第14話 アズリア、再び子供らを助ける

「試験お疲れ様でした。それではこちらがアズリアさんの4等冒険者フォースドの登録証になります。こちらは簡素ですが首飾りになってますので、常に首から下げておいてもらえると助かります」


 受付から手渡されたのは表面はこの王国の紋章、裏にはアタシの名前が彫られている銅製のプレートがついた首飾りだった。

 ん?……今、4等冒険者フォースドの証って言った?

 さっきカイト達が貰っていたのは5等冒険者フィフスの鉄製の証だったし、てっきり登録し始めは全員一番下の等級からだとばかり思っていたんだけど。


「本来ならばアズリアさんは未登録なので5等フィフスからとなるのが原則なのですが……その、ゴールドリザード討伐の功績を当組合では無視するわけにもいかず、4等冒険者フォースドにするという結論になりまして」

「私をああも簡単にあしらったから何か訳アリだとは思ったけど、まさか噂になってたゴールドリザード討伐者本人サマだったとはね」

「さすがお姉様ですわ。まさか飛び級で冒険者登録してしまうなんて」


 受付だけじゃなく試験官だったメリアまで出てきて、4等冒険者フォースドからのスタートになった理由を説明してくる。

 シェーラが言うように、冒険者組合ギルドが初登録で飛び級を提示してくることは稀らしい。実際、飛び級認定される有能な冒険者は飛び級認定などしなくてもすぐに等級を上げていってしまうからだ。

 まあアタシは等級上げにはあまり興味がない、というか等級が上がると責任や義務が増えて面倒なのでこのままで構わないんだけどね。


「でも、あの黄金蜥蜴ゴールドリザードの素材は今や王都の貴族の皆様が取り合いをするほどに人気になっているんですよ?私も組合ギルドで受付して長いですけど、黄金蜥蜴ゴールドリザードなんて初めて見ましたよっ!」


「ふざけんなよオイ!」


 とアタシらの会話を邪魔する怒声が入口辺りから聞こえてきた。その怒声に反論している声には聞き覚えがある、カイトの声だ。

 どうやらカイト達が冒険者証を持って組合から出ようとしたところを、怒声を放った男らに因縁をつけられている様子だ。


「何で俺達が不合格で、テメエらみてぇな糞ガキどもが合格なんだよ!納得いかねぇぞコラ!」

「何かインチキしやがったんだろ!痛い目に遭いたくないならとっととその証を俺らに寄越せ!」

「こ……これはインチキなんかじゃない……お、俺達が自分の力で……」

「うるせえ!とにかく────」

「はいはい。そこまでにしときな負け犬連中」


 よく見ると、カイト達に因縁をつけているのは早々にメリアに一撃で倒された傭兵崩れの三人組だった。

 おいおい、お前ら。

 カイト達が本気で戦ったら多分ボコボコにされるのは実力からいってお前らのほうだぞ、と心の中で思ってたが。見た目だけは傷痕やらいかつい顔やらで強そうに見えるからな。

 そんな三人組の背後から連中の肩を組むようにもたれ掛かりながら連中の会話に割り込んでいった。


「なあ?飛び級で4等冒険者フォースドになったアタシにゃ因縁吹っかけてこないのかい?……それとも、子供相手なら何とかなると思っちゃった?」

「え?……いや……そ、それは……あの……」

「アタシもこの子供達と一緒に受かったってことはさ、アタシもインチキしてた、って暗にその口で言ってくれてるんだ・よ・ねェ……」

「!……違っ……そ、それは……」


 腕に力を少しばかり入れて男らの首を締め上げていきながら、声を少しずつ低くしながら男の言い分を一つ一つ潰していく。

 カイト達には威勢の良い態度だった傭兵崩れの連中も、騒ぎを起こして組合にいた大勢の人が見ている中で徐々に旗色が悪くなっていくのを感じたのか態度が萎縮し、この場から逃げ出したくても肩を掴まれている以上は逃げられない。

 結局、最後のほうには何を言ってるのか聞き取るのさえ難しくなるような小声になってしまった。

 チラリとシェーラを見ると、顔を真っ赤にしながら何か言いたそうにこちらに歩み寄ろうとしている。  

 ……ま、マズい!


「違う?ならアタシと再試験でもするかいッッ!」


 そろそろ決着をつけないとシェーラが何を言い出すか怖くなり、肩の力を緩めて逃げ道を作ってやりながら男らを睨みつけて恫喝すると、


「「「ひいいいいっ!ご、ごめんなさいぃぃ」」」


 泣き言を叫びながらこちらを振り返ることなく一目散に連中は組合から走り去っていった。

 試験の時の剣捌きを見てたが、あの連中はきっと実力不足で傭兵団を足切りされたのだろう。野盗に身を落とさなかっただけは褒めてやりたいが、あの腕じゃ野盗狩りにあって敢えなく捕まるか、最悪その場で始末される運命だったと思う。

 まあ、冒険者以外の道で幸せになってくれればそれに越した事はないけど、次にカイト達に絡んだ時には遠慮なく叩き潰してやる。


 するとカイト達が御礼を言いに来た。

 アタシとしては、カイト達の冒険者としてのメンツを潰していないか気になったところだが。


「試験だけじゃなくまた助けられちゃいましたね」

「いやいや、あのまま乱闘にでもなったらボコボコにされたのはアイツらだったろうからさ。寧ろ余計な口出ししてすまなかったね」

「いえ、ネリなんかはあの状態ですから……」


 ネリは男の恫喝に怯えきっていて、リアナの背後に隠れていた。よく見るとカイトもクレストも気丈を装っているものの膝が震えていた。

 魔物を相手にするのと、人間の敵意や悪意を相手にするのはまた違った種類の勇気が必要になる、とアタシは思う。まあ、こればかりは他人が口出ししてどうかなるモノでもない。

 乱闘寸前の騒ぎが収まってから、組合にいた古株の冒険者達は新人冒険者へと声をかけていた。口を挟めなかった事を謝る人。新人にお勧めの依頼を紹介する人。その様子を見ながら、色々な人間と出会っていってあの子達は良い経験を積んでもらいたい、と感慨に耽っていると。

 くい、と指を引っ張るのはシェーラだった。


「あの……お姉様?もし、私がああして暴漢に襲われていたとしたら。さっきあの子達を助けたみたいに格好良く現れて助けて下さいますか?」

「ん〜どうだろうねぇ?シェーラはあの子達と違って強いからなぁ」

「もう!真面目に答えて下さいっお姉様!」

「あははははははっ」


 嘘だよ。

 アタシはこの肌と魔術文字ルーンを継承したことが理由で辛い幼少期を過ごしてきた。だから、どんな理由でも子供が虐げられる状況を見て見ぬふりは出来ないし、無視したくない。

 だからシェーラもアタシの手が届くなら絶対助けるし、絶対に相手には容赦はしない。

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