第13話 アズリア、子供らの手助けをする
試験をすると言われて受付の女性に案内されたのは、
アタシと同じく連れてこられたのは、前に受付をしていた男女の子供それぞれ二人ずつの四人組と、装備なんかを見たところ傭兵崩れなのだろう三人組、アタシを含めて合計八人。
訓練所の奥から現れたのは、筋肉質で体格の良さに加え、革鎧から露出している肌や頬など至る所に傷痕のある、見るからに年季の入った傭兵、といった眼光鋭い女性の姿だった。
年齢は……40は越えているだろう。
「あー、今日試験を受けるのはこれだけみたいだね。私の名前はメノア、これでも元は
まず試験を受ける順番は三人組の傭兵崩れのようだが、どうやら一人ずつではなくて三人まとめて相手にするようだ。
片や傭兵崩れ。片や元
それでも三対一なら何とか相手になるんじゃないかと予想していたのだが、傭兵崩れの連中の腕の無さがあまりに酷過ぎて相手にもならなかった。
しばらくは相手の攻撃を受け続けていた試験官だが、攻撃疲れで隙だらけになったところをそれぞれ脇腹、肩口、背中に木剣を叩きこまれその場で三人は悶絶。試験官の合図で終了した。
「な、何だ今の」「やっぱ等級違いすぎ……」
「勝てっこないよこんなの」「怪我しないうちに帰ったほうが……」
自分らよりも体格だけは大きかった傭兵崩れの圧倒的な負けっぷりを目の当たりにして、子供ら四人組は完全に意気消沈していた。
冒険者登録をこれからする相手にわざわざ元
正直言って、この程度の戦いを見たくらいで消沈してしまうくらいなら冒険者にならないほうが生命の危険がない分、幸せに暮らしていける筈である。
その点では間違っていないのだが。
「で、でも。ここで諦めたらネリの母さんの薬代は到底稼げっこない!薬がなかったらマズいんだろ?」
ああ、もう。そういう話、弱いんだって。
ほら、横にいるシェーラも口には出さないけど「何とかしてあげられませんかお姉様?」って表情浮かべてるし。
ホントならここで手を出したくないのが本音。今ここで手助けして冒険者になれたとしても、次に困難に遭遇した時に運悪く誰も助けてくれないかもしれない。
それならここで手助けせず冒険者になれなかったほうが長期的に見れば、彼ら彼女らのためになると頭では理解している。しているんだよ。でもさ。
やっぱ手を出さずにゃいられないんだよね。
アタシって馬鹿だからさ。
「ねえ、アンタ達?……どうせ負けると思ってるんだったらさ、ここは騙されたと思ってお姉さんの話聞いてみる気はない?」
「「「「は、はいっ」」」」
まずは作戦会議。
アタシは子供ら四人の名前と大まかに自分らの得意なことを聞き出していった。
前衛のカイトとリアナ。カイトは攻撃よりも防御が得意らしく、リアナは脚の速さを生かした速攻と撹乱が得意なようだ。
そして後衛のクレストとネリだが、クレストは射撃武器による遠距離攻撃を、ネリは何と風魔法を
その情報を元にとある作戦を立てて、それぞれ違う役割を子供らに説明していく。多分冒険者に登録する前から色々と弱い魔物で訓練していたのと違う役割に戸惑ってはいたが、最初の時のような沈んだ様子はもうなくなっていた。
「この作戦で一番重要なのがカイト、あんただからね。ここでネリに良いトコ見せておきたいんだろ?」
と、最後にこっそりと耳元で周りに聴こえないようにカイトをからかっておいた。
そして二戦目の開始の合図。
前衛に立っているのはリアナとカイト……ではなくクレスト。合図と同時に試験官であるメノアの両側に駆け出し三角形のような陣形を取る。
あらかじめクレストは何個か石を拾っておき、その石を帯布を使って簡易スリングを作り投擲していき、ネリは風の
メノアの身体の傷痕の多さから「避けるのが得意ではない」という推測はどうやら的を射ていたらしい。
リアナは遠距離二人に狙いを定める前に接敵して攻撃しては一歩間合いから引くのを繰り返す。
「……そろそろかね」
膠着状態が続けば戦闘経験のない子供らが不利。
それを打破する合図として口笛を吹くと、ネリはそのタイミングで自分が使える魔法の中で一番強力な風魔法の準備を始める。
さすがにそれを見て準備を中断させるためにネリに狙いを絞り接敵するリアナを振り解いて突撃する
その進路を妨害する位置にいるのはカイト。木剣を攻撃ではなく受け流すための盾としてメノアに立ち塞がる。メノアも何とか魔法を妨害しようとカイトを押し退けようとするが、防御に徹したカイトは年齢に見合わぬ頑丈さで、元
メノアは完全に目の前のカイトとネリに意識を釘付けになった、と判断してもう一度口笛を吹くとクレストは自分の木剣を助走をつけてからメノアの頭部目掛けて投擲する。
後頭部に木剣が命中し、少しばかり意識が飛んだようで足取りのおぼつかないメノアへ、ネリが風魔法で生み出した「
そのまま後方へ倒れたメノアは降参の合図となる両手を上げて、二戦目は終了した。
「やれやれ……子供だと思ってたらやるじゃないか。これだけやれたんだ、あんた達は文句なしに合格だよ」
「「「「や、やったぁぁぁあ!」」」」
どうやら作戦が思いの他上手くいったみたいで、自分が戦うより緊張したのか、思わず握り込んでいた掌は汗でびっちょりだった。
この作戦は、以前魔物を村人ら総出で生捕りにした際に、そこで出会った奴が提案していたやり方を真似ただけなんだけどね。
「あ、ありがとうございます!」
「凄い……まさか、勝てちゃった……」
「こんなにあの作戦が上手くいくなんて」
「これでお母さんの薬……買ってあげられる」
カイト達からは助言の御礼を言われ、ネリなんかはみんなの後ろで泣いていた。冒険者になれたくらいで喜んでちゃ駄目だろ、母親に薬買ってやらなきゃいけないんだから。
喜んでるとこ悪いけど次はアタシの番。
でも、作戦授けて勝たせておいて、自分はあっさり負けちゃいました、じゃ格好つかないよね。
まあ、結論から言うと勝ったよ。
試しにこの木剣振ってみたけど、やっぱり軽過ぎてマトモに打ち合ったら勝ち目ないからさ。
試験官の攻撃に合わせて木剣目掛けてアタシの木剣を力任せに叩きつけたら両方の木剣が砕け散った。
その結果を最初から想定した上で剣同士をぶつけたアタシは、目の前で自分の剣が砕けて一瞬呆然とした彼女の顔面に拳を放ち。
……命中する寸前で振り抜いた拳を止めた。
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