第20話 アズリア、貴族に絡まれる

 怒鳴り声をあげ店員を萎縮させていたのは、明らかに周りの人間とは身なりの違う少年と執事のような服装の二人の大人だった。


 どうやらこの貴族の少年は、巷で評判になった甘味に興味を持ったご様子で店を訪れたまでは良かったが、混雑に次ぐ混雑で目当ての甘味が購入出来るまで待てなかったのか。「貴族だから優先しろ」という無茶を言い出したのだろう。


 店の人間が頭を下げて対応しているのを見て、周囲の客の反応は様々だが、皆一様にこの横柄な貴族の態度に不満を持っているのが伺える。


 不満を顔に出す者。不満を口にする者。


 だが、執事らしき男二人に凄まれると目を逸らしてしまう。その様子を見た貴族の少年は、


「平民ごときが不満を口にするな!父上に頼めばお前たち全員を不敬罪で死刑にだってボクは出来るんだからな!はっはっは!」


 他の国でも増長した貴族がこういった態度を取る姿を幾度か見てきたが。

 そもそも平民の稼ぎあっての貴族だろうに、そんなことも理解出来てない人間が貴族とはね。もしこんな貴族ばかりだとしたら……案外この国も長く保たないかもしれないね。


「……あれはランベルン伯爵家長男のルドガー様です」

「やけに詳しいね。え……もしかしてさっきの」

「はい。しつこく求婚してくる殿方というのは……あのルドガー様なのです」


 うん。ありゃ間違いなく駄目だ。

 もしランドルが婚約認めてもアタシが許さない。

 

 横を見るとシェーラの顔色が悪い。余程あの馬鹿貴族の求婚が酷かったのかもしれない。

 シェーラがこれ以上気分を害さないよう、今日のところは評判の甘味は諦め場所を変えてシェーラが落ち着かせようとこの場を離れようとしたのだが。

 時既に遅く、あの馬鹿貴族ルドガーがあろうことかこの人混みの中からシェーラを見つけてしまったのだ。


「おお〜これはこれは……シェーラ殿。このような場所で貴女に巡り合えるとはこれもまた運命……ああ」

「いえ、運命などでは決して。私には連れがおりますのでルドガー様のお相手はまた今度」

「いえいえ〜そのようなつれないことを申されますなシェーラ殿。どうですかな?これからボクの屋敷でこの菓子を──」

つつしんで遠慮させていただきますわ」

「平民上がりの男爵の娘ごときがルドガー様のお誘いを断ることがあってはなりませんな。さ、こちらへ」


 シェーラはしつこい馬鹿貴族ルドガーの誘いを何度も断り、アタシの手を引いてこの場を去ろうとするが。

 馬鹿貴族の傍に控えていた護衛の男が勝手に・・・シェーラの肩に手を置き、無理やり馬鹿貴族が乗ってきた馬車に乗せようとする。力を込めて肩を掴んでいるのかシェーラの顔が苦痛に歪む。


「おやぁ?どうなされましたかな、シェーラ様ぁ?」


 さすがに我慢の限界だった────ガキが。


 アタシはシェーラの肩に乗った男の手首を叩いて払い除け、護衛と馬鹿貴族ルドガー、そしてシェーラの間に割り込んでいく。

 言っておくが……アタシは怒っていた。


「シェーラお嬢様はご遠慮なさる、と言ったのですから。聞こえなかったのかい?ここは退けよ、坊や・・

「は?何でボクが退かなきゃいけない?ボクは貴族だ……」

「貴族なのはお前の父親だろ?お前は貴族でも何でもない、父親の名前がなきゃ何も出来ないただのクソガキ……違うかい?」

「おい!お前たち!この無礼な女を不敬罪で叩きのめせ!殺したって構わないぞ!あとで父上がどうにでもしてくれる!」


 馬鹿貴族ルドガーの命令でアタシに襲いかかってくる護衛の男二人。

 屈強な身体をした男は拳に金具を装着したから格闘戦重視。もう一方の痩せ型の男は腕を後ろに回したのを見ると短剣でも隠し持ってるのかもね。


「おい、お前だよな……シェーラの肩を力任せに掴んでたのは、さぁ」


 まずは屈強な体格の護衛のほうだ。

 お前は絶対に許さない・・・・・・・


「はっ、よく見たらこの女たかが4等冒険者フォースドじゃねえか。オレもエボンも元は2等冒険者セカンドだ」

「……だから何?」

「つまりテメェには勝ち目なんかハナからねえんだよっ!」

 

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