口から出てくる。



「美鈴先輩が‥‥‥私と話せたことが嬉しいって‥‥‥うれしいって言ってくれてる」


「わかった、わかった。だから紗耶香はそのだらしない顔を何とかしろ」



 いくらうちの姉ちゃんのことを崇拝しているからって、デレデレと笑う紗耶香。

 その表情はWindの近江君の応援をしている姉ちゃんそっくり。



「姉ちゃんと紗耶香‥‥‥案外似たもの同士なのかもな」


「春樹、今何か言ったかしら?」


「いえ!! 何も言っていません!!」



 小声で話していたつもりだったけど、姉ちゃんは聞いていたみたいだ。

 さすが姉ちゃんの地獄耳。今なら外で姉ちゃんの悪口を言っている奴の声も全て聞こえるんじゃないか?



「私は美鈴先輩とお話できたのも嬉しかったですけど、玲奈ちゃんともお話しできてよかったです」


「私も。楓と話せて楽しかった」


「そう言ってもらえると嬉しいです。また学校で一緒にお昼ご飯を食べましょうね」


「うん。約束」


「はい。約束です」


「いつの間に2人は仲良くなったんだ?」



 いつの間にか玲奈と友嶋さんが仲良くなっている。

 確かに昼食休憩とか勉強している時には2人で話しているのを見たけど、こんなに仲良くなっているとは思っていなかった。



「元々私達は仲良かったよね?」


「はい」


「春樹の目が曇っていただけじゃないかな?」


「ぐっ!!」



 玲奈はナチュラルにこういう事を言うからたまに傷つく。

 悪気がないのはわかっているからいいけど、たまに辛い時がある。



「今度遊びに行くのいいですね」


「うん。私も楓と出かけたい」


「私も玲奈ちゃんと出かけたいです」



 この後も玲奈と友島さんの会話は止まることなく花を咲かせている。

 きっと元から馬が合ったのだろう。玲奈もこう見えて内気な性格なので、友島さんみたいな人と相性がよかったみたいだ。



「楓と玲奈で何を話してるの!? 私も入れてよ」


「紗耶香」


「今玲奈ちゃんとどこかに出かける話をしていたんです」


「いいなぁ~~。私も一緒に行きたいな~~」


「もちろん紗耶香ちゃんも行きましょう」


「私も紗耶香と一緒に遊びに行きたい」


「嬉しいこといってくれるじゃん。このこの~~」


「紗耶香!?」



 玲奈を抱きしめて頬ずりをする紗耶香。

 抱きしめるだけならまだしも玲奈の胸に顔をうずめて幸せそうな表情をするなんて‥‥‥なんて‥‥‥なんてうらやまけしからん!!



「紗耶香も友島さんも、玲奈ちゃんとじゃれてないでそろそろ帰るよ」


「そうでした」


「私も。弟達が帰りを待ってるんだ!!」


「じゃあ皆さん、気をつけて帰って下さいね」


「あれ? 玲奈ちゃんは帰らないんですか?」


「私は家が隣だから、もう少ししたら帰る」


「家が隣何ですか!?」


「だからそんなに急いでなかったのね」



 しまった!! 紗耶香や友島さんは玲奈と俺が隣同士だってことを知らないんだ。



「だから美鈴先輩とあんなに仲が良かったのね」


「今日で玲奈ちゃんと美鈴先輩の関係がわかった気がします」


「そんなに不思議だったの?」


「不思議だったというかなんというか‥‥‥」


「中学の先輩後輩ってだけじゃ考えられないような、見えない絆があるような気がして‥‥‥」


「でも、これで色々と納得したわ」


「私もです」



 紗耶香は納得したようだけど、友島さんは右手で顎を触り、何かを考えている。



「楓、そろそろ帰ろう」


「そうですね」


「じゃあな、春樹」


「小室君、また学校で」


「おっぱい星人、またね」


「誰がおっぱい星人だ!! 誰が!!」



 三者三様の挨拶をして、紗耶香達は帰っていく。

 特に紗耶香、最後に特大級の爆弾を落として帰っていきやがった。



「紗耶香達、帰っちゃった」


「そうね」


「玲奈、今日は楽しかったか?」


「うん。すごく楽しかった」


「それならよかった」



 普段はめったに表情を変えない玲奈が寂しそうにしている。

 この様子を見ると今日の勉強会がよほど楽しかったみたいだな。



「大丈夫だよ。また勉強会やる時誘うから」


「本当?」


「本当だよ。俺は嘘つかないから」



 紗耶香と友島さんとなら、玲奈を誘っても問題ないだろう。

 友島さんも楽しみにしているようだったし、勉強会があればまた呼ぼう。



「さて、みんな帰ったし部屋に戻って息抜きでも‥‥‥」


「あら? 春樹。まだ何も終わってないわよ」


「えっ!?」


「今日の勉強会を私に話してなかったこと、どう弁解するのかしら?」



 まずい!! 姉ちゃんに勉強会の事について弁解してなかった。

 あまりにもメンバーに馴染んでいたから忘れていた。



「それじゃあこれから私の部屋に行きましょうか」


「いや、えっと‥‥‥」


「ちなみにあなたに拒否権はないから。玲奈、春樹を連れてくわよ」


「わかった」


「玲奈!?」



 真っ先に俺の腕を取る玲奈。真っ先に伝わる柔らかい感触はうれしいけど、今はそんなものを味わっている暇はない。



「玲奈、頼むから話してくれ」


「ダメ」


「玲奈!?」


「ナイスよ、玲奈。そのまま私の部屋に連れていって」


「わかった」


「やめてくれ!! 玲奈!! 頼むから離してくれ!!」


「ダメ。大人しく美鈴さんの部屋に行く」


「はい」


 こうして俺は玲奈という刑務官に護送されてしまう。

 玲奈が俺を連れて行く先、そこは姉ちゃんの部屋と言う名の監獄であった。



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