第9話 告白までの目標

 翌日のお昼過ぎまで、俺はタブレットでサッカー動画を見ながら部屋で過ごしていた。



「暇だ」



 この日は守と遊びに行く約束をしていたが、姉ちゃんの言われた通り守と遊びに行くのはキャンセルしてこうして家にいる。

 その為今は暇で暇でしょうがない。こんなに暇なのは、中学校を卒業して以来だ。

 まだ受験前に勉強していた時の方が忙しかった。



「それにしても、姉ちゃんは俺をどこに連れて行くつもりだろう」



 姉ちゃんの考えなのでろくなことを考えてない気がする。

 それこそWindsのオフ会とか連れて行って、『人に慣れる練習よ!!』とかいう可能性さえある。



「もしそうなったら、速攻で逃げよう」



 さすがに姉ちゃんに絶対服従とはいえ、玲奈と全く関係ない所に行きたくない。

 行くならせめて玲奈と一緒に遊びに行けるようなところの下見をしたい。



「ただいま!!」


「おっ、姉ちゃんが帰ってきた」



 俺の不安をよそに、玄関が開く音と姉ちゃんの声が下から聞こえてきた。

 そのまま階段を登り自分の部屋に入るなり、そのまま階段を降りて行ってしまう。



「あれ? 姉ちゃんどこに行ったんだ?」



 帰ってきてからすぐ行くような話をしていたのに、どこかへ行ってしまった。

 部屋から顔を出してみるが、姉ちゃんがどこに行ったかわからない。

 しばらく部屋で待ってみたが、いつまでたっても戻ってこない。



「姉ちゃん!! どこにいるの!!」」



 部屋の前から叫んでみるが、反応がない。

 しょうがないから、部屋を出て階段を降りる。



「姉ちゃん、帰ってきてるの?」


「帰ってきてるわよ!!」


「わっ!? びっくりした!!」



 階段を降り切った所で、姉ちゃんと鉢合わせた。

 白いカットシャツにふわふわした膝丈より短いブラウンのスカートをした姿で現れた。



「姉ちゃん!! その格好どうしたの!? 今日は誰かとデートでもするの!?」


「デートじゃないわよ!! これからあんたと出かけるから、その準備をしていたの!!」


「準備?」



 こんなに気合の入った格好をして準備をしていたのか。



「はっ!? もしかして姉ちゃん、俺のことを弟じゃなくて異性として見ていたりして‥‥‥」


「馬鹿じゃないの!? そんな気持ち悪いこと考えているわけないじゃない!!」


「ですよね」



 普通に考えてそんなことはないよね。

 姉弟同士が好きになって付き合うなんて、どこの漫画の話だよ。



「それよりもあんたの部屋に行きましょう」


「えっ!? もう行くんじゃなくて?」


「まだ予約した時間まで時間があるの。ほらほら、行くわよ」


「ちょっ!? 姉ちゃん!? 待ってよ!!」



 姉ちゃんに手を引かれ、俺は自分の部屋へと戻ってきた。

 そのまま俺は椅子に座り、姉ちゃんはベッドの上に座った。



「まずあんたがちゃんと家にいたことには感心したわ。その点だけは褒めてあげましょう」


「その点しか褒めることはないの!? 俺今日守との約束ドタキャンしたんだけど!?」


「そんな細かいことはいいのよ」


「細かくないよ!!」



 一応腐っても俺の友人なんだから、もう少し丁寧に扱ってよ。



「ちなみに守君には私と出かけたってことは話したわよね?」


「もちろん話したよ」



 そう言わなければ、約束を断り切れなかっただろう。



「あいつ散々俺に罵声を浴びせていたのに、姉ちゃんの名前を出した途端急に物分かりが良くなるんだから変な奴だよな」


「きっと私が周りに与える影響力に恐れをなしたのね」


「態度じゃなくて?」


「あんた、覚悟しなさい」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! だからその麗しい御手おみてで俺の顔を‥‥‥っていたたたたたたたた!?」



 姉ちゃん必殺のアイアンクロー。その美しい手で掴まれた俺の顔はそのまま空中に上げられる。

 やがて俺の足まで宙を舞い、バタバタと足を動かしても地面につかない。



「どこの誰の態度がでかいって!! あぁ!!」


「姉ちゃん姉ちゃん!! 抑えて抑えて!! 学校じゃ出しちゃいけない声をしてるよ!!」



 その声を出していいのは、外にいる怖いお兄さんだけだよ。

 学校にいる姉ちゃんの信者が見たら、おしっこ漏らして失神してるような表情をしてるからやめた方がいいよ。



「あんたが余計な事ばかり言うからでしょうが!!」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 顔からなってはいけない音が鳴っている。

 ミシミシミシミシとなり、バコッという音が聞こえた後、姉ちゃんはそのまま手を離して俺は地面に倒れた。



「ふん!! 少しは反省したかしら」


「はい‥‥‥」



 ベッドに座ってふんぞり返ってる姉ちゃん。足を組み俺の事を睨む不遜な態度は図々しい。

 だから態度がでかいとか俺に言われるんだよ。



「そんなことよりも、あんたのことをプロデュースする前に質問があるの」


「質問? 俺に?」



 姉ちゃんが俺に質問をしてくるなんて、どういう事なのだろう。



「プロデュース前ってことは玲奈関連の質問だよな?」


「そうよ」


「OK。わかった。そういう事ならかかってこい!!」


「何であんたと戦わないといけないのよ」



 俺の様子を見てあきれ返る姉ちゃん。

 怒ったりあきれたり、姉ちゃんも大変だな。



「って、そんなことはいいのよ。それより質問なんだけど、あんたは一体どうしたら玲奈に告白するつもりなの?」


「告白!? いやいやいや、そんなの今すぐには考えられないから」



 今の玲奈と俺は全く釣り合っていないのに告白も何もないだろう。

 まずは自分のことをしっかりやるのが重要だ。



「春樹。私はね、目標を持つことは悪いことじゃないと思っているの」


「目標?」


「そうよ。できれば目標をどんどん細分化していって、今できることややるべきことを見つけて取り組んでいく。そうすることで人って成長ができると思うの」


「成長か」


「そうよ。目標を細分化していって、小さな目標を1つ1つ超えていく。そうすることで、玲奈と付き合うっていう大きな目標を達成できるの」


「なるほど。目標の細分化か」



 確かに姉ちゃんの言っていることは理にかなっている。

 告白する為に必要な事を超えていく。それを超える為に目標を細分化する。確かにそれは重要なことだ。



「玲奈と付き合うためにはどうすればいいか? そのことを考えて告白するまでの目標を考えてみなさい」


「わかった」



 景気のいい返事をした所まではいいけど、どう目標を立てていいのかわからない。

 玲奈に告白してもいいのは自分に自信が持てた時だけど、どうすればその自信を持つことができるだろう。



「何でもいいのよ。この目標をクリアーしたら、絶対に玲奈に告白してやるって。その意気込みが重要なんだから」


「意気込み、俺にとっての目標」


「そうよ!! 玲奈に告白する為の目標!! 何かないの? そういうの?」


「そうだな‥‥‥」



 色々と考えて見る。俺にとっての目標。玲奈に告白する為の目標。



「あっ!?」


「何か思いついた?」


「俺、決めた!!」


「何を決めたの?」


「俺‥‥‥俺‥‥‥」


「俺?」


「俺‥‥‥俺サッカーの公式戦で得点を決めたら、玲奈に告白する!!」


「うわっ!? でたこの脳筋」


「姉ちゃんが目標を立てろって言ったんだろ!!」



 俺は俺で玲奈に告白する為の目標をしっかりと立ててるんだ。姉ちゃんに文句を言われる筋合いはない。

 当の姉ちゃんはどこかあきれているような、そんな表情を浮かべていた。



「まぁ、今回だけはとりあえずは良しとするわ。目標を持って行動することは重要だから」


「姉ちゃん!!」


「だけど玲奈と付き合うにはそれだけじゃ足りないわ。貴方の成長がもっと必要よ」


「それもわかってる」


「だったらさっき言ったこと以外の所ももっと成長させないとね。これからみっちり鍛えてあげるから、覚悟しなさい」



 不敵な笑いを浮かべる姉が怖い。これから俺にはどんなことが待っているのだろう。

 正直不安もあるけど、楽しみでもある。絶対にどんな目標を出されようが、必ず達成してやる。



「面白い!! やってやろうじゃん」


「わかったわ。そしたらまず貴方の直さなければいけない所を話すわね」



 そう言って姉ちゃんは俺に向き直る。それから俺に改めて話を始めたのだった。



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