第8話 女神様への相談2

「玲奈のいい所‥‥‥か」



 いい所と言われると意外と考えやすいかもしれない。

 幼い時から姉ちゃんや玲奈とずっと遊んでいたから、それぞれのいい所や悪い所はお互い知り尽くしている。



「昔の玲奈か‥‥‥」



 思い返してみると、幼いころから玲奈とはよく遊んでいたな。

 どこへ行くにも姉ちゃんや俺に手を引かれて歩く玲奈のことを俺は思い返していた。



「あの頃の玲奈は‥‥‥誰よりも優しかったな」


「具体的には?」


「俺が困っている時、手を差し伸べてくれたりとか。誰かと一緒にいてほしい時、いつも玲奈が側にいてくれたな」



 俺がサッカーの試合で負けて周りが泣く中で、俺は泣くことができなかった。

 あの時はチームのキャプテンをしていたこともあり、周りのフォロー等もしており気丈に振る舞っていなければいけなかったのだ。


 そんな時玲奈だけは、俺の側にいてくれた。誰もいなくなった時に側にいて、ただ俺の話を黙って聞いてくれた。

 思えばいつも俺のことを気遣ってくれる、そんな玲奈に俺は惹かれたのだろう。

 あの時から玲奈の事を視線で追いかけていた気がする。



「ふ~~ん、優しい所ね」


「そうだよ」


「他は?」


「たまに見せるはにかんだ笑顔が可愛いことかな」


「他は?」


「恥ずかしがって上目遣いをしている、あの表情とか」


「他は?」


「‥‥‥‥‥姉ちゃんとは正反対のあの凶悪的な胸‥‥‥って、冗談!? 冗談だから!?」



 だからその鉄の拳はお納めください。お姉さま!!



「私と玲奈の胸が正反対? あんた今、自分の本心を言ったでしょう!!」


「本心じゃない!! それも守からの受け売りだよ!!」


「本当でしょうね?」


「この目を信じられない?」


「その腐りきった眼で話されても信憑性はないわ」


「そんな!?」


「でも、守君なら確かにそう考えてそうね」


「姉ちゃん!! ありがとう!!」



 すまん、守。お前の評価を下げてしまった。

 でも守のことだからきっと笑顔で許してくれるだろう。俺達は悪友しんゆうだからな。



「それよりも玲奈のいい所はもう品切れなの? 近所の個人スーパーの商品の方がまだ品があるわよ」


「その身内ネタ、よくわかんないよ」



 確かに内の近所にある個人スーパーは老夫婦が経営しているせいか、品目が少ないうえ商品が全然ない。

 だけど例え話をした所で誰が知ってるんだよ。俺達姉弟ぐらいしかそのネタはわからないだろ。



「全く、春樹は本当に玲奈の事を好きなのかしら?」


「だったら姉ちゃんはどうなんだよ?」


「私?」


「そうだよ!! 姉ちゃんこそ玲奈と仲が良さそうだけど、玲奈の好きなところ上げられるのかよ!!」


「もちろんよ」



 そう言って自信満々に姉ちゃんは頷いた。



「やけに自信満々だな」


「私ほど玲奈のことを好きな人はいないからね」


「なるほど、これは期待できそうだ」



 きっと今の姉ちゃんなら俺が納得するような模範解答を挙げてくれるのだろう。

 あれだけ自信満々なんだ。姉ちゃんの回答に期待しよう。



「玲奈のいい所。まず1つ目はね‥‥‥」


「1つ目は?」


「1つ目は‥‥‥その見目麗しい綺麗な体よ」


「いきなり俗物的な所にいった!!」


「当たり前でしょ!!  あんなに背が高くて胸が大きいのに、へこむところはしっかりへこんでいるって、お前はグラビアアイドルかっての!! 少しはその乳を分けてくれって、会うたびに思うわ!!」


「姉ちゃん!! 本音!! 自分の本音が出すぎだよ!!」



 その言葉の裏側には姉ちゃんの私怨がはらんでいる気がする。

 哀れ貧乳。まな板や洗濯板、お風呂のタイルの称号がとてもよく似合う姉ちゃんだ。



「あんた今、何か余計な事考えてなかった?」


「いえ!? 特に何も考えていません!!」


「ならよし」



 危ない危ない。姉ちゃんに俺が姉ちゃんの胸は洗濯板だって思っていたことがバレる所だった。

 姉ちゃんは気にしていないのか、次の言葉を考えている。



「それと玲奈は顔も整っていて可愛い所も魅力の1つね」


「姉ちゃん、さっきから玲奈の外見のことしか話していないんだけど?」


「それでもいいじゃない。あの子のいい所を挙げろって言ってるのよ。中身だけじゃなくて外見も重要よ」



 それは確かに姉ちゃんの言う通りだ。だけど俺はそこだけで玲奈のことを判断してほしくなかった。



「後は勉強ができる所、それに運動神経もすごいわね。あとは社交性さえあれば完璧なんだけど、ないものねだりをしても始まらないし、その欠点も玲奈の魅力の1つだわ」


「さっきから姉ちゃんが言ってるのは玲奈の表面的なことだよね? 俺に散々玲奈の事をわかってないって言っておいて、姉ちゃんこそ全然玲奈のことをわかってないよ!!」


「ほぅ? じゃあさぞ玲奈の事にお詳しい春樹君は、玲奈のことを言えるのよね?」


「うっ!?」


「そこで言葉に詰まるようじゃ玲奈の事について語る資格はないわよね」


「そんなことない!!」


「じゃあ玲奈のいい所を言えるのよね?」


「言える‥‥‥言えるに決まってるだろ!!」



 ここで玲奈のことを言えないと、玲奈が姉ちゃんに馬鹿にされてしまう。

 それは絶対にダメだ。少しでも姉ちゃんの玲奈への評価を変えないと行けない。



「ます始めに玲奈は努力家だ!! 皆は才能だってはやし立てるけど、裏では人の倍は努力している」



 テストの時だって、他の人が遊んでいる時に玲奈は1人で勉強していた。

 運動だってそうだ。バレー部のレギュラーになる時だって、人知れず玲奈は努力をしてレギュラーを勝ち取った。



「へぇ~~、そうなの」


「それだけじゃない!! いつもは無表情で何を考えてるかわからないようだけど、ちゃんと笑ったり泣いたりできて人の痛みをわかってあげられる優しい女の子だ!!」


「意外とよく見てるじゃない」


「それに玲奈は引っ込み思案で臆病で泣き虫だから、そこは俺達が何かあった時寄り添ってあげないといけないけど‥‥‥」


「そこまでででいいわ」


「えっ?」


「そこまででいいって言ったのよ。よく言ったわね。あんた。ちゃんと玲奈のいい所がわかってるじゃない」


「はい?」



 姉ちゃんが何で俺の事を褒めているかわからなかった。

 だが姉ちゃんは嬉しそうに笑っている。



「春樹、今私が言ったことを聞いていて、あんた悔しくなかった?」


「悔しいに決まってるだろ?」



 玲奈には表には出ないいい所がたくさんあるんだ。

 普段は女神だ女神だと騒がれているけど、それは玲奈が頑張って努力をしているからこそそう言われている。

 それを表面だけ見て『才能だ』『天才だ』って言われるのは凄く悔しい。

 お前は玲奈のどこを見て話しているんだって思ってしまう。



「それが高校に入って他の人が玲奈に対して思っていることよ。まぁ、まだ入学して1日で人の内面まで判断しろってのは難しい話だけどね」


「さっき言っていたことは姉ちゃんの本心じゃなかったってこと?」


「当たり前でしょ!! あの子とはあんたと同じぐらい付き合いが長いのよ!! 私にとって玲奈は自分の妹みたいな存在なの!!」


「妹か」



 確かに姉ちゃんは俺だけじゃなくて、何かと玲奈に肩入れしている。

 それは自分の妹だというなら、納得できる。



「あんたは私の実の弟よ。でも、あの子もあたしにとってはもう妹同然の存在なの!! そう簡単に無視できるわけないじゃない!!」


「確かに。そういう姉ちゃんの気持ちが俺も凄いわかるよ」



 俺と姉ちゃんと玲奈は幼い頃から一緒に遊んでいた仲だ。

 言ってみれば長い間苦楽を共にした仲間。過ごした時間で言えば、自分達の家族の次に付き合いが長いかもしれない。



「わかればいいわよ。わかれば」


「姉ちゃん‥‥‥」


「それよりあんた、明日の午後は空いてるわよね?」


「まぁ、そうだな。まだ部活に入部もしてないから、空けようと思えば空けられる」



 明日は土曜日で学校は休みである。

 本当はサッカー部に入って練習をしたかったのだけれど、入学早々ということもありまだ部活見学すらしていない。

 学校自体も来週から本格的に始まるので、それまでの間は暇といえば暇だ。



「明日の午後出かけるから、予定を空けときなさい」


「何で?」


「とっておきの場所にあんたを連れて行ってあげるわ」


「とっておきの場所? それってどこだよ?」


「それは内緒よ。明日行く前に話してあげる」



 自信満々に姉ちゃんは言うけど、俺は一体どこに連れていかれるのだろう。

 まさか姉ちゃんが美人局とかするんじゃないだろうな?

『この人が無理やり私を襲ったんです!!』とか言われたらさすがに泣くぞ。



「午前中じゃダメなの? 午後は守と出かける予定なんだけど?」


「なら守君との約束はキャンセルしなさい」


「何で?」


「だって明日の午前中私はバレー部の練習が入っていて、午後しか空いていないのよ」


「それは姉ちゃんの都合だろ?」


「あんた、さっき私が言ったこと覚えてる?」


「うっ!?」


「あたしの命令には絶対服従。わかったわね?」


「はい」



 くっ!! こんなことになるなんて。これならこんな約束なんてするんじゃなかった。

 学園の女神様との契約と言えば聞こえはいいけど、実際は悪魔サターンとの地獄の契約だ。



「美鈴、春樹。ご飯できたわよ」


「は~~い。今行くわ」


「おい!! 姉ちゃん!!」


「とにかくそういうことだから。絶対に空けておきなさいよ!! 空けなかったら、わかってるわよね?」



 姉ちゃんはそれだけ言い残して、夕食のテーブルの方へと行く。

 リビングに残されたのは俺1人。その場で呆然とするしかなかった。



「マジで姉ちゃん言ってるの?」



 嘘だと思いたいが、姉ちゃんは嘘をつくような人ではない。

 そうなると俺のやる事は1つ。背に腹は代えられない。

 俺は枕元にあったスマホに手にして、あるところに電話をした。



「もしもし!! あぁ、守か。悪い、明日の予定なんだけど‥‥‥」



 こうして俺は泣く泣く守との予定をドタキャンして、翌日の午後の予定を開けるのだった。



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