第15話 連絡先を聞こう②
「よし、着いたぞ」
歩いて数十秒。特に苦も無く玲奈の家の前に着く。
後はインターホンを押すだけ。そこで玲奈の事を呼んで連絡先を聞けばこの理不尽極まりないミッションはクリアだ。
「でも本当に玲奈はこの時間に起きてるのかな」
隣の玲奈の家は既に電気が消えており、あからさまに就寝中であることが見て取れる。
玲奈の部屋だけではなく、家の周りが全体的に暗い。
どう考えてみても、玲奈だけではなく玲奈の両親も寝ている可能性がある。
「駄目だ!! こんな時間にインターホンを押しても絶対に迷惑になる」
元々玲奈は俺と違って夜更かしはしない。だからこそこの時間はもう寝ている可能性の方が高い。
きっと玲奈の両親も規則正しい生活をしているはずだ。だからこそこんな時間に起こすわけにはいかない。
「となるとどうやって玲奈の連絡先を聞けばいいだろう」
まず最初に考えた選択肢として、素直にインターホンを押す。
もしかすると玲奈の両親も起きる可能性があるけど、これが1番手っ取り早い方法だ。
「いや、駄目だ。それだと玲奈の両親が起きてしまう」
先程も考えたけど、玲奈の家に迷惑が掛からないようにしないといけない。
だからこのアイディアは却下だ。
「それが駄目なら庭から侵入? それだと不審者として通報されてしまう、
いくら考えても玲奈と連絡先を交換する方法が思いつかない。
このまま黙って庭で野宿をするしかないのか。
だが4月とはいえまだ春先。このまま防寒具なしに寝てしまっては風邪を引いてしまう。
「明日の朝までに玲奈と2人で会う方法。そんな方法本当にあるのかよ」
これはあきらめて野宿をするしかないか。
そういえば庭のどこかにビニールシートと段ボールがあったよな。
段ボールは意外と保温性があって暖かいし、ビニールシートは風よけにもなる。
この2つがあれば一晩はしのげるだろう。そうとなれば準備をしないと。
「よし、善は急げだ」
俺が玲奈の家を離れようとした時、バタバタと足音が聞こえてきた。
「何の音だ?」
聞こえてきたのは玲奈の家の中。ちょうど俺が振り向いた時、玄関の電気が着きドアが開く。
「「あっ!?」」
固く閉じられていた玄関から出てきたのは玲奈。
ドアを開けて俺の顔を見た瞬間、安心したような表情をしていた。
「春樹!?」
「玲奈!?」
まずい。玲奈が家から出てくるパターンは考えていなかった。
あらかじめ何を話すか決めていなかったせいで、言葉が出てこない。
「「あのっ!?」
やばっ、玲奈と声がはもった!? まずいな。超気まずい。
どうやら何を話せばいいか悩んでいたのは俺だけではないらしい。
たぶん玲奈も同じことを考えていたみたいだ。
「玲奈から話していいよ」
「私は大した話をしてないから、春樹が話して」
「わかった」
玲奈がそう言うなら、俺から話した方がいいな。
だけど困った。何を-から話せばいいだろう。
いきなり連絡先を聞くのも変だし、いい話題がみつからない。
「どうしたの?」
「いや!? 別に何でもないよ!?」
えぇいこうなってしまっては仕方がない。
出たとこ勝負。いちいち相手の反応をうかがっていても仕方がない。
「そういえば‥‥‥」
「うん」
「そういえばどうして玲奈は外に出てきたの? 急に部屋から出てバタバタって降りて来たみたいだけど?」
「私は外から大きな音が鳴ったから、気になって」
「あぁ、なるほど。あの音か」
その音はきっと姉ちゃんが俺のことを突き飛ばした時地面に落下した時の音だろう。
窓から落下させられた時は驚いたけどそのせいで玲奈は様子を見に降りてきた。
怪我の功名とはこういうことを言うんだよな。
「あの音って何?」
「あぁ。さっき俺、姉ちゃんに2階の部屋から突き飛ばされたんだよ。それで2階の窓から庭に落下したんだ」
「えっ!? 大丈夫だったの? 怪我はない?」
「大丈夫大丈夫。俺が頑丈なのは玲奈も知ってるだろ?」
「うん」
「だから大丈夫だって。ほら、腕も足もこの通り」
体を動かして俺が元気なことを玲奈にアピールする。
その様子を見て、玲奈も安心したみたいだ。
「あんまり無理はしないでね」
「うん、もちろんだよ」
全ては俺の家にいる女神と言う名の
あれがあらぶっていなければこんなことになかったのに。
「そういえば春樹は家に帰らないの?」
「実はちょっとした理由があって、姉ちゃんに家に入れてもらえないんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、そうなんだ」
言えない。玲奈と連絡先を交換しないと家に戻れないなんて、本人には死んでも言えない。
言ったら100%軽蔑されるだろう。だから何があっても話すことができなかった。
「それならもし‥‥‥もし春樹がよければの話なんだけど‥‥‥」
「何?」
「もし春樹が自分の家に入れないなら‥‥‥うちに泊まってく?」
「えっ!? いいの!?」
「うん。私の部屋で申し訳ないんだけど、どうかな?」
上目づかいで俺の事を見る玲奈からの提案。しかも客間ではなくて、玲奈の部屋。
大好きな女の子の部屋に行ける。その喜びはこのまま棒格闘ゲームのキャラクターの技ぐらい飛び跳ねてしまう程うれしい。
「それならぜひ、ぜひ玲奈の部屋に泊めて‥‥‥はっ!?」
不穏なの気配がする。ここでこの誘いにのってしまったら、後々後悔するような気がした。
「どうしたの? 春樹?」
「いや、何でもないよ」
この邪悪の気配は一体どこからあふれ出ているのか。俺は辺りを見回してみる。
すると俺の家の窓から俺達のやり取りを覗き見ているある人物の姿があった。
「ねっ、姉ちゃん!?」
家の窓から俺達の姿を見ている姉ちゃん
その様子はどう見たって、俺達の事を監視しているように見えた。
「美鈴さんがいるの?」
「いないいない。どうやら俺の勘違いだったようだ」
今一瞬姉ちゃんの目がぎらついたような気がした。そしてその目が雄弁に語っている。
もし玲奈の家でお泊りすることになったらわかっているのかと。暗に俺に対して警告を告げていた。
「それじゃあ中に入って。今日は肌寒いから、中で話そう」
「あ~~、ごめん玲奈。今日玲奈の家に泊っていくのはやめようかな」
「そう‥‥‥」
「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だって。土下座でもなんでもすれば、きっと姉ちゃんも家に入れてくれるよ」
「それならいいんだけど」
残念そうな顔で俺の事を見つめる玲奈。家に泊らせてくれるその申し出はありがたいけど、姉ちゃんが怖いからそれは無理だ。
正直心の中では血の涙を流す程苦しい決断だけど、さすがに俺の命には代えられない。
「そういえば春樹はどうしてスマホを持ってるの?」
「えっ!?」
「美鈴さんに部屋から投げ出されたのに、スマホだけは持ってるのはどうして?」
「あぁ~~‥‥‥それはだな‥‥‥‥‥」
まずい、いい言い訳が思いつかない。
まさか玲奈の連絡先を聞くためにスマホを渡されたなんて、口にすることもはばかられるかられる。
「それは?」
「姉ちゃんが追い出された時、暇つぶしにって言われて渡されたんだよ」
「そうなんだ。なんか美鈴さんらしい」
「そういう玲奈もスマホを持ってるけど、何のために持って来たの?」
「私は外の様子を見に行った時に何かあったら怖いから念のため持ってきたの」
「そうなんだ」
どうやら玲奈は用心深い性格みたいだ。
あれ? ちょっと待て。玲奈は今スマホを持っているんだよな。
「もしかしてこれってチャンスなんじゃないか?」
「チャンス?」
「いや、何でもない!! こっちの話!!」
俺と玲奈、お互いスマホを持ち歩いている。
連絡先を交換するにはまたとないタイミングだ。
「そういえば、俺達今までよく会ってたのに連絡先を知らなかったな」
「そういえば、私も春樹の連絡先知らない」
「いつも姉ちゃんを介して連絡するのも面倒だし、お互いに連絡先を交換しないか?」
言ってしまった。こんな夜更け、しかもたまたまスマホを持ってたってだけで本当に交換してくれるのか。
恐る恐る玲奈の反応を見る。目の前にいる玲奈は、目をぱちぱちとさせて驚いているように見えた。
「私と‥‥‥連絡先交換?」
「あぁ。あっ!? もちろん玲奈が嫌だったら、今の話なかったことでいいから!!」
「えっ!?」
「全くこんな夜更けに俺は何を言ってるんだろうな。ごめん、さすがにこの時間にこんなお願いはなかったよな」
俺のチキン。玲奈があまりにも驚いていたので、せっかくのチャンスを不意にしてしまった。
もうここは大人しく家に帰ろう。そして今日は庭で野宿しよう。
肌寒いとはいえ季節は春。ビニールシートと段ボールさえあれば、一晩ぐらい楽に凌げるだろう。
「私は別にいいよ」
「えっ!?」
「春樹と連絡先、交換するよ」
「いいの!?」
「うん」
「ありがとう! 玲奈って
「うん」
「そしたら
お互いスマホを操作して、テキパキと連絡先の交換準備をする。
玲奈の
そして玲奈が俺の
「ありがとう。玲奈。俺と連絡先を交換してくれて」
「うん。でも、いいの?」
「いいのって、何が?」
「電話番号とかメールアドレスは交換してないけど、
「えっ!? そっちもいいの!?」
「うん。何かあった時必要になると思うから、交換しよう」
何故かわからないけど、玲奈は電話番号やメールアドレスまで交換してくれた。
俺としては玲奈の電話番号まで手に入れることができて願ったり叶ったりである。
「うん。これで大丈夫」
「ありがとう、玲奈」
「全然かまわないよ。一応ちゃんと電話できるか確認したいから、後で春樹に連絡してもいい?」
「うん、いいよ! むしろどんどん連絡してくれ」
「ありがとう、春樹」
「いいや、こちらこそこんな遅くにありがとう」
一瞬、一瞬だけど俺のこと見る玲奈の顔がほころんでいるように見えた。
俺の錯覚じゃなければだけど、たしかに玲奈は嬉しそうだった。
「戻ったら連絡するね。あっ!? 春樹家に入れてもらえないんだっけ?」
「大丈夫だよ。きっと姉ちゃんも話せばわかってくれると思うから」
「わかった。少し肌寒いから、春樹も風邪を引かないように気をつけてね」
「OK。玲奈も明日朝早いから、早めに寝なよ」
「うん。お休み、春樹。また明日ね」
「お休み。また明日」
お互い挨拶を交わし、玲奈の家の玄関が閉まる。それと同時に玲奈の家から階段を上る音が聞こえた。
辺りが静かになり、玲奈の前に立っているのは俺1人だった。
「よっしゃぁ~~~~。玲奈の連絡先をゲットたぜ」
誰もいないことをいいことにその場で思わずガッツポーズをしてしまう。
でもそうなってしまう理由もわかるだろう。
だってあの学戦の女神様って呼ばれていた玲奈の連絡先をゲットできるなんて、夢にも思ってなかったからだ。
「あれ? 電話だ」
玲奈が電話をして来たのだと思ったけれど違った。。
電話の主を見ると姉ちゃんだ。ディスプレイには姉ちゃんの名前が載っている。
「何だよ、こんなご機嫌な時に」
渋々画面をスライドさせて電話に出る。
電話を耳に当てると、そこから姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「あんたは一体何をしてるのよ!!」
「うわっ!?」
そのあまりの大声に、思わず耳を電話口から離してしまう。
もしスピーカーモードにしていたら、ご近所迷惑になってしまう所だった。
「姉ちゃん!?」
「ご近所迷惑になるから、そんな外で騒いでないで早く戻ってきなさい」
「でも玄関の鍵が開いてないでしょ?」
「もう鍵は空けてあるわよ」
「マジで!?」
「本当よ。それより家に入ったら私の部屋に集合しなさい」
「えっ!? だってもう夜遅いし‥‥‥」
「つべこべ言わない!! とにかく私の部屋に来ること。いいわね!!」
それだけ言い残すと、姉ちゃんとの通話が切れる。
どうやら俺は玲奈と連絡先を交換したという喜びに浸る余韻も与えてくれないらしい。
「とりあえず家に戻るか」
野宿の危機も脱した俺はとりあえず家に戻る。
そして姉ちゃんがいる部屋へと向かうのだった。
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