第20話
「っ!?」
俺と薬屋が話をしながらいつものように歩いていたとき。
俺と薬屋は、同時に同じ方向を向いた。
周囲の空気感が変わった、その、一番強い場所に。
足音も聞こえる。
何体もの重い足音と軽い足音、それに、最前列を行く、ひときわ重いのに足取りの軽い音。
そしてそこに奴はいた。
大きな体に、獰猛な牙、筋肉によってありえないくらいに太くなった手足と棍棒のような武器。
それに、後ろについてくる魔物たち。
それは、一部を除いたらオーガリーダーだった。
そう、たった二つだけ。
本来は濃い緑色であるはずの肌が赤黒いのと、後ろをついてくる魔物がオーガ以外もいる事だけが、オーガリーダーと違う点だ。
そしてそれは――
「オーガリーダーの、亜種……っ!?」
薬屋が思わず叫んだ。
そうか、今まで出会った魔物が違う種族同士なのに一緒に行動していたのは、そういうことだったのか。
この空気の変わり方は普通ではない。
俺は、ダンジョン内で禁止していた、モンスター情報の閲覧をした。
今は、楽しさとか考えている暇はない。
神様wiki曰く、普通のオークリーダーと亜種のオークリーダーの違いは……
「オーガリーダーはオーガしか仲間にできないけど、亜種は、自分より弱い魔物全てを仲間にできる……」
あとは、
「普通のオーガリーダーとは一線を画す身体能力を持つ……」
そして、
「オーガリーダーよりもさらに戦略的な行動をとること……」
そうだ。だから、つまりは。
「一階層で、混成部隊に会ったところから、もうあいつの掌の上……?」
「……それは、どういうことだ?」
違和感はいくつかあった。
「ここの魔物たちは、いくらスキルが強いといっても弱すぎた」
「弱すぎた……?」
話している間も、相手から目は離さない。
離した瞬間にやられても、なんらおかしくない。
「全部、こいつが仕組んだ。戦闘能力を上げずに、戦闘経験を積ませずに、油断した状態でここまで来れるように――弱者をなぶり殺すためだけに」
「弱いものいじめするためだけに、何体もの仲間を犠牲にしたってこと……か!?」
「……そういうこと」
じゃなきゃこんなにとんとん拍子では事は進まない。
あいつの足音も、心なしか少し軽いのだ。
あいつはこの状況を楽しんでる。
……これは、一回目じゃ無さそうだな。
勝てるか?わからない。でも、間違いなくあいつは薬屋よりも強い。
薬屋では、あいつには勝てない。
素の能力値がおそらく違いすぎて、同じ土俵にもたてないだろう。
じゃあ俺があいつと戦う?
戦闘技術のほとんどない、俺が?
勝てる可能性は、低い。
限りなく、低い。でも、薬屋よりかはおそらくある。
少なくとも能力値という面においては俺はこいつに勝てる。
……それならば、することは一つ。
「……薬屋」
「なんだ」
「取り巻きよろしく。あいつは、討伐する」
「んな、無茶な」
「無茶じゃない、このスキルなら、できる。それに」
なんだか、出会った直後の会話を思い出した。
前もこんな禅問答をしたなぁ。
前もそうやって馬鹿話して、そして――
「明日もあなたと話をする」
「……そう言われたら引くしかないじゃんか」
とっさに出てくる言葉がこれなのは、驚きだ。
俺は、意外とこいつとの生活が気に入っているのかもしれない。
青臭い友情ってやつだろうか。らしくない。
薬屋は、頭をガシガシと頭を掻いた。
そして一呼吸起き、
「あいつは任せた」
確かに、そう言った。
「任された」
決めたら即行動に移す。
まずはスキルの対象変更だ。
薬屋からオーガリーダーへ。
こうすれば能力値は格段に上がる。
そして、能力を振り分ける。
相手は強い、その上頭も回る。
それならば、考える暇を与えない。
速度八割で突っ込んで二割を筋力に振り分けてでハンマーを持つ。
さすがオーガリーダー。
二割でもハンマーを持つ感覚が今までより重い、程度しかない。
二割でもこんな鉄の塊が持てるとか、頭おかしすぎる。
でも、
これなら、勝てる。
薬屋が、横側から魔物を倒し始めあいつの意識がそちらに言った瞬間。
ここだ。
そして俺は一歩目を踏み出し――否、踏み出そうとして、吹き飛んだ。
正確には、二歩目を踏み出せなかった。
そして吹き飛ばされたさきは、あいつの前。
オーガリーダーの目の前だった。
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