第12話 アズリア、冒険者組合を訪れる

「お姉様は冒険者等級を持っていないのですか?」

「冒険者の等級?」


 それは離れにある建物にシェーラが遊びに来るようになって聞かれたのがきっかけだった。

 どうやらシェーラの話によると、このシルバニア王国では冒険者組合ギルドによって、その冒険者の腕前や依頼成功率など総合的な力を1から5までの等級で区別しているらしい。ちなみに1等冒険者ファーストが一番ランクが高い。

 この国に来る以前にはそんな等級分けはされていた記憶はないのだが、そもそも冒険者組合ギルドに身分を登録した憶えもないので当然っちゃ当然か。


「うーん、面倒だから冒険者組合ギルドで登録してない」

「えっ?そ、そうなのですか?……てっきりアイアンリザードをいとも簡単に倒してしまうお姉様ですから、最低でも2等級セカンドだと勝手に思い込んでいました」


 いつもは滞在する期間、面倒なので冒険者組合ギルドを介さない護衛任務や農村からの魔物退治の依頼なんかを細々と受けて路銀を稼いでいたが。

 この王国は治安も周辺国家との関係も良好そうだし、長く滞在してもいいのかもしれない。

 昨晩のブルの塩釜焼きや屋台の串焼きのように、まだまだ王都には美味い食事があるのかもしれないし。それならば冒険者組合ギルドに属しておくのも悪くはない。


「それじゃ明日にでも登録しに行ってみるかね」

「それならば是非シェーラもご一緒させて下さい、お姉様」


 ……シェーラ、まずお姉様呼びやめよっか。


 そして翌日になり、シェーラの案内で組合ギルドにやってきたものの。建物の中は結構な賑わいで人の密度が大変なことになっていた。

 この国には古くから勇者と魔王の物語が子供に大人気で、大きくなると「勇者様のようになる!」と冒険者になって実力をつけ騎士団や王宮魔導士を目指す騎士学校や魔法学院に入学する経済的余裕のない平民の子供が、試験に合格する必要はあるが登録は12歳から可能な冒険者になる道を選ぶのと。

 この規模の都市の食料含む物資を支えるとなるとどうしても現地生産や商人らの流通だけでは不足しがちであり、その不足分を何でも屋の冒険者に物資調達や魔物討伐という依頼が絶えることがないためであった。

 そして冒険者の登録証はこの王国に滞在している限り簡易的な身分証明に使えるため、旅人や行商人も身分証欲しさにとりあえず登録しているらしい。

 

 幸いに登録のための受付は空いていたおかげで二、三人分待たされる程度でアタシの順番は回ってきた。


「はい、それではこちらの書類に名前などを記入していって下さいね」

「シェーラが登録可能な年齢ならば、是非お姉様と一緒に冒険者登録したかったのですが……」


 残念ながらシェーラはあと一年登録には足りなかったようで、本気で口惜しがっていた。でも話によると登録には試験があるらしいじゃないか。


「ちなみにシェーラは腕っぷしと頭、どっちを使うほうを選んだんだい?」

「よくぞ聞いて下さいましたお姉様、シェーラはこれでも剣も使えて氷魔法も中級魔法エキスパートまでなら使えますわ」

「へえ、魔法も使える剣使いとはねぇ。でもそれなら冒険者登録より魔法学院に通ったほうが……」


「記入漏れは……はい、無いようなので、書類はこれで結構です。それでは試験に移らせていただきますので、こちらにご案内します」


 書類には出身地という項目があったが、そこは帝国とは書かずに帝国の南にあった国で立ち寄った村の名前を適当に書いておいた。

 別にシルバニア王国は帝国ドライゼルとは距離がある以上、直接的な影響や評判はないと思うが。帝国ドライゼルは周辺国に絶えず侵攻を繰り返す戦争国家なだけに帝国出身と口にするだけで下手な火種や誤解を招きたくない。


 しかしシェーラがそんな優秀だったとは。

 アタシは理由があって魔法が使えない。だから今度シェーラに氷魔法ってのを見せてもらえるようお願いしてみるかね。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る