第21話
オーガリーダーの間合いに入ろうと足を踏み出して二歩目で、吹き飛んだ。
それに、なんだか踏み出した側の足の付け根が、ジンジンと痛む。
今まで折ったことはないが、骨とか、折れているかもしれない。
痛みと、吹き飛んだ……なぜ?
相手の攻撃?……違う。これは、
自爆だ。
スキルの暴走、体感スピードの変化、それに、体に合わない身体能力の使用による、自壊?
そりゃそうか。
いきなり凄まじいスピードや筋力を手に入れたところで、扱いきれずに振り回されるだけなのだ。
薬屋をスキル対象にして大丈夫だったのは、あいつが人間レベルの能力値だからだ。
だから俺の反射神経が問題なく反応できる程度だったのであって、人間をはるかに超えた――魔物の能力値を使う場合は、人間の知覚スピードを超えてしまうから扱いきれない物になってしまう、と。
それに、自壊効果。
このタイミングで、太もも辺りに激痛?動かせそうにない。
本来なら、筋力の膨張収縮によって力を生み出しているんだから、いきなりこの体に見合わない力で動いたら壊れて当然である。
一旦回復しなければ。幸いにも、相手はこちらを嬲ろうとしているのだから少しの間は攻撃せずに怖がる様子を見ている……はず。
こんな項目があるかはわからないが、賭けに出るしかない。
「自然治癒力、十割」
その瞬間に、じくじくと痛んでいた部分がさらに激しい痛みを出しながら、修復を始めた。
ミシミシと音が聞こえるかのような強制的な回復。
エネルギーも大量に使われて、貧血のような症状に襲われた。
「っはぁ、はぁ……」
しかし、ひとまず怪我はなおっ――
野球のバッターのように横に振り被られていた棍棒が、ついに、風の悲鳴とともに動き始めた。
やばい、これは避けられな「シルヴァッ!?」い?
何かに思い切り押された。
肉体にぶつかる棍棒、体ごと吹き飛び棍棒が当たった部分からで出てきた血が空を赤く、まだらに染めた。
俺は、それを少し離れていたところで見ていた。
……何故?現状が理解できない。俺は生きている?助かった?誰かに押されて棍棒の範囲内から脱した?誰が。あの服装、髪色、体格――薬屋が俺を押して、助けた。
じゃあ、今吹き飛んでいった人影は、薬屋?
薬屋が俺を庇って代わりにオーガリーダーの攻撃を受けた!?
「あ、あああぁぁあぁ……」
だめだ理解できない。
理解したくない。心が理解を拒む。
視界が狭まり、体が強張る。何故だか何処からか震えが始まり、だんだんと体全体に伝播し始める。
「ああああぁぁあ、ぁ?」
どうしようもない。
仲間もいない、敵は多い、しかも二人でも叶うかどうかわからないような敵がいる。それら全てを一人で倒す?……無理だできっこない。
俺はここで、死ぬしか、ない。
どう希望的観測をしたとしても、達成するとは思えない。
だってこいつはそれぐらいに、狡猾で戦略的だ。
この遭遇してから少ししか経っていない間でも理解できた。
あ。
理解してしまった。
「……」
諦めたら、震えが収まった、体の強張りも、視野の狭窄も。
代わりに、圧倒的な無気力が体を支配した。
周りは魔物どもの移動音でざわざわしている。
聞こえるのは、心地いいと思っていた風が木の葉を凪ぐ音と、魔物の声、グッチャグッチャと土を踏む下品な足音。
「……れ」
いや、それだけじゃない。
聞こえる。あの声が。
「がんば、れ」
こちらの世界に来てからずっと話してた声。
「がん、ば……れ、」
今は苦しそうだけど、本当は優しくて暖かい、あの声。
「頑張れ、シルヴァ……」
薬屋の声が、確かに聞こえる。
苦しそうな声だけど、所々に水音っぽい音が混ざるような声だけど、薬屋の声が、確かに聞こえる。
あいつは諦めてない。俺に全てを――命もこれからの人生も俺に託して、任せて。
信じてくれているのだ。
「それなら、」
それなら、俺がすることは。
俺がすることは、ここで折れることじゃない。
「じゃあ、」
じゃあ、俺がするべきことは、なんだ。
考えるな、考えろ。
顔を上げろ目を開け体に力を込めて耳をすませ五感すべてで情報を得て、それらで勝ち筋を作り上げろ。
出来ない、じゃない、やる。
やるしか、ない。
「……」
頭が回り始める。
まずは能力値の変更だ。
二割でハンマーが少し重い程度だった、ということは三割――いや、四割までなら制御出来る。
制御、する。
筋力四割速度四割、そして耐久力に二割だ。
またしても賭けではあるが、自然治癒力なんてものにふれたのだから、あるだろう。
この耐久力で自壊ダメージを抑える。
少なくともこいつらを討伐するまでは体が耐えられるように。
次は、勝ち方だ。
オーガリーダーだけに構ってたら取り巻きにやられる。
それならいっそ、周りを巻き込んで戦闘する?
ハンマーは大型武器だ、オーガリーダーの持つ棍棒も。それなら、こいつをなるべく吹き飛ばしながら、大振りな攻撃で周りごと叩き潰す。
攻撃は横ぶりだ。縦でいちいち一体ずつ潰す暇なんてない。
――じゃあ、行こうか。
ハンマーは遠心力を利用する横回転、達磨落としを基準とする、しかしそれよりも大きな振りで周りを巻き込む。
「討伐作戦その三、
さあ、気合いを入れ直して。
あいつを討伐しようじゃないか。
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