第3話 アズリア、野営の準備をする
そんなわけで。
路銀がないので仕方なく保存食だけは用意してもらい、王都を出発してランドルが所持しているという鉱山に向かっていた。
鉱山までは完全に道が整備されているわけではないが、途中までは整備された街道を歩いていける上、馬車で鉱石を運ぶための道はあるようなので、幸いに道に迷う心配はしなくていいらしい。
それでも一日二日で到着する距離でもないので、道中での野営は必須となる。
話によれば、鉱山はメタルリザードが確認された時点で閉鎖され鉱夫らに危害が及ぶ懸念はないので、冒険者ギルドへの緊急依頼ではなくまずは自前の護衛やアタシみたいな見ず知らずの冒険者を頼みにしたのだろう。
「あのランドルって商人、まさか鉱山持ってるとは思わなかったよ。そりゃ、アタシの得物が普通じゃないって気付くよなぁ……少しばかり
街道を進んでいき、何事もないまま日が暮れ始める。本格的に夜を迎える前に野営の準備をするために、街道を外れた開けた場所を見つけると、枯れ木や枝を集めて
晩飯の準備にと鍋に干し肉を放り込み焚いた火に鍋をかけて煮立たせながら肉が柔らかくなるのを待つ。
ゆらゆらと揺らぎ燃える焚き火を見つめて、あらためてランドルが自分の大剣の秘密に気付いてるのだろうと確認する。
そう、アタシが背負っている大剣は、この辺りでは使われていない金属、クロイツ鉱製なのだ。
現在、数種類の金属を一定の割合で混ぜる特殊な製法を持ってしか製造出来ないクロイツ鉱を製造・加工出来るのはここより遥か北に位置するドライゼル帝国だけであり。
故に帝国は、その製法が外に出ないようにクロイツ鋼製の武具や装備の流通を完全に帝国内に限定して製法を秘匿していたのだった。
それほどまでに外に製法が漏れるのを嫌う理由の一つがクロイツ鉄はとにかく「硬くて強い」のだ。
この金属で鍛造された武器は、現在のラグシア大陸で一番防具に使われているだろう鉄製の鎧や盾を容易に貫通、破壊することが出来る程だ。
だがもちろん看過できない欠点も存在する。
それはこの合金が、金属の強度に比例するかのように「とてつもなく重い」ことなのだ。
単純に武器や鎧をクロイツ鉄で製作したとしても、並の兵士では
尤も、クロイツ鉱には特殊な紋様を浮かび上がらせるという性質があるために、クロイツ鋼の存在を知る人間が見れば簡単に察しはついてしまうのだが。
そんな特殊な金属の、しかも尋常ではない巨大な幅広剣などを所持している一人旅の女戦士だ。
ランドルがメタルリザードを何とか排除してくれるかも、と期待するだろうことは想像に難くない。
「まあ……行き倒れたアタシを拾ってくれただけじゃなく、あんな美味いメシをご馳走してくれたんだ。何とかしてやりたいのはやまやまなんだけどねぇ……」
晩飯の仕上げに、と最後に岩塩を削って味を調整し完成した干し肉のスープを、保存用の固い黒パンを浸して柔らかくしながら少し遅い晩飯をアタシは食べながら。
この先待ち受ける厄介者……メタルリザードの最たる特徴を思い出しながら、焚き火に向かって思わず溜息を吐く。
「アタシが知ってる限りだけど……確か、アイツは餌にしていた鉱石の量と種類によって色々と性質が変わっちまう、なんて厄介な能力持ち、だったよなぁ……」
そう。
メタルリザードという魔獣は、金属を食糧として口にしているだけでなく、その餌としている金属の種類によって討伐の難易度が大きく変わってくるのだ。
銅や錫ならまだ能力は平凡、ただ表皮が堅いだけ。
餌が鉄だとしても、能力や体長は銅や錫よりは上がるものの、まだアタシが苦戦するほどではない。
しかし。
特に金の鉱石を餌にしたメタルリザード──いや
それはもはやリザード扱いよりも、小型ながら
故に、メタルリザード討伐は冒険者の依頼としては嫌われる部類に入る。出現する
「アタシとしては鉄や銅程度じゃ手応えなさ過ぎるから、銀のメタルリザード辺り……が棲みついてくれてたら嬉しいんだけどねぇ」
事前にランドルから聞いた話では、これから向かう鉱山は鉄鉱石を採掘していると言っていたので鉄以外のメタルリザードが出現する心配はないと思うが。
こういった討伐依頼に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます