第14話 連絡先を聞こう①
「ってことが今日あったんだよ」
「そんなことがあったの」
「いや~~まさか入学2日目にして友達ができるなんて思わなかったよ。守には感謝しないとな」
紗耶香や友島さんと連絡先を交換した夜、俺の部屋に来た姉ちゃんに今日の学校の様子を報告していた。
話している話題は、今日の朝ホームルームであった出来事。その時起こったことを姉ちゃんに伝えていく。
「ふ~~ん、なるほど。友達‥‥‥ね」
だがどうしてだろう。姉ちゃんの様子がおかしい。
俺が今日学校で起こったことを話せば話す程、その表情が険しくなっていく。
「しかも今日のお昼ご飯まで一緒に食べて、今度一緒に帰ろうって話もしてるのよね?」
「うん」
「一応聞いておくけど、その一緒にご飯を食べていた人って女の子?」
「そうだよ。守が俺と話したい子がいるって言って紹介してくれたんだ。それがどうしたの?」
何でそんな当たり前なことを聞いているんだ、姉ちゃんは?
しかも友達になったのが女子って聞いた瞬間頭まで抱えて。
まるで何か厄介ごとを抱えたみたいじゃないか。
「ぬかったわ。既に懐柔したと思っていた子が、まさか敵側に寝返るなんて‥‥‥」
「姉ちゃん、どうしたの?」
「何でもないわ。こっちの話よ。気にしないで」
その後姉ちゃんはその場でぶつぶつと独り言を言い始めた。
普段学校では独り言を一切言わない姉ちゃんだけど、実は家ではこうして独り言をいう事が多い。
こういう時は人知れず何かを考えている時だけど、こういう時は放っておくのが一番である。
「これも姉ちゃんが美容院を紹介してくれたおかげだよ。ありがとう」
「お礼を言われることなんてしてないわ。それよりもあんた‥‥‥」
「何?」
「玲奈の事をないがしろにして、まさか他の女の子に鼻を伸ばしていたなんてことはないわよね?」
「鼻なんて伸ばしてないよ!!」
「ふん!! 一体どこまでが本当の事なのかしらね」
さっきから思っていたことだけど、何で今日はこんなに姉ちゃんが不機嫌なんだよ。
部屋に入ってお礼を言っていた時は素直に喜んでいたのに。この変わりようは一体何なんだ?
「それであんた、どこの馬の骨とわからない人とばかり連絡を取るのはいいけど玲奈のことはどうしたのよ?」
「玲奈?」
「そうよ。ここまで御膳立てしたんだからそんな馬の骨と連絡ばかりとってないで、少しは玲奈と連絡を取りなさい」
「そんなこと言われても‥‥‥‥‥」
「あんた私に言ったわよね? 玲奈の事が好きって。その気持ちは嘘だったの?」
「嘘じゃないよ!!」
「じゃあ何で連絡取らないのよ!!」
「しょうがないだろ!! だって俺、玲奈の連絡先知らないんだから!!」
「嘘!?」
「嘘じゃないって!! 本当の話だよ!!」
姉ちゃんは凄く驚いているけど、これは本当の話である。
俺がスマホを持ったのは中学から。その頃から玲奈とは徐々に疎遠になってしまったので、連絡先の交換ができなかったのだ。
「何で‥‥‥何であんた玲奈の連絡先知らないのよ!?」
「そんなの交換してないからだよ」
「そういう事を聞きたいんじゃなくて、何で玲奈と交換しなかったのよ!?」
「だってその頃はお互い交友グループも違ったし、交換するタイミングがなかったんだよ」
俺も玲奈もスマホを持ったのは中学の時だったし、その時にはお互い微妙に疎遠になっていた。
唯一姉ちゃんが絡んでる時は一緒に勉強したりしていたが、その時連絡を取り合ってくれたのは姉ちゃんである。
その為今まで俺は玲奈の連絡先を知ることができなかった。
「中学の時から2人で話すことなんてそうそうなかったんだから、交換できなくても仕方がないだろ!!」
「あんたそれ、本気で言ってるの?」
「そうだよ!!」
「昔私が玲奈への連絡をしておいてって言った時があったわよね? あたし抜きで連絡取る時ってどうしてたの?」
「それは俺の部屋の窓から玲奈のことを呼んで、約束をしていたんだよ」
俺と玲奈の家は隣同士で、俺の部屋の窓の前に玲奈の部屋がある。
なので何かあった時はその窓を使って2人で話をしていた。
「あんた達は、一体いつの時代の人間なのよ‥‥‥」
姉ちゃんは顔に手を当て、盛大にため息をついている。
先程不機嫌だったことといい、一体何をそんなに悩んでるんだろう。
「そういえば玲奈もメルヘンチックなものにあこがれる傾向があったわね。だからきっと‥‥‥」
「姉ちゃん?」
「わかった。よくわかったわ。どうやらあんた達の問題は、マリアナ海溝よりも根深いみたいね」
「マリアナ海溝?」
「いいわ。わからなければ忘れなさい」
さっきからわけのわからないことばかり言って、変な姉ちゃんだな。
「それよりもあなたを改造する前に、まずやらないといけないことがあったみたいね」
「やらなければいけないこと?」
「そうよ。まずあんたは今すぐ玲奈の連絡先を聞いてきなさい」
「今すぐ聞いてきなさいって、この時間に!?」
時計を見たけど、現在の時刻は22時を少し回ったところ。
こんな夜更けに玲奈のことを呼んだらさすがに迷惑だろ!?
「大丈夫よ。玲奈はまだ起きてるはずだから」
「でもこの時間にインターホンを鳴らすなんて、非常識すぎるだろ?」
「それも大丈夫よ。玲奈の家の叔父さんや叔母さんに気を遣わなくてもいいわ」
「いや、そこは気を遣おうよ!!」
やけに姉ちゃんは自信満々に言うけど、本当に大丈夫なのかよ。
さすがに俺は玲奈の家の叔父さん叔母さんに怒られたくはないからな。
「別に大丈夫よ。私やあんたなら、絶対に怒られることはないわ」
「う~~ん、わかった。そういう事ならそこの小窓から玲奈に聞いて‥‥‥」
「つべこべ言わず直接あの子の家に行って聞いてきなさい!!」
「だからさっきも行ったけど、それだと玲奈の両親に迷惑をかけるでしょ!!」
「だから大丈夫だって言ってるでしょ!! あんたなら!!」
一体全体何を根拠に姉ちゃんは言っているのだろう。
インターホンを鳴らさなくても、門前払いされる可能性もあるのに。
「それならせめて日を改めてということで‥‥‥」
「ダメよ。今すぐ行ってきなさい」
「何でだよ!? 何で姉ちゃんはそんなに俺の事を急かすんだよ!!」
「思い立ったが吉日って言うでしょ。つべこべ言ってないで、早く行く!!」
先程から何で姉ちゃんはこんなに急かすのだろう。
連絡先なんて、後で聞いてもいいはずなのに。
こんなに急いで聞く必要なんて、本当にあるのかな?
「何でそんなに俺のことをせかすんだよ!! 別に明日の朝玲奈に会うんだから、その時だっていいだろ!!」
「あんたは何もわかっていないようね」
「何もわかってない?」
「そうよ。何も、全く何もわかってない」
窓の側にいる俺の方を見て、あきれている姉ちゃん。
まるで俺の言っていることが全て間違っているというように、俺に語り掛けてくる。
「あんたは某有名塾講師の先生が言っていた言葉って覚えてる?」
「塾講師?」
「テレビにも出ている有名な先生なんだけど知らない?」
「あぁ、わかった。あの先生か。一時期テレビ番組に引っ張りだこだった先生だろ?」
「一時期じゃなくて、今も色々なテレビ番組に出演してるわ」
確かCMとかにも出てきた先生だ。その先生は印象が強い人だったので、テレビをあまり見ない俺でもよく覚えている。
「その先生の名言はあんたも知ってるわよね?」
「もちろん!」
「その人の名言よ。しっかり聞きなさい。いつやるの?」
「今でしょ!!」
「わかってるなら、早く行ってきなさい!!」
「うわっ!?」
そのまま俺は窓の外に乱暴に投げ出された。
咄嗟のことで驚いたけど、地面に着地するギリギリのところで受け身を取ることができた。
「危ないだろ!! ここ2階だぞ!! 何を考えてるんだよ!!」
「大丈夫よ。お猿みたいな身体能力を持ってるあんたなら、怪我なんてしないでしょ?」
「姉ちゃんは俺のことを何だと思ってるんだよ」
「お猿? もしくはゴリラね」
「どのみち人間じゃないんだな」
どうやら俺は姉ちゃんに霊長類の類として見られているらしい。
まだ魚類とかでなく霊長類のくくりだからいいだろうと思った俺は、姉ちゃんに毒されているんだろうな。
「とりあえず玲奈の家に行ってきなさい。連絡先を交換してくるまで絶対に家には入れないから」
「そんなの姉ちゃんの横暴‥‥‥あっ!?」
「どうしたのよ?」
「そういえば俺、今スマホ持ってないよ」
「そう言うと思って、これを用意しておいたわ」
窓からのぞく姉ちゃんが持っている物はスマートホン。
しかも形状といいスマホケースの色といい見覚えがある。
「ってそれ俺のスマホじゃん!?」
「そうよ。受け取りなさい、春樹」
そう言って乱雑に俺のスマホが窓から投げ出された。
落下する自分のスマホを前にして、俺は慌てて落下地点に行きスマホを受け取った。
「よかった。無事だ」
どうやら俺のスマホは壊れていないようだ。
落下する前に受け取ったのがよかったのだろう。奇跡的に傷1つない。
「姉ちゃん!! 何してくれるんだ!! 俺のスマホが壊れたらどうするつもりだったんだよ!!」
「無事だったからいいでしょ? 怪我の功名ってやつよ」
「怪我の功名って‥‥‥」
失敗や過失、あるいは何気なくしたことが、偶然によい結果をもたらすことの例えだろ。
姉ちゃんは俺のスマホを壊す気だったのかよ。恐ろしい、悪魔みたいな女だ。
「この、鬼、悪魔、姉ちゃん」
「ごたくはいいからさっさと行く」
「くっ!!」
この傍若無人で横暴な所、どうにかならないものか。
学校ではあんなにおしとやかなのに、なんで家ではこんなにがさつなんだよ。
「姉ちゃんにいいたいことは山ほどあるけど、今は玲奈の連絡先を聞くことが先だ」
そうしないと家に入れてもらえない。
姉ちゃんはやると言ったらやる女だ。そこに妥協は一切ない。
だから連絡先を聞かないと家に入れないと言ったら入れないだろう。
もし玲奈の連絡先を聞けなければ、今日は家の庭で野宿をするのが確定だ。
「行くしかないのか」
それしか俺があったかい布団の中で寝れる未来はない。
退路を断たれた俺は部屋着のまま玲奈の家に向かうのだった。
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