第5話 自覚した感情
体育館で行われた入学式が終わり、現在俺は1年A組の教室内にいる。
椅子に座り1人でぼーっと窓の外を眺めていた。
「玲奈と違うクラスか」
小学校から中学校までずっと同じクラスだったので、クラスが離れてしまってぽっかりと心に穴が空いてしまったみたいだ。
さっきまで体育館で入学式を行っていたが、その時の会話が全く入ってこない。
「一体どうしたんだよ、俺は‥‥‥」
昔はこんなに玲奈のことを考えることなんてなかったのに。
あの昇降口前で玲奈の事を意識してから、玲奈の事ばかり考えてしまう。
こんなに集中できないなんて、まるで何かの病気にかかってしまったみたいだ。
「お疲れ!! 春樹!!」
「なんだ‥‥‥守か」
そういえば自分のクラスに行って気づいたことだけど、同じクラスには守がいた。
他の友達に声をかけられないのか、はたまた俺のことを気にかけているのか先程から執拗に俺に声をかけてくるのだった。
「『守か』じゃないよ!! もっと他にいう事があるだろ!!」
「もっと他にいう事?」
守に対していう事なんて何もないぞ。
あるとすれば何で一緒のクラスになったのが守なのかってことだ。
まずい。段々とこのさわやかイケメンフェイスを見ていたら、無性に腹が立ってきた。
「あぁ。そうか。そういうことか」
「ほら? 俺に話したいことがあるだろ?」
「とりあえずそこの窓から飛び降りてくれないか?」
「何故!?」
「俺の視界にいてほしくないから」
「そんなに俺って邪魔なの!? 小学校からの腐れ縁なのに!!」
入学して間もないというのに、守は異常にテンションが高い。
あまりの高いテンションについて行けず、俺は再び窓の外を見た。
「それで一体何の用だよ」
「いや~~、ここは小学校からの腐れ縁として、また俺達が同じクラスになった感想を聞こうと思って」
「感想?」
「ほら、色々あるだろ? 俺達がまた同じクラスになったことに対しての?」
守にそんなコメントを求められても何も感想はないんだけど?
むしろ玲奈がこのクラスの中にいないことに凄く違和感を感じる。
「それにしても、俺達の腐れ縁もここまでになるとはな」
「そうだな」
「まさかお前と同じ高校に受かっただけじゃなくて、こうして同じクラスになるなんて思わなかったよ」
「そうだな」
今は放っておいてほしいのに、相変わらずのうざ~~いテンションとさわやかイケメンフェイス。
守の顔を見る度に思う。八つ当たりなのはわかっているけど、ここにいるのが守じゃなくて玲奈だったらよかったのにと思ってしまう。
「一体どうしたんだよ、春樹? 今日はいつもよりテンションが低いぞ!! テンションが!!」
「そういう守はテンションが高いな」
「そりゃあ高いに決まってるだろ? この学校は可愛い子が多いんだから」
「そうなの?」
「そうだよ!! 春樹は見てなかったの!? この学校のレベルの高い女の子を!?」
「別に見なかったな」
学校に遅刻しそうになったし、何より玲奈のことばかり考えていたので、他のことを考える余裕がなかった。
確かに周りを見ると綺麗な人が多いような気がする。
「春樹は彼女が欲しいって吹聴する割には、そう言ったことには無頓着なんだな」
「悪かったな」
「入学式で新入生に向けてスピーチした美鈴さんといい、この学校には可愛い女の子が多いよな」
「姉ちゃんか」
「そうだよ。相変わらずあの人はキラキラしてるよな。背中に後光が差しているっていうか、神聖な感じがするよ」
「普段はぐーたらしてるけどな」
「違いない」
守も姉ちゃんがぐーたらしている所を頭に思い浮かべているのだろう。
その表情からは笑みがこぼれている。
「入学式の美鈴さんのスピーチ、覚えてるか?」
「スピーチ?」
「それも覚えてないのかよ!! 美鈴さん凄かったぞ。新入生を前にして立派に話していて。あの姿はまるで女神のようだったな」
さすがは守だ。玲奈だけじゃなくて、姉ちゃんのことも崇拝してる。
思えば昔から守は玲奈と姉ちゃんの話を良くしていたな。
裏の姉ちゃんの顔を見ても笑い飛ばしていたので、本当に器の大きい男だ。
「春樹が元気がない原因は玲奈ちゃんの事?」
「!!」
「そうか。やっぱり玲奈ちゃんと別のクラスになったのが寂しいみたいだな」
「お前‥‥‥エスパーか?」
「やっぱり図星だったか」
何で俺の考えがお見通しなのだろう。
驚いた俺の顔が面白かったのか、守は俺のことを見て不敵な笑みを浮かべた。
「春樹が教室に来た時に元気がなかったから、たぶん玲奈ちゃんのことだと思ったよ」
「そうだよ。玲奈のことをずっと考えてた」
「へぇ~~~」
「何だよ? 気持ちが悪い顔をして」
先程のさわやかイケメンフェイスはどこへ行ったのだろう。一転してニヤニヤと笑いながら俺の事を見る。
ねばつくような笑みを俺に向け、守は笑い続けていた。
「一体何がそんなに面白いんだよ?」
「いや、ついにお前も気づいたんだなと思って」
「何の話だよ?」
「もしかして、まだ無自覚?」
「だからなんの話だよ!!」
守は繰り返して聞くが、俺には守が何を言っているのかわからない。
ただ繰り返し玲奈のことをしきりに聞いてくるだけなので、対処のしようがない。
「なるほどな。きっと美鈴さんなりの考えがあるんだろうけど、僕が口を出してもいいのかな?」
「何をぶつぶつ言ってるんだよ?」
「いや、別に。何でもないよ」
その後も何か独り言を守は言っている。
最近の姉ちゃんにも言えるけど、俺の前で独り言を言うのが流行ってるのかよ。
「まぁ、少しぐらいなら手助けしてもいいか」
「手助けって何だよ」
「こっちのことだよ。それよりも春樹、あれを見てどう思う?」
「あれ?」
「あそこの廊下にいる人達のこと」
廊下を見ると確かに大勢の人達が行きかっている。
入学式直後のホームルームが終わったのだろう。既に校内を自由に行き来していた。
「もうホームルームが終わった人達の事だろ? 俺達ももう帰れるんだから、早く帰ろう」
「馬鹿!! そこじゃなくて、あそこの廊下にいる人の事」
「あそこ?」
守が指を指す場所。そこには玲奈が教室の外でたたずんでいる。
ただしそこには玲奈1人だけではない。数多くの友達と楽しそうに話をしていた。
「玲奈、楽しそうだな」
「注目ポイントはそこじゃないよ、春樹」
「どういうことだよ?」
「玲奈ちゃんの周りには女子ばかりじゃない。男子もいるんだよ」
「男子!?」
よく見てみると、確かに玲奈の周りには女子ばかりでなく男子も大勢いる。
玲奈を囲んで色んな人が代わる代わる話しているように見えた。
「玲奈‥‥‥」
「玲奈ちゃん、可愛くなったよな」
「うっ?」
「あの感じなら、彼氏の1人2人ぐらい簡単にできるだろうな」
「がっ」
「特にあの玲奈ちゃんと親しく話してるイケメンを見てみろよ。凄くお似合いじゃないか?」
守が指を指すのは短髪でさわやかなイケメンである。
それもただのイケメンではない。制服越しでもわかるような、細く無駄のない筋肉。 それでいてしなやかな体。
そしてどこかの特撮のライダーに抜擢されるような格好いい容姿。間違いない。あいつは守と同じ人種だ。
「あのイケメンめ。玲奈といちゃつきやがって」
玲奈も話しかけられてまんざらでない顔をしているのが余計にむかつく。
楽しそうに話している2人を見て、ひどい疎外感を感じてしまうのだった。
「あのいけ めんたろうめ。玲奈と仲良くしやがって」
「別に玲奈ちゃんが誰と話していてもいいだろう。それよりもあそこにいるのは、春樹がつけた名前ではないと思うよ」
「いいんだよ!! 別に名前なんてどうでもいい
今はあのいけめんたろうと玲奈が話しているのが問題だ。
あの2人が楽しそうに話しているだけで、胸が張り裂けそうになる。
「何だ!? この気持ちは!?」
「やっと気づいたようだな、春樹」
「気づいた? 俺が?」
「こんなことを言うのは野暮だと思うけど、春樹は玲奈ちゃんのことが好きなんだよ」
「俺が‥‥‥玲奈のことを?」
「そうだよ」
俺が玲奈のことを好きだって?
「ないない、そんなこと。だってあの玲奈だぞ? 玲奈は俺の妹みたいな存在なんだから、そういう感情はないよ」
「じゃあ玲奈ちゃんの隣にいる男があそこにいるイケメン君でもいいんだな?」
「うっ?」
そう言われると胸が痛くなる。何故だかあの2人を見ていると、ものすごい不快感に襲われるのだった。
「いいか、春樹。想像してみろよ。玲奈ちゃんとキスしている別の男のことを」
「玲奈が別の男と‥‥‥」
「そうだよ。試しにあそこにいる玲奈ちゃんとイケメン君がキスしているのを想像してみて」
イケメン君とキスをしている玲奈の姿。きっと玲奈は憧れの眼差しをしてるんだろうな。
それでうっとりとした表情をしてイケメン君のことを見て、ゆっくりと目をつぶり、あのイケメン君との距離がどんどん縮まっていく‥‥‥。
「ウガァァァァァァ!! そんなの絶対ダメに決まってるだろ!!」
「やっと気づいたか」
「俺は‥‥‥玲奈のことが‥‥‥好き?」
「そうだよ。春樹は玲奈ちゃんのことが好きだったんだ」
確かにそう思うと、玲奈にバレンタインデーにチョコをもらえなくて落ち込んでた理由もわかる
他の子からバレンタインデーにチョコをもらえなくても落ち込むことはなかったのは、大好きな玲奈のチョコをもらえていたからだ。
それは俺が玲奈のことが好きだから、それだけで満足していたんだ。
「そう考えると、俺は今までとてつもなくもったいないことをしてきたんじゃ‥‥‥」
「今更かよ」
「俺は‥‥‥俺は一体どうすればいい」
「どうにもならないと思うけどな」
「マジかよ!?」
「だってよく考えてみろ。今の玲奈ちゃんめちゃめちゃ可愛いだろ?」
「確かにな」
中学の時も可愛かったが、、高校に入って一気に垢ぬけた。
髪をバッサリ切ったことにより、玲奈の元の良さが際立っていて可愛さが数段階上がった。
「それに中学時代学園の女神様って呼ばれるぐらい人望もあったことは、春樹も知ってるだろ?」
「あぁ」
「かくいう春樹はどうだ? 玲奈ちゃんぐらい人望はあったか?」
「ないな」
人望も勉強も今の俺には何もない。
唯一運動だけは玲奈以上にできていたけどそれだけである。
見た目も玲奈と比べて全然だ。比べるのさえおこがましいだろう。
「今のお前と玲奈ちゃんじゃ、天と地の差ぐらいあるってことだ」
守から突き付けられた現実。
俺と玲奈の差は天と地か。ずいぶんと差がついちゃったな。
「ふっふっふっふっふっ」
「どうしたんだよ、春樹。頭がおかしくなったのか?」
「俺は正常だ。だけど守」
「何?」
「俺決めた。玲奈と対等に並び立てるようになって、玲奈に告白する」
「いい面構えになったじゃん」
俺の顔を見て守はそう言った。
守からはニヤニヤ笑いは消えており、純粋に俺の事を応援してくれているようである。
「ありがとう、守」
「だけど春樹、変わるって言ってもそんなに簡単に変わることができるのかよ?
「ちっちっちっ、甘いな。守」
「えっ!?」
「俺を誰だと思ってる?」
「えっ?」
「不可能を可能にする男、小室春樹だぜ」
そうと決まれば行かなければ行かない所がある。
こうしてはいられない。早く家に帰らなくては。
「ありがとう、守。俺はさっさと帰らせてもらう」
「えっ? 玲奈ちゃんと一緒に帰らないの?」
「帰れるわけないだろ? 今の俺なんて玲奈は眼中にないんだから、誘っても無理だって」
「‥‥‥この馬鹿野郎」
頭を抱えたまま、考え込んでしまう守。
何故この場で頭を抱えてるんだろう。そして俺の事を小馬鹿にするような視線はやめてくれ。
「まぁ‥‥‥まぁ、いいだろう。万‥‥‥いや、1億歩譲って自分の気持ちに気づいただけでも前進だ」
「守、何を言ってるんだ?」
「なんでもないから。とにかく春樹は早く家に帰れ」
「おぅ」
守と別れ、俺は廊下へと出ようとする。
最後に守が遠い目をしながら、『美鈴さんに連絡しないと‥‥‥』というつぶやきが聞こえたのは気のせいだろう。
「こうしちゃいられない」
スクールバッグを持って、廊下を走っていると玲奈とすれ違う。
一瞬玲奈と目が合ったがそのまま廊下を駆け抜けた。
「春樹‥‥‥」
「三日月さん、どうしたの?」
「!? ‥‥‥なんでもないよ」
玲奈が何かつぶやいた気がしたが今はそれどころじゃない。
自分が変わる為にはある人の助言がいる。その人に会わないといけない。
「さぁ、これから忙しくなるぞ!!」
気合を新たにして学校を出る。
学校を出た俺は大急ぎで家に帰るのだった。
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