第22話

 今回の戦いにおいて難しいのは、自分の消耗度合いと、相手の仲間の数の具合だ。


 俺が周りにいる魔物を全部倒していってたら、間違いなく俺は途中で戦闘不能になる。

 ならばどうするか?答えは簡単だ。


 同士討ちさせる、これに限る。

 御誂え向きにもオーガリーダーの持つ武器は大振りな棍棒。そして、神様wikiで調べた結果、流石に武術まではわかっていないらしいのでオーガリーダーの攻撃を味方に当てつつ、俺も敵を減らしていくのが吉とみた。


 ならば取るべき場所どりは?


 真っ先に思いつくのは……っていうか、いくら考えても魔物たちとオーガリーダーの間ぐらいしか浮かんでこない。

 ならばそれで、やるしかない。


 オーガリーダーを牽制しつつ間に割って入る、そしてオーガリーダーが横からの攻撃を俺に向けたところで真上に飛ぶっ!


「グゲッ!?」


 そうすれば、ほら、オーガリーダーの攻撃は自分の味方に当たって何体かを潰した。


 あいつが本当に戦略的で冷静であったら味方の消耗を防ぐために何か対応をとる可能性はあった。

 しかし、俺は、それを考えていなかった。


 ここまで弱者を無傷で運ぶためだけにあんな数の仲間を犠牲にしたやつがそんなことを考えるとは思えなかったのだ。


 あいつは戦略家である前に享楽主義者だ。

 目の前の勝率よりも享楽を優先し、実際それで圧勝してきた。


 その油断が、唯一の勝ち筋だ。


 派手だったり、妙なトリックが仕掛けてあったりなんてない。

 出たとこ勝負の本番だ。

 でも、これが俺が――俺と、薬屋が生き残るための唯一の道筋。


 余裕ができれば俺自身も魔物たちを減らすためにハンマーを振る。

 すると、みるみるうちに魔物の数は減っていき、


「ぐ、ぐげぎぎぎゃぁぁ!!」


 何体かを――頭では把握できていない。まるで情報と体の動きがそのまま連結しているような感覚だ――残した時点で生き残った魔物たちは逃げていった。


「あとは、おまえだけだ」


 最終ゴングは俺がお前の頭蓋を叩き割る音だ。


 現状、俺とオーガリーダーは相対している。後ろにはもう魔物はいない。

 残すはオーガリーダーのみ。


「討伐作戦、」


 お前がやってきたこと、そのままやり返してやる。


 お前は俺が成長しないままここに上がるのを望んでいたわけだ。

 でも、現実は違う。


 レベルも上がったし、色々な技を、まあ、自爆覚悟ではあるものの編み出して、体、神経を酷使させながら俺だってここまできたのだ。


 だって、普通に考えて欲しい。いきなり異世界に来たからって戦えるようになるわけでも、恐怖が消えるわけでもない。

 俺は俺のままなのだ。

 それでもずっと頑張ってやってきた。


 ずっと、このハンマーを振り続けてきたんだっ!


「そのゼロ


 だから、お前に見せてやる。

 俺の努力の証を。

 体が覚えるほどここ一ヶ月間やり続けた同じ動きを。


 能力値は筋力五割、耐久力五割。

 速度には振らない。相手がこっちに来るのを待つだけだ。


 ハンマーを大上段に振り上げて、停止。


 あいつは来る、絶対に。


 駆け出す巨躯、ギラつく瞳にニヤつく口角。振りかぶられる長く大きな棍棒。


 ここだ。


「餅き」


 俺は、いつものようにハンマーを振り下ろした。

 いつものように、重心を落として。

 いつものように両手で力強く柄を握りしめて。


 そして。

 いつものように潰すっ!


「うをおおおおっっ!!」


 筋力が高すぎる、制御しきれずに柄に俺の手形がついた。

 それでも、持つのをやめない。


 ハンマーがオーガリーダーの頭にぶつかって、少しずつ顔の形を歪ませる。

 血走った眼は顔から飛び出て、口角は真上から叩き潰す。


 顔を破壊して、首も潰す、骨が砕ける固い感触。気にせずに力を込める。

 見た景色がまるでスロー映像のようにゆっくりと流れる。


 だんだんと、ハンマーが反り返ってしまっていて、そして、気がついた時には。


 血の池と、肉片。その中心に深々と突き刺さったように見える、俺のハンマーだけが残っていた。


 スキルの使いすぎで身体中がいたい。

 でも、息をつく暇はない。

 早く薬屋をなんとかしなければ。


 あいつは言っていた。薬はいくつか冒険者なんだから常備している、と。

 どのくらいの効果かはわからないが、それにかけるしかない。


 急いで薬屋の方に近づく。スキルの能力値はいつの間にか消えていた。

 あいつが死んだからだ。

 俺は急いで薬屋をスキル対象にした。


「よかった……」


 いきてる。

 スキル対象にできたのだ。


 おそらく俺をいたぶるために軽く攻撃したのだろう。でなければ今頃薬屋は粉微塵だったはずだ。

 しかし、出血量が多い。


 今探してきた薬だって、小さな傷ならともかく、こんな傷はなおせないだろう。


 どうする。


 俺に託してくれたんだぞ?

 出会って一ヶ月しか経ってない、身元不明の俺に。


 なんとか、生かさないと。

 あと試していない手はなんだ。

 わからない。


「治れ、治れ」


 血は今も少しずつ流れていっている。

 顔色も悪くなる一方だ。

 ピクリとも動かない。


 どうすればいい?

 わからない。


「治れって……言ってんだろうがあぁぁあっ!!」


 思わず叫んだその瞬間、周りが金色に明るくなった。

 違う。俺の、アイボリー色のはずの髪が輝いて――発光して、いる?


「っ?」


 何かを抜かれる感覚、思わず貧血のような症状にかられた。

 そして、俺から抜かれた何かは髪の毛をより一層輝かせる。

 その輝きは、薬屋を優しく包み込んだ。


 傷が、塞がっていく。出血は止まり、青かった顔も素の色に戻っていった。

 何かはわからないが、よかった。


 そう思い、薬屋が瞼を少し開きかけたのを見て、思わず油断して。

 俺は意識を失った。

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