第3話 心に巣食う闇 ヴィヴィアンSide
「だからあの時きつくお止め致しましたのに、まさかこの様な事になるとは思いも致しませんでした」
「……ごめんなさいシンディー」
私は今猛烈に恥じ入ると同時に猛省致しております。
そして休んでいる私の傍でシンディーはぷんぷんと物凄く怒っておりますの。
ええ、何故なら彼女の頭に魔王の如く禍々しくも大きな角が二本、にょきにょきっと見事に生えて見えるのは私の幻覚なのでしょうか。
それとも――――。
「奥方様っ、聞いておられるのですかっ」
「はいっ、ごめんなさいっ」
ええ本当に申し訳なく思っています。
魔王の如くとは流石に言い過ぎですわね。
シンディーは何時も私の事を第一に考えてくれるのですもの。
何度転生しようとも、私のシンディーはこの様な私を何時も全力で護ろうとしてくれるのです。
その様に命懸けで護って貰う程、私自身そこまで己に価値があるとは到底思えないと言うのにです。
それでなくともシンディー、貴女はジプソン子爵家よりお預かりした大切なご令嬢なのですよ。
貴女ももう22歳、そろそろ本気で貴女自身の幸せを見つけなければ……。
そうして今度こそ貴女は誰よりも幸せになるのです。
ええ何と申しましても貴女の幸せは私の幸せなのですからね。
「本当に先程は心が潰れてしまう程に心配致しましたわ。傍にいたウィルクス夫人やダレンさんそして――――ああジョナスも一応は心配しておりましたわ」
「ま、その様な事を言っては駄目よシンディー。ジョナスは失神寸前でありながらも彼は誰よりも早く私の異変に気づいてくれたのですもの」
そうなのです。
何とも表現しようのない気持ち悪さと嘔気の後に私は、あろう事かそのまま意識を手放してしまったのですもの。
ああ本当に失態です。
お客様の目の前で、それも初めてお会いした御方の前で気を失うとは本当に情けないの一言に尽きます。
でも気を失ったのは本当にほんの一瞬で、ジョナスが異変に気付いてダレンが直ぐ私を寝室へと運ぶ道中で私は意識を取り戻したのですもの。
なのにダレンやシンディーだけでなくウィルクス夫人までもが視察中の旦那様への連絡とバークリー医師の手配をと騒ぐものですから、ただの疲れなので大袈裟にしないでと説得するのに結構な労力を費やしました。
まあここだけのお話ですが気を失う事に心当たりは無きにしろ
ええ、大きな声では申し上げられませんがでも……それを考えると同時に先程のブラドル令嬢と旦那様の件を思い出してしまい、何とも胸の辺りが激しくざわつくのです。
今日まで生を受けて四十年と数ヶ月。
そこへ繰り返しの転生を足せば一体私はどれ程の人生を経験した事になるのでしょうか。
でも多くの人生を経験したのにも拘らず今の、この人生だけは何もかもが特別で、全く経験した事のない体験そしてそれに関連する様々な想いに私の心は正直に申しましてかなり、ええかなり翻弄されておりますの。
ふわふわと甘くもありそれはお空に浮かぶ雲の上を覚束ない足取りで歩いて、いえ幼子の様に軽くぴょんぴょんと飛んでいたのかもしれません。
だってそれはとても楽しくまた幸せ?
果たして私は本当に幸せなのでしょうか。
私は旦那様と共にいて本当に幸せだと感じていたのだとすれば、今この瞬間心の中、いいえ心だけでなく全身が鉛の様に重く、指先を軽く動かそうとするだけで酷く億劫となりまた心と言わず身体の内なる部分の全てがとろりと粘度のある炭?
若しくは漆黒よりも尚黒いのタールの様なもので、徐々にそれは一部の隙も無くゆっくりとでも確実に私の内側が覆われていくのです。
私は何とかその場所より逃げ出したいと必死に足掻くのですが、とろりとしたタールの様なモノは拭っても拭っても直ぐに私へと、まるで無形状のスライムの様に纏わりつくのです。
それと同時に私の脳裏には男女の、旦那様と令嬢との厭らしくも熱くお互いの身体を絡ませている光景が瞼の裏へと、これは瞳を開けようが反対に閉じようともその光景は変わる事なく私の瞳にしっかりと焼き付き、それ故に私の心は果てしなく苛まれていくのです。
そう、それは私の傍近くで話すシンディーの声さえもそれは徐々に聞こえない程に……。
ああ、あの時シンディーの制止を振り切らねば良かったと、どの様に後悔しても後の祭りだったのです……ね。
そうしてまた私の心へと漆黒の闇が一滴静かに染み込んでいくのです。
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