第23話 アズリア、友人のために王都を走る

 離れの寝室。

 突然訪ねてきたシェーラに色々と振り回された一日だったけど、王都に滞在するようになってほぼ毎日、精霊界でとんでもない試練ばかりだったから。

 いい息抜きになったな、とベッドに寝転がり睡眠に落ちかけうとうととしていたその時だった。


 慌ただしく扉を開けたのはランドルだった。


「どうしたんだい、ランドルの旦那ぁ?」

「……シェーラは来てないか?」

「ん?夕刻の鐘と一緒に帰ってきたけど」


 最初は眠気もあってランドルの問いかけにピンときていなかったが。徐々に頭が動いてきた。

 ……待てよ。そもそも夕刻にシェーラが帰宅したのはランドルも知っているだろう。屋敷に帰宅した時に一緒にランドルとマリアンヌに会っているのだから。

 それでもアタシにシェーラの居場所を聞いてきた?


「ランドル、シェーラはどうした?」

「夜会に行ってから姿が見えなくなった……」

「夜会?」

「アズリアと一緒に帰宅してから、侯爵宅で開催された夜会にマリーと三人で出席したんだ」


 どうも出席していた他の貴族に捉まって少しシェーラから目を離した隙に姿が見えなくなってしまったらしい。マリアンヌも同じく貴族の令嬢や夫人らに捉まってしまったようだった。

 主宰の侯爵に事情を説明し、会場となった侯爵の屋敷をくまなく探して回ったものの、シェーラを見つけることは出来なかった。

 後に侯爵の使用人が、シェーラが気分が悪いということだったので、一旦別室で休んでもらい馬車を呼んで先に帰宅したというのだが。ランドル夫妻が帰宅してもシェーラの姿はなく、今アードグレイ家の使用人や商会の従業員に手伝ってもらい手分けしてシェーラを捜索中だという。


「それってさ……」

「わかってる。だが……証拠がないんだ」


 ランドルも薄々、ランベルン家の連中がシェーラの失踪に関与しているだろうと推測はしていた。だが相手は格上の伯爵だ。証拠も無しに誘拐犯呼ばわりし、もしそれが濡れ衣だった場合に代償としてきっと向こうはシェーラとの婚約を持ち出してくるだろう。


「……証拠があればイイんだね?」

「待てアズリア!お前さんをこの件に巻き込むわけには……」

「シェーラの一大事を放っておけるかよ!」

「この話はお前さんの嫌いな貴族絡みになる……」

「なあ。アタシとランドルは友人なんだろ?だったらこういう時にゃ遠慮なく頼ってくれよ。な?」


 アタシはランドルの返事を待たずに屋敷を飛び出して夜の王都に駆け出していった。

 ランドルもランベルンが関与している証拠を探している。さすがに侯爵宅をアタシが調べるのは難しい、そっちはランドルに任せよう。

 まずは今日、シェーラと巡った街中を辿っていけば何かわかるかもしれない。



 アタシは王都をひたすら走り回った。



 だが、予想に反してシェーラの足取りの手掛かりになるようなモノやランベルン家に関連する証拠と言えるモノは何一つ見つけることは出来なかった。

 街を巡回する衛兵にも余計な事情は説明せずにシェーラとランベルン家の話を聞いたが、やはり何も知らなかった。

 焦る気持ちを抑えるために、無意識のうちに自分の左の乳房を強く握ってしまっていた。痛い。

 到着したのは昼間に乱闘騒ぎを起こした東地区の菓子店。

さすがにこの時間では、店は既に閉まっていて建物には明かりは見えない。周囲を見渡してもこの時間だと酔っ払いがたまに通るだけで、話を聞けそうな人は見当たらない。

 この際話が聞けるなら酔っ払いでも構わない。フラフラと足取りがおぼつかない男に声を掛けてみる。


「……あぁン、何か用か姉ちゃん〜ヒック」

「済まないね。ランベルン家のーー」

「らんべるぅん⁉︎は!あそこの話なんかしたくねぇなぁ〜ヒック……酒がマズくなるぜぇ〜」

「!……何かあったのか?」

「さっきそこでよぉ〜護衛のデカブツとぶっかっちまってよぉ〜そしたらいきなり殴られたんだよぉ!……おかげで飲みかけの酒パァだぜぇ……パァ!」

「そのデカブツが何処いったかわかるか⁉︎」

「教えてほしいかぁ?……って!こ、これはぁ〜!」


 アタシは酔っ払いの手に金貨を一枚握らせてやった。酒代ならこれで浴びるくらい飲めるだろう。一介の情報料としちゃ破格すぎる金額だが、今はまさかの貴重なあの家の護衛の目撃情報だ、出し惜しみはしない。


「お、おお!教える!教えるさぁ!あのデカブツなら冒険者組合ギルドに入っていったぜぇ!こ、これでイイか?満足か?」

「ああ、ありがとなおっさん」


 酔っ払いの目撃情報通りに冒険者組合ギルドにその護衛がいたとしても、組合ギルドで要件を済ませてしまえばまた見失ってしまう。アタシは急いで冒険者組合ギルドへと向かった。


 組合ギルドの建物に近づくと、何か騒ぎが起きているのか男の怒鳴り声と入り口に群がる冒険者らの姿。それと女の子の泣き声?……まさか!

 入り口の冒険者の群衆をかき分けていき、中の様子を伺うと。昼間アタシが殴り倒した?であろう男が受付の胸ぐらを掴んでいた。何故疑問形なのかというと、その粗暴な男は顔中に包帯を巻いていたからだ。

 その端っこにうずくまって泣いているのは……冒険者登録をした時に一緒になった四人組の子供で、確かネリという少女だった。そしてリーダー格のカイトの顔は腫れ上がり、血を流しているのは口を切っただけじゃなく頭から落ちたからなのか、壁にもたれかかったまま他の二人に介抱されていた。


 ……何なんだ、この状況は?

 なぜ子供らがコイツに攻撃され泣かされてる?

 なぜコイツは冒険者組合にいるんだ?

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