第10話 髪を整えよう
「それで姉ちゃん、この後俺は何をすればいいんだよ」
「そうね。まずはそのダサダサな髪形を何とかしましょう」
「ダサいだって!? この髪形が!?」
「そうよ。そのもっさりしていて見るからにダサいそのキノコヘアーを整えることから始めましょう」
「キノコヘアー!? 何でこれがダサいって決めつけるんだよ!!」
この流行の最新をいく髪形をダサダサヘアーって、姉ちゃんはなんて恐ろしいことをいうんだ。
「何よ。何か不満があるの?」
「あるに決まってるだろ!! この超活かした最新ヘアーをキノコヘアーのひとくくりにしないでくれ!!」
「キノコヘアーはキノコヘアーでしょ!! それに百歩譲ってマッシュルームヘアーならまだ許せるけど、そんな目が隠れるほど前髪を伸ばしてるキノコヘアーなんて、今どきのギャルゲーの主人公でもそんな設定なんてしないわよ!!」
「姉ちゃん、今俺の髪形を馬鹿にしたな!!」
「馬鹿にしたわよ!! そんなくそダサいキノコなんて、カビた部屋にしか生えないわ!!」
「何を!!」
姉ちゃんめ、この伝説のヘアースタイルのことを悪く言いやがって。
よっぽど俺の髪形が気に食わないのか、姉ちゃんも俺の事を睨みつけていた。
「そもそも、なんでその髪型にしているのよ!! 何かこだわりがあるの?」
「あるよ!!」
それはもう海山千万マリアナ海溝よりも深い理由があるに決まっているじゃないか。
「わかったわ。しっかりと断罪してあげるから、理由を教えなさい」
「全否定を前提で話さないといけないの!?」
「当たり前でしょ!! お馬鹿なあんたの考えを全否定する以外に何があるのよ!!」
「この髪形を全否定するだと!? ‥‥‥まぁいい。俺がこの髪形にした理由を姉ちゃんも聞けば絶対に納得するだろう」
「あんたのしょうもない話を聞くのは癪だけど、とりあえず話しなさい。話だけならいくらでも聞いてあげるから」
ため息をつきあきれたように話す姉ちゃん。
だけどその態度もここまでだ。ちゃんと俺の理由を聞けば納得するはずだ。
「聞いて驚くなよ。この髪形はな、世界的に有名な日本のフリーキッカーの若い頃の髪形なんだ」
「あっ、そう。言い訳はそれだけ? それだけなら、早く髪を切りに行くわよ」
「何でそんな白けた目をしているんだよ!! これってすごい重要なことだからね!!」
あの世界的有名なフリーキッカーと同じ髪形なんだぞ。あの凄い人と同じ髪形ってことは、それをきっかけに話題を作れるはずだ。
それに有名人と同じ髪形ってことは、周りからもモテるに決まってる。
俺が周りからモテモテになって有名人になれば、玲奈も今までの態度を改めて俺に振り向いてくれるはずだ。
「はぁ~、なるほどなるほど。よくわかったわ」
「さすが姉ちゃん、わかってくれたのか」
「えぇ、わかったわ。あんたがどれだけお馬鹿なのか。今の理由を聞いてすごくわかった」
「お馬鹿ってなんだよ!! 俺は真剣に話したんだぞ!!」
「そんな安易な発想をするあんたの事をお馬鹿と言わないで何というのよ!! どうせあんたのことだから有名人と同じ髪形をしていれば、その内自分も有名になって玲奈も振り向いてくれるとか思ってるんでしょ!!」
「なっ、なんでそれを!? ‥‥‥俺の思考が読めるなんて、姉ちゃんってもしかしてエスパー?」
「そんなわけないでしょ!! 私が何年あんたの姉をやってると思ってるの? あんたの考えてることなんてお見通しだわ!!」
ひとしきり話し終わった後、息を切らす姉ちゃんがいた。
ぜぇぜぇと荒い息を吐いており、ひどく疲れているように見えた。
「あぁもう、頭が痛いわ。私の弟がこんな突拍子もないことを考えるお馬鹿さんだったなんて思わなかった」
「姉ちゃんが言っていることの結論から言うと、俺の髪形が超格好いいってことでいいよな?」
「どうすればそんなおめでたい頭になれるのよ!!」
「えっ!? 駄目なの!?」
「当たり前でしょ!! それにこの前玲奈のことを見た? あの変わった姿を見て、何も思うことはなかったの?」
「玲奈を見ての印象か」
「正直な感想でいいから、ここで話してみなさい!!」
俺の目を見て話す姉ちゃん。その真剣な瞳から、目をそらすことができない。
「今までより2段階ぐらい可愛くなった」
「でしょ? 玲奈を見てわかると思うけど、人の見た目も重要なの」
「見た目? 内面じゃなくて?」
「そうよ。内面も重要だけど、人は見た目が9割部分を占めてるの。特に初対面の人と接した時、第一印象で相手の対応も変わってくるから、外見を整えておくのは重要よ」
「なるほどな」
姉ちゃんの言っていることもわかる。今までも十分玲奈は可愛かったが、髪形を変えてグンと玲奈が可愛くなったように思えた。
これが姉ちゃんの言う見た目の効果。現に玲奈は学校じゃ人気者になっていた。
「でも見た目も重要ってことは、ブサイクな俺じゃ何をしてもダメじゃん」
「別にイケメンとかブサイクとかそういうのは関係ないの」
「そうなの?」
「えぇ、あんたもこんな経験ない? 街を歩いていて、男性の方はあんまり格好良くないのに、なんであんなかわいい子と付き合っているんだろうって」
「めちゃくちゃ覚えある」
学校の帰り道、ブサイクな男がめちゃめちゃ可愛い女の子を連れて歩いていて激しく嫉妬をした覚えがある。
当時は守と歩いていて、死ぬほどうらやましい目でカップルを見ていた。
「あれはね、男性の方に清潔感があるからなのよ」
「清潔感?」
「そうよ。それはちょっとしたことなの。身だしなみに気をつけたりとか、鼻毛が出ていないかとか、髭はちゃんと剃り残しがないかとか靴が汚れていないかとか服がよれよれじゃないかとかそういう細かい所に気を使っているのかが重要なの」
「なるほど」
「その中でも髪形は重要なの。そんなボサボサのダサいキノコヘアーにするぐらいなら、短髪の坊主頭の方がまだ好感を持てるわ」
つまりは人のちょっとした所に注目をした方がいいって姉ちゃんは言ってるのだろう。
髪形や服装に気を使った方がいいと姉ちゃんは言っているのだ。
「はっきりいって今の貴方に清潔感が全くないの。だからせめて髪だけでも切って、少しでも清潔感を持とうってことよ」
「わかった」
つまり、今の俺はそういう要素が一切ないからまずできる所から改良しようってことか。
「わかったならいいわ。そしたら行くわよ」
「行くってどこに?」
「美容院よ。14時から予約してあるから急ぐわよ」
「14時って、今13時50分じゃん!!」
時間まで後10分しかないのに本当に間に合うの!?
ここで姉ちゃんと口論していたけど、そんな時間なかったんじゃないか?
「あんたがベラベラと言い訳をしているのが悪いんでしょ!! ぼーっとしてないで早くいくわよ」
「待って姉ちゃん!! 俺はまだ部屋着だよ。せめて私服に着替えないと」
「別にあんたの部屋着も私服も変わらないから大丈夫よ。ほら、早くいくわよ」
「理不尽だ!!」
姉ちゃんに部屋から蹴りだされ、引きずられるように家を出る。
こうして俺は姉ちゃんと一緒にジャージ姿で、初めていく美容院に向かうのだった。
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