第24話 アズリア、子供らに託す
「だからよう!ここに
「も……申し訳……ありま、せんが……冒険者、の……情ほ、うはっ……」
「何遍も言わせるなよ!俺様はランベルン家の使いで来てるんだ!冒険者
「……か……はっ」
受付の女性は胸ぐらを掴まれながら男の乱暴な態度にも怯むことなく抵抗を続けていた。だがそろそろ限界だろう。
アタシは湧き上がる怒りを何とか理性で抑え込み、
「────アンタが探してるのはアタシだろ?手を離せよ、貴族の飼い犬」
アタシの顔を見るなり、興味を失ったかのように受付の女性を解放し、女性は床にペタンと尻もちをつくと荒く呼吸をし始める。
男はというとこちらをまじまじと確認するとニタリと気味悪く笑いながら、拳に格闘用の……昼間の
「よう、探したぜぇ。テメェにやられたおかげでルドガー様には叱られるし給料は下がるし酷ェ有様だ」
「自業自得だろうが……この負け犬」
「ぬかせェ!ありゃ俺様が女なんぞに本気を出すまでもない思いやりだったんだ!それをテメェは台無しにした挙句に仇で返しやがった!」
「……はぁ。それで?」
言ってることが無茶苦茶すぎるね。
大体、女だから本家を出せずに負けました、なんて理屈を認めて欲しいんだったら冒険者や貴族の護衛なんぞせずに騎士団に入隊して騎士道とやらでも語ってろっての。
話を聞いているうちに、何故こんな雑魚に憤慨していたのかがだんだんと馬鹿らしくなってきたが。
「へへ、これを見てまだそのスカした態度でいれるかよ?」
そう言って男がアタシの足元に転がしてきたのは、見覚えのある鳥を象った銀の髪飾りだった。
ところどころ曲がっていたりしていたが、これはアタシがシェーラに買ってあげた髪飾り……
「……おい……これを、
「その前に言うことがあるだろ?このバルガス様に拳を振るって申し訳ありませんでした、ってな」
こいつがネリを泣かせたのか。
この野郎がカイトを殴ったのか。
この負け犬風情が……シェーラを攫ったんだな。
この豚になら────本気を出しても許される。
アタシはもう自分の怒りを抑えられなかったし、抑えるつもりも微塵も無かった。
「後悔するなよ────
「……ああん?小さすぎて聞こえねえぞ!それに突っ立ってねぇで膝をついて額を床にこすりつけて謝るんだよ!謝り方も知らねぇのかテメェは!」
「……額を床につけるのはテメェだ。この豚が」
瞬間、男の腹にアタシの渾身の拳がめり込む。
しかも右眼の
アタシの拳に伝わるのはあばら骨が何本か折れた感触。
拳の衝撃で身体をくの字に折れ曲げながら、口からは声にならない呻き声と一緒に吐き出す真っ赤な血。
「……おい豚。死にたくなかったら本気でこいよ。でないと、ホントに
「かは……ッ……て、てっ、テメェ……」
「まあ本気だろうがなんだろうが関係ない。アンタは今ここで死ぬ……何故なら、アタシが殺すから」
一撃で倒れるなんて許すものか。
崩れ落ちそうになる男の頭を鷲掴みにすると、片手で男の身体を無理やり起き上がらせる。
男を掴んだまま、膝を男の股間へと叩き込みその激痛で悶絶し口から血の泡を吹くが、頭を掴んでいるので倒れることは出来ない。股間から血と液体が漏れ出しているが。
アタシは構わずに怒りに任せて男の顔面へと何度も何度も拳を振るう。
「……て下さい!この人が死んじゃいます!」
アタシの拳が止まったのはその声だった。
いや、気がつけばアタシの身体には拳を止めようとカイトやネリ、クレストにリアナが必死の表情でしがみついていた。
男の顔に巻かれた包帯は真っ赤に染まっていたが、どうやらまだなんとか息はある。
「ふぅ……大丈夫。みんな、ありがとな」
「……いえ、アズリアさんが俺たちのために怒ってくれたのは分かってますから」
「こんな男のせいでお姉さんが人殺しになっちゃうなんて絶対ダメです!」
泣きそうになりながらアタシに怒ってくるネリの頭を撫でながら、少しだけ反省する。
子供たちに心配されちゃうなんて、まだまだアタシも心は子供のままなんだね。
でも、さすがに昼間に乱闘騒ぎを起こして衛兵長に注意されたばかりだ。今度は罰金を払い即釈放とはいかないだろう。
アタシはまだやらなきゃいけないことがある。捕まるなり衛兵に出頭するにしても、まずはシェーラを救出してからだ。
一つだけ心残りがあるとすれば……
ふとその心残りに気がつき、組合のカウンターにあった羊皮紙とペンを借りて簡単な手紙を書くと、その手紙をカイトに手渡し。
「お願いがあるんだ。この手紙を、南地区にある精霊様を祀っている大きな樹に今すぐに届けてくれないか?依頼料は前金で金貨一枚」
「……え?こ、こんな大金、受け取れないよ!」
「夜も遅いから特別料金だ。気をつけて配達してくれよ」
「アズリアさんは……これからどうするの?」
「アタシ?んー……ちょいとそこの
すると冒険者らの一人が、ランベルン邸に向かうアタシに後ろから声を上げる。
「い、いくらアンタがどんなに強くてもランベルン家にゃあの
「ありがとな、教えてくれて」
「……ランベルン家の連中は、一部の冒険者を囲って他の冒険者を喰い物にして殺人、密売、奴隷の売買など違法行為で荒稼ぎしてる。現にオレの親友もあそこの依頼を受けて行方知れずだ。だけど証拠がなけりゃ貴族様相手にいくら平民が訴えても聞いてもらえない」
「アンタとアンタの親友の名前は?」
「オレはアラン。あいつはウェスタ、いい女だった」
「ならアラン。ウェスタの仇はアタシ、アズリアの名前に誓って取ってやる」
「……ありがとう。死ぬなよ、アズリア」
「ははっ。アタシはまだ美味いものを食べ足りないからね……こんなところで死んじゃいられないよ」
まあ、もう王都じゃ落ち着いて食事は出来ないかもしれないけどね。
ランベルン家。
アンタらはもう冗談や謝罪じゃ許されないレベルにまで手を出してくれたからね。
アタシはシェーラの髪飾りを握りしめながら、
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