第31話 女神様襲来!!

 あの教室に姉ちゃんが襲来してから数週間が経ち、ついにゴールデンウイークを迎えた。

 前半は部活動で潰れてしまったけど、幸い今日からテスト休み。

 そしてこの日は紗耶香や友島さんが家に勉強しに来る日。部屋の掃除にも気合が入る。



「大体このぐらいでいいか」



 部屋の片付けもこれでいいだろう、リビングは昨日片づけた。



「後は紗耶香達が来るのを待つだけだな」


「誰が来るのを待つって?」


「ねっ、姉ちゃん!?」



 換気の為に開けておいた扉の前に姉ちゃんはいた。

 腕組みをして不遜な態度で俺の事を見ている。



「おはよう、春樹」


「姉ちゃん!? おはよう」


「あんたがこんな早く起きるなんて珍しいわね。一体何を企んでるの?」


「何も企んでないよ!? せっかくのテスト休みなんだから、少しでも長い時間勉強しようと思って早く起きただけだよ」


「いい心がけじゃない。あんたもようやく本気になったってことね」



 どうやら姉ちゃんはいい感じで勘違いしてくれたようだ。

 よかった、紗耶香達が来ることを悟られていない。

 これなら姉ちゃん達がいないうちに全ての事を終えることができる。



「それより姉ちゃん、そろそろ出かけるんじゃないの?」


「えぇ、そうね。そろそろ時間だわ」



 小型の可愛い腕時計を見る姉ちゃん。

 普段出かけるときには見ないようなおしゃれな服を着ている。



「やけに気合が入った服を着てるけど、もしかしてデート?」


「えぇ、そうよ」


「嘘!? あの姉ちゃんがデート!? 信じられない!?」


「私だってデートの1つや2つぐらいするわよ」



 あきれた様子の姉ちゃんだけど、驚くのも無理はない。

 だってデートだよ!! 普段Windの近江君の追っかけをしているドルオタな姉ちゃんがデートなんて、信じられるわけがない。



「デートって‥‥‥相手は誰?」


「もちろん玲奈に決まってるじゃない」


「相手は玲奈かよ!! 驚いて損した」



 姉ちゃんのデート相手は玲奈だったのか。

 男じゃなくて少し安心した。



「って、玲奈と出かけるの!?」


「そうよ。今日は玲奈とあんなことやこんなことをして、楽しんでくるの」


「ぐっ!!」



 姉ちゃんの奴、さり気に玲奈と出かけることを俺に自慢してきやがった。



「まさかそんなことを言う為に俺の部屋に来たんじゃないだろうな?」


「そうよ」


「性格悪っ!!」


「何度でもいいなさい。みんながあこがれの的である玲奈とデートができるのよ。これを自慢しないで、どうするのよ」



 俺の事を見てニヤニヤとする姉ちゃん。

 誰にも言うことができないからって、俺にばかり自慢しやがって。大人げない。



「ねぇ春樹。今どんな気持ち? 私に先を越された気分は?」



 今の姉ちゃんはめちゃめちゃうざい。

 だけどこれは好都合である。今日は紗耶香達が家に来るんだ。

 邪魔な姉ちゃんはいなくなるし、耳年魔の両親は温泉旅行。



「これで邪魔者はいなくなったな」


「何?」


「何でもないよ!? それよりも姉ちゃんもう時間じゃない? 早く玲奈と遊びに行ってきなよ」


「止めるならまだしも、玲奈とのデートを急かすなんて。普通なら床を叩きながら血の涙を流してもおかしくないのに変な春樹ね」


「俺ってそんな風に見られてたの!?」



 酷い風評被害だ。確かに玲奈とのデートの件は血の涙を流してもおかしくないけど、今日の俺は一味違う。

 無事に紗耶香達を家に迎え、姉ちゃん達が帰ってくる前に家に帰すというミッションがあるんだ。

 こんなことでくじけるわけにはいかない。



「本当に変な春樹だわ。あんた本当に春樹? 中身が別の誰かと入れ替わってない?」


「入れ替わってないよ!? 漫画じゃないんだから!?」


「まぁ、そんなことはいいわ。私はこれから玲奈とラブラブとイチャイチャを堪能してくるから。またね」



 それだけ言い残し姉ちゃんは部屋を出て行った。

 その後バタンと言う音が鳴り、姉ちゃんが家から出て行ったことがわかった。



「よし! 姉ちゃんは出かけた」



 後は紗耶香達が家に来るのを待つだけだ。

 部屋もリビングも片づけてあるし、姉ちゃんの部屋にさえ入らせなければ完璧である。



「後は皆が来るための準備だけしておこう」



 勉強道具を持って、俺はリビングへと向かう。

 リビングに入り、テーブルに勉強道具を置いた後3人が来た時の為にお茶の準備を始めた。



『ピンポーン』


「はい、今開けます」



 リビングを出て急いで玄関のドアを開けた。

 開けるとよく見る顔が玄関の前に立っていた。



「春樹、おはよう」


「‥‥‥なんだ。守か」


「何だとは何だよ。お前の友人第1号が様子を見る為に急いできたのにその態度はないだろう」


「腐れ縁1号の間違いじゃないか?」


「そんなこと言わないでよ。僕は春樹のことを心配して来たんだから」


「えぇい!! 俺に抱き着くな。離れろ」



 抱き着こうとしてくる守を手でブロックした。



「春樹は恥ずかしがり屋だな」


「誰にでも抱き着こうとする守が悪いんだろ」



 自業自得だ。それを俺が恥ずかしがっているせいにするな。



「そういえば春樹、美鈴さんはどこにいるの?」


「姉ちゃんは今日玲奈と出かけてる」


「なんだ。久しぶりに美鈴さんと話せると思ったのに」


「この前教室で散々話しただろう」


「あの時の美鈴さんは通常モードの美鈴さんじゃ無かったじゃん。僕は通常バージョンの美鈴さんと話したいんだよ」


「物好きな奴もいるものだな」



 通常バージョンの姉ちゃんがいいなんて。そんなことをいう奴がいるとは思わなかった。

 そういえば守も姉ちゃんの裏の顔も知ってるんだった。



「守、その言葉を紗耶香達の前で絶対言うなよ。2人の偶像を壊したくない」


「もちろんだよ」


「それならさっさと中に入ってくれ。こんな所で立ち話をしていても時間の無駄だ」


「おじゃましま~~す」



 俺は守をリビングへ通す。

 リビングに入った守は部屋を見回していた。



「へぇ~~。きれいに片付いてるじゃん」


「そりゃあ昨日必死に片づけていたからな」



 リビングは4人で座れるように準備してあり、テーブルはピカピカにしてある。

 昨日は念入りに掃除機もかけたので、塵1つ落ちていない完璧な部屋だ。



「そろそろ紗耶香ちゃん達来るんじゃない?」


「そうだな。時間的にそろそろ‥‥‥」


『ピンポーン』


「噂をしたら来たみたいだね」


「行ってくる」



 リビングを出てドアを開けると、そこには友島さんと紗耶香がいた。

 俺にはわからないおしゃれな格好をしていて、2人の私服を見た瞬間ちょっとだけ胸がドギマギした。



「おいっす。春樹」


「お邪魔します。小室君」


「どうぞ、どうぞ。もう守は来てるからあがって」



 2人をそのままリビングに通す。リビングに着いた2人はまじまじと部屋を見ていた。



「小室君の家って綺麗ですね」


「本当ね。春樹の家とは思えないわ」


「ちょっとそれ、どういう事だよ!!」



 俺ってそんなイメージを持たれてたの!?

 姉ちゃんといい、俺の周りからの評価は散々だ。



「こんにちは、2人共」


「何であんたはこんなに早く春樹の家に来てるのよ」


「僕は春樹の家の近所に住んでるからね」


「だからこんな早く来れたんですね」


「だけど今日はお土産を買ってきたから、少し遅くなっちゃったけど」


「お土産? 守そんなものを持ってきてたっけ?」


「そうだよ。これがお土産」


「あっ、これって駅前にある人気ケーキ店のフルーツタルトですよね?」


「そうだよ。さすがにこれはちょっと並んだけどね」


「よくこんなもの手に入ったわね」


「もちろん。紗耶香ちゃん達も来るんだから、これぐらいの準備はしていくよ」



 これはきっと表の理由だろう。きっと別に理由があるに決まってる。

 よくよく考えると守は俺の家に来る時、何かしらのお菓子をいつも差し入れに持ってきていたな。



「そういえば、春樹。女神様は家にいないの」


「姉ちゃんは玲奈と出かけてるよ」


「残念。普段の女神様の様子を観察するチャンスだったのに」


「紗耶香、悪いことは言わない。夢は夢で終わらしとけ」


「何を言ってるの? 春樹は?」



 紗耶香が普段の姉ちゃんを見たら、今まで姉ちゃんに抱いていた幻想なんてぶち壊されるぞ。

 姉ちゃんは女神の皮を被った邪神だからな。邪神モードの姉ちゃんなんてみたら、さすがの紗耶香も泡吹いて倒れるぞ。



「うーーん」


「どうしたの友島さん?」


「何でもありません。それよりも早く勉強しましょう」


「そうだな」



 冷蔵庫の中に守が持って来たタルトを入れる。

 台所で4人分のお茶を入れて、テーブルに持って行く。



「友島さん、どうしたの? そんなにキョロキョロして」


「いえ、何か物音が聞こえる気がして」


「物音?」


「そんなの聞こえる?」



 耳を澄ますと確かにリビングの外から音が聞こえてくる。

 金属がこすれるような、そんな音のように思えた。



「玄関の方から音が聞こえてくるな」


「今日って春樹の両親はいないの?」


「温泉旅行に行ってるからいないはずだ」


「それなら何で音が聞こえてくるのでしょうか?」


「もしかして泥棒?」


「ちょっと様子を見てくる」



 椅子から立ち上がった瞬間、リビングの扉が開く。

 扉から出てきた人を見て、俺は目を見開いて驚いてしまった。



「ねっ、姉ちゃん!?」


「こんにちは~~」


「ねっ、姉ちゃん!? それに玲奈!? 2人共何しに来たんだよ? 今日はデートしに行くんじゃないの!?」


「ええ。デートは堪能してきたわよ。それにちゃんとお土産も買ってきたわ」


「お土産?」



 その手に持っていたのはシュークリーム。しかも3つではなく6つあった。

 シュークリーム6つが意味するところ。それは紗耶香達が来ることを見越してシュークリームを準備していたってことだ。



「まさか‥‥‥勉強会のこと最初から知ってたんじゃ‥‥‥」


「なんの話かしら?」



 くそ!! 一体どこからこの情報が漏れたんだ。

 せっかくの楽しい勉強会が。これでは一転して地獄の勉強会に変わってしまう。



「あっ、めっ‥‥‥小室先輩!」


「月島さん。久しぶりね」


「お久しぶりです。もう、春樹。お姉さんも呼んでたなら初めから言ってよ」


「いや、俺も今初めて知って‥‥‥」



 なんだよ。何もしていないのにこの外堀が埋まっていく感じは。

 姉ちゃんは紗耶香の懐柔をしているし、玲奈は友島さんの所へ行っている。 



「玲奈ちゃん、お久しぶりです」


「楓も久しぶり」


「玲奈ちゃんも一緒に勉強しましょう」


「私も一緒にしていいの?」


「はい、せっかくだから一緒に勉強しましょう」


「うん、ありがとう」


「勉強道具を準備してきているだと‥‥‥」



 間違いない。玲奈が手元の鞄から勉強道具を出しているということは事前にここで勉強会が開かれることを知っていたからだ。

 このままじゃまずい。このままま姉ちゃんの横暴を許せば、今日の俺の計画が全てくるってしまう。



「月島さん達は今日は何をしに家に来たの?」


「今日は春樹の家で中間テストに向けての勉強会です」


「それじゃあ私と玲奈はお邪魔だったかしら?」


「そんなことないですよ!? そうだ!! せっかくだから小室先輩達も一緒にやりませんか?」


「いいの?」


「もちろんですよ」



 紗耶香、それはやめてくれ。姉ちゃんの思う壺だ。

 うんうん唸ってるけど初めから姉ちゃんの答えは決まってる。

 姉ちゃんはその一言を紗耶香に言わせるために、わざと紗耶香にそう言わせたんだ。



「う~~ん、どうしようかな」


「そこを何とか、お願いします」



 駄目だ。完全に紗耶香は騙されている。姉ちゃんは最初からこの勉強会に参加する気満々だ。

 その証拠に買ってきたシュークリームは6個。あらかじめ紗耶香達の分も含まれていた。

 一瞬姉ちゃんは俺を見ると、悪魔のような笑みを浮かべる。

 全ては姉ちゃんの手のひらで踊らされていたようだ。



「せっかくの可愛い女の子のお誘いだから。ぜひご一緒させてもらおうかしら」


「ありがとうございます」


「こちらこそ。誘ってくれてありがとう。月島さん」



 何でだろう。どうしてこうも姉ちゃんは俺の邪魔ばかりしてくるんだ。

 しかもタイミングを考えると、紗耶香達が来た時を狙って入ってきたようにしか思えない。



「さて、それじゃあ準備をしましょうか」


「はい」



 姉ちゃんと玲奈の分の椅子とお茶を準備し、勉強会の準備をする俺。

 こうして玲奈と姉ちゃんを交えたカオスな勉強会が開かれることになるのだった。



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