第7話 女神様への相談1
「ふぅ、やっぱりいつ見ても近江君は格好良かったわね」
「‥‥‥‥‥」
「特にライブの時の近江君は今までの3倍増しで格好良く見えるわ。さすが近江君。超イケメンね」
姉ちゃんに相談してから3時間。Windsのライブ映像を堪能した姉ちゃんは満足げな表情をしていた。
かくいう俺はと言えば、姉ちゃんに付き合わされて疲れていた。
だって聞いてくれよ。ライブ映像を2時間見るだけでも苦痛だったのに、それから1時間も姉ちゃんのライブ考察を映像と共に聞かされる羽目になったんだ。
おかげで俺の体力も精神もボロボロだ。玲奈の件がなければ、今すぐにでも部屋で寝たい。
「春樹、あんたは今回のライブ映像を見てどうだった?」
「ただただ疲れ‥‥‥いえ、Windsのライブ最高でした!!」
一瞬姉ちゃんが俺に鋭い眼光を向けて来たので、思わず言葉を訂正してしまった。
姉ちゃんが俺を見る目。それはまるで虎が獲物を狩る時の目である。
「そうよね!! やっぱり春樹も同じ意見よね!!」
「まぁ、そうだね」
「特に近江君が歌っている時の表情が最高だったわ!! そう思わない?」
「あぁ、そうだね」
どこかの同じことしか話さないオウムのように、俺は適当に相槌を打つ。
だが俺の適当な相槌もどうでもいいと思っているのか、姉ちゃんは幸せそうだった。
「やっぱり近江君格好良かったな‥‥‥次のライブも超楽しみ‥‥‥」
よっぽどライブを見れたのが嬉しかったのだろう。
今の姉ちゃんは人様には見せられないぐらいだらしない表情を浮かべている。
「さてライブも堪能したことだし、そろそろ部屋に戻ろうかしら」
「ちょっと待ってよ!! 姉ちゃん!!」
「何よ。あんた、まだいたの?」
「まだいたって、話はこれからだろ!!」
元々俺がどうしてここに残っていたのかっていうと、姉ちゃんが俺のことをプロデュースしてくれるって言ったからだろう。
とうの姉ちゃんはその話を忘れていたのか、俺の顔を見てきょとんとしていた。
「私‥‥‥何かあんたと約束してたっけ?」
「プロデュースの話だよ!! さっき姉ちゃん、俺の事をいい男にしてくれるって言ったじゃん!!」
「‥‥‥‥‥あぁ、そういえばそんなこと言っていたわね」
「忘れてたの!?」
「忘れてるわけないじゃない! さぁ、始めましょう。対策会議を!!」
さっきの一瞬の間、間違いなく姉ちゃんは俺との約束を忘れていた。
その証拠に一瞬天井を見ながら考えるしぐさをしていた。
間違いなく俺の頼みは忘れていたと思う。
「まずは春樹、私との約束は忘れていないわよね?」
「あぁ、非常に不本意ながら全て覚えてよ」
私のいう事は絶対に何でも守る。それに対しての口答えは一切なし。姉ちゃんの言うことはすべて聞く。
それが先程俺が姉ちゃんに協力を取り付けた約束だ。
「それならまずは玲奈がどうすればWindsのことをもっと好きになるか考えましょう」
「姉ちゃん!! それって俺をプロデュースすることと何か関係あるの!?」
「全くないわね」
「じゃあ何で今その情報を言ったの!?」
「私がWindsのことが好きだからよ」
「自分の私利私欲の為!?」
何事もないように話しているけど、今はそんな話をしている場合じゃないだろ!!
さっきたっぷり付き合ったんだから、今度は俺に付き合ってよ!!
「別にいいじゃない。玲奈がWindsの中の推しを考察するぐらい」
「もっと他にやる事があるんじゃないの!?」
「あぁ、思い出した。この前一緒にライブに行った時、玲奈はWindsの中では四宮君が大好きだって言ってたっけ」
「既に情報を掴んでるじゃん!!」
上記の会話の通り、姉ちゃんと玲奈はとても仲がいい。
元々中学時代バレー部の先輩後輩の間柄だ。プライベートでも2人で遊びに行っていたことは今でもよく覚えている。
よくよく考えれば小学校の時から、玲奈は姉ちゃんに懐いていたように思う。
家が隣通しという事もあり、3人でよく遊んだよな。今となってはいい思い出だ。
「そういえばこれを見てよ、春樹。この前Windsのライブに行った時の写真!」
「こっ、これは‥‥‥」
「そうよ。私と玲奈の2ショット写真。ベストショットじゃない?」
自分のスマホを誇らしげに見せてくる姉ちゃん。
そこに映っていた写真とは姉ちゃんと玲奈がこれ見よがしにくっついている写真である。
「何でこんなに近いんだよ!! お互いの頬までくっつけてて!!」
それでいて玲奈がまんざらじゃないように頬を染めているのがなおの事むかつく。姉ちゃんは楽しそうにピースしてるし、まるでカップルのようだ。
「こんな‥‥‥こんな写真‥‥‥」
「どう? うらやましい? うらやましいでしょ?」
「うらやま‥‥‥うらやましい‥‥‥」
自分の欲望には勝てない。こうして仲睦まじげに話している2人が素直にうらやましい。
思えば昔から玲奈と姉ちゃんの2ショット写真は見せられてきた。
その度に殺意は沸いてもうらやましいと感じなかったのに、こんなにうらやましいと思ってしまうなんて、俺はどうしてしまったんだろう。
「昔は殺意は沸いたとしても、こんなにうらやましいと思うことはなかったのに」
「殺意は沸いていたのね」
姉ちゃんが俺に対して冷めた視線を向けてくるけど、今は無視しよう。
うらやましいものはうらやましいんだ。その感情は変わらない。
「まぁいいわ。とりあえず春樹が本気で玲奈のことが好きだってことが改めてわかったから、それでよしとしましょう」
「えっ!? 今まで冗談だと思ってたの!?」
「春樹のことだから気分で話しているのかと思ったわ」
「酷い!!」
俺は何に対してもいつも本気なのに!!
姉ちゃんが普段から俺の事をどのように見ているか今の発言でよくわかった。
「そんなことよりも、まずあんたは玲奈のどこを好きになったの?」
「それは‥‥‥言えるわけないだろ?」
「何で答えられないの? 好きになった理由ぐらい、簡単に言えるでしょ?」
「それがわからないんだよ!!」
「わからない? どうして?」
「自分でもわからないんだよ!! 最初玲奈の事は妹みたいな存在だと思ってたのに、気づいたら1人の女性として好きになっていたんだから」
自分でもどうして玲奈のことを好きになったのかいまだにわかっていない。
自然に玲奈のことを目で追いかけることが多くなり、次第にもっと話したいという気持ちが膨れ上がっていて、気づけば好きになっていた。
「なるほどね。あんたは自分でごまかしていた感情にやっとこさ気付いたってことね」
「俺は別にごまかしてなんてないよ」
「はぁ? あんた私をなめてるの?」
「別になめてない!! 気づいたら玲奈のことを好きになってたんだよ!! その考えってそんなに悪いことなの?」
「‥‥‥悪くはないわね」
姉ちゃんは不敵に笑い、そのまま考え込むそぶりを見せる。
ぶつぶつ一人ごとを言っているけど、その声は俺まで聞こえない。
一体何をかんがえているのだろう。変なことを考えてなければいいけど。
「わかったわ。そしたら春樹、あんたが思う玲奈の好きな所を10個以上あげなさい」
「10個!?」
「これでも足りないぐらいよ。それに好きな子のことならすぐ言えるでしょ。ほら、ハリーアップ」
いきなりそんなこと言われたって、こたえられるわけないだろ?
何を考えてるんだ。姉ちゃんは?
「まだ考えつかないの? 好きな子の事なら簡単でしょ?」
「もう少し待って!! 今考えてる!!」
玲奈のいい所か。色々あってどこを答えようか悩んでしまう。
「うん? 待てよ。そういえば守が以前、玲奈のいい所をあげていたな」
そうだ。あの時の守と同じことを言えばいいじゃないか。
妙案だ! そうと決まれば、守が言っていたことを思い出せ。
「まだ考えてるの? 遅いわね~~。本当に玲奈の事が好きなの?」
「今思いついた」
「それじゃあ答えなさい」
守が玲奈の長所として言っていた所。
それを素直に答えればいいんだ。
「まずはあのあの凶悪的に大きい胸‥‥‥って姉ちゃん!? 冗談、冗談だから!? だからその鉄の拳をお納めください!!」
両手を軽くパンパンと叩き、臨戦態勢の姉ちゃん。
その目は狂気に満ちている。これは普段なかなか見ることのできないバーサーカーモードだ。
「あの凶悪的に大きい胸って‥‥‥私への当てつけ?」
「そういう意味じゃないよ!! 姉ちゃんも十分大きいから」
例えばその態度とか態度とか態度とか。
とにかくそのどこからか湧いて出てくる自信と、俺に対してマウントを取ろうとするその態度だけは誰よりも大きいよ。
「誰が私の胸はアスファルトだって? アスファルトでさえもう少しおうとつがあるなんて誰がそんな上手いこと言ったの?」
「そんなこと俺は一言も言ってないよ!?」
どんどん姉ちゃんは自分の胸に関する自虐ネタを持ち込もうとする。
そのうち貧乳を例えるワード一覧ができるんじゃないかと思えるほどだ。
「ふん。わかってるわよ。どうせ今のは守君が思っている玲奈に対しての印象でしょ?」
「何で姉ちゃんわかるの!?」
「それぐらい簡単にわかるわよ。一応あの子とも小中高一緒だったんだから、玲奈の事をどういった視線で見ていたなんて手に取るようにわかるわ!!」
さすが姉ちゃん。守のこともよく観察していらっしゃる。
あの様子を見ると、守に対してあまりいい印象をお持ちではないようだ。
「人の考えばかり話すんじゃなくて、自分の考えを述べなさいよ!!」
「俺の考え?」
「そうよ。あんたは玲奈と小さい頃から一緒にいたんだから、あんたしか知らない玲奈のいい所を見つけられるでしょ!!」
姉ちゃんに叱咤激励され、俺は改めて玲奈のいい所を考え直してみるのだった。
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