第26話 嵐の後にまた嵐!?

 昼休み、いつものように昼食の準備をしていると守達もやってくる。

 その中には紗耶香や友島さんもいて、全員で席をくっつける。



「(気まずい)」



 紗耶香とは朝あんなやり取りがあった後なので、正直気まずい。

 行間休みもろくに話さなかったし、何を話せばいいかわからない

 紗耶香も俺と同じことを思っているのだろう。先程から俺の事をチラチラと見ている。



「紗耶香ちゃん。春樹にパンツの1つや2つ見られたからって、そんなに怒る事ないじゃん」


「べっ、別に怒ってるわけじゃないわよ!!」


「紗耶香ちゃんはただ恥ずかしがっているだけですよね」


「楓!! 余計な事言わないでよ!!」



 守と友島さん、2人からいじられた紗耶香の顔が真っ赤に染まる。

 それを見て2人はクスクスと笑っていた。



「あれ? 俺が姉ちゃんの弟ってことを隠していたことを怒ってたんじゃないの?」


「確かにそれは怒ってたけど、それはさっき解決したでしょ」


「なるほど」


「確かに話してくれなかったのは悲しかったけど、別にずっとそのことで怒っていたわけじゃないわよ」



 よかった。耶香は特にあの事で怒っていたわけではないらしい。

 それだけはほっとした。何でほっとしているかわからないけど、嫌われていなくてよかった。



「それにしてもまさか春樹が女神様の弟だったとはね」


「私も。最初にその噂を聞いた時はびっくりしました」


「そのことを話さなかったことに関しては全面的に俺が悪かった。ごめん」



 紗耶香や友島さんの言う通り、せめて近しい人達にだけでも俺と姉ちゃんの関係性は

 言わなかったのは俺のミスだ。2人には悪いことをしたと思っている。



「まさか人に失望されるとかそんなくだらない理由で隠していたなんてびっくりよ」


「悪かったな。くだらない理由で」


「紗耶香ちゃん、ちょっとそれは言いすぎじゃない?」


「何よ、守。あんただって春樹が隠していたことをそんな風に思っていたんじゃないの?」


「私は違うと思います。何となくですけど、小室君が内緒にしていた理由もわかる気がします」


「楓まで!? 私だけ仲間外れなの!?」


「違いますよ。今日の朝の様子を見てわかりました。小室君のお姉ちゃんは私達の想像以上にこの学校で大きな影響力を持っています」


「確かにそうね。小室美鈴先輩って言えば、才色兼備の学園の女神様って呼ばれてるもの。バスケ部の先輩達にもファンが多いわね」


「これはものの例えですけど、紗耶香ちゃんが小室君のお姉さんの妹だったらどうしますか?」


「それはもちろん誇らしいわよ」


「そうですね。確かに誇らしいです」


「でしょ!? 問題なんて、何もないように思えるけど‥‥‥」


「問題は大ありですよ。今は皆さん女神様の弟だってことで尊敬のまなざして見ていますが、小室君に何かがあった時常に比較され続けると思います。いい結果なら『女神様の弟だから当然だろう』ダメなら『女神様の弟なのに何やってるんだ』常に比較されると思います」



 友島さんは心配そうな目で俺のことを見ている。

 それは憐みの目ではなく、本気で俺のことを心配してくれていたようだ。



「それはよくも悪くも小室君を縛るものになるんじゃないでしょうか。自分よりもはるかに出来がいい人と比較され続けること、私には耐えられません」



 あぁ、そうだ。友島さんの言う通りだ。俺の人生は常に姉ちゃんと比較されてきた。

 良くできれば、小室の弟なら当然だ。できなければ小室の弟なのになぜできないんだといった風に、周りからずっと言われ続けていた。

 それに嫌気がさしていたことも確かだ。俺は姉ちゃんの弟って名前じゃない。小室春樹だってずっと言いたかった。



「なるほどね」


「だから守君もあえて私達に女神様の弟ってことは伏せていたんじゃないでしょうか? ちゃんと小室君の事を見てほしいから」


「ビンゴ!! さすが楓ちゃん。僕の親心をよく代弁してくれたね」


「そうなの? 春樹?」


「まぁ、おおむね間違ってはいない。姉ちゃんに比較されて育ってきたから、それが嫌だってことは本当だ」



 正直高校を選ぶ時も玲奈がこの高校に入るって言わなければ、俺は別の高校を選んでいた。

 最後までどの高校に行くか悩んだけど、結局玲奈がいるからという理由でこの高校にした経緯もある。



「それならごめん。春樹の気持ちを考えずに勝手に暴走しちゃって」


「別に気にしてないよ。このことを話していなかった俺が悪かったんだから」



 元々紗耶香や友島さんにこのことを話していなかった俺が悪かったんだ。

 今更そのことを責めるつもりはない。



「そういえば‥‥‥」


「どうしたの? 春樹?」


「いや、俺が姉ちゃんの弟ってわかったら普段ならもっと人だかりができるはずなのに、今日は人が少ないなって思って」



 普段は姉ちゃんの情報を知りたがって、俺の席に周りも人だかりができてもおかしくないんだけど今日はやけに静かだ。

 休み時間中も俺の方をチラチラと見る人や廊下から教室を覗く人は大勢いたけど、俺に直接話しかける人はいない。



「それはきっと紗耶香ちゃんのおかげだと思うよ」


「私? 私何かしたっけ?」


「紗耶香があんなに朝騒いだから、他の人が聞くに聞けなくなっちゃったんだよ」


「そうなの?」


「うん。それに春樹が紗耶香ちゃんに自分の本音をさらけ出したから、余計に聞きずらくなったんだよ」


「つまり俺と紗耶香の喧嘩のせいで、普段押し寄せてくる人達がいなくなったってことだな?」


「そうだよ。よかったね、春樹。まさにこれは不幸中の幸いだよ」



 いい笑顔で守は言ったけど、これはたまたまだからな。

 現に目の前に紗耶香もどことなく微妙な顔をしていた。



「小室君」


「どうしたの? 友島さん?」


「私は小室君と友達になりたいと思ったから友達になりました。別にお姉さん云々は関係ありません。だから私達にはそんなに気を遣わないでください」


「私だってそうよ。春樹と関わってて楽しかったから友達になったんだから。そのことを忘れないでよね」


「ありがとう紗耶香、友島さん。そう言ってくれるだけで俺はうれしいよ」



 今まで女神様とお近づきになれるってことで、俺に近づいてきた人は数々いた。

 だけどこうして損得なしに俺と友達になりたいって言ってくれた人は玲奈を除くと守以来だ。



「さて、話が着いたところで昼ご飯を食べよう」


「そうだな」


「急がないとお昼の時間が終わっちゃいます」



 弁当箱を開こうとした時、教室の外がざわざわしているように感じた。

 そのざわつきがどんどんと近づいてくるように感じる。



「今日は廊下が騒がしいな」


「本当ね」


「何かあったんですかね?」


「それなら私が見てきてあげよう」


「見に行かなくてもいいよ。どうせ物珍しさに俺の事を見に来ている人達が騒いでるだけでしょ」



 現に行間休み中もクラスの外で俺の事を見に来ている人達が大勢いた。



「でも、行間休みはあんなにざわついてなかったよね?」


「昼休みだからじゃない? 行間休みよりも長い休み時間だから、他の学年の人達も覗きに来てるんだろう」


「そうなのかな?」


「それにしては廊下が騒がしすぎるような気がしますけど」



 紗耶香と友島さんは心配してくれているようだけど、そんな心配は一切ない。

 どうせ野次馬が俺の事を見に来ているだけだ。気に止めなくてもいいだろう。



「小室君!!」


「どうしたの友島さん? そんなに驚いて」


「春樹!? 後ろ!? 後ろ見て見なさいよ」


「後ろ? 後ろに何が‥‥‥」



 紗耶香に促され後ろを見た俺はその場で固まってしまった。

 そこにはここにいるはずのない人物がその場に立っていたのだった。



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