第4話 アズリア、嫌な予感が的中する

 鉱山に到着する前から薄々と嫌な予感はしていた。

 そういや、ランドルから聞いた話では数人の護衛を連れて鉱山に来ていたんだっけ。余程ハズレの護衛を引き当てていたんじゃないなら、アイアンリザード程度なら対処出来る筈だと。


 そう、リザードの大群にでも遭遇しない限りは。


 そしてその嫌な予感は鉱山に入ってすぐにリザードの襲撃というカタチで当たってしまったワケだ。

 数は二体、どちらもアイアンリザード。


「あちゃー……鉄鱗アイアンなのは助かったけど、やっぱり群れだったかあ……こりゃ、少しばかり面倒なことになるかねぇ」


 そう愚痴をこぼしながら、アタシは背中に背負っていたクロイツ鋼製の大剣をこちらを敵と認識して向かってくるアイアンリザードを迎撃するために構える。

 幸いにもこの鉱山、高めに掘られているためか多少の不自由はあれど大剣が振るえないほど狭くはないようだ。これには非常に助かった。

 そのまま駆け出しアイアンリザードに肉薄すると。


「うらぁぁぁああああッッ!まずは一匹ッッ!」


 本来ならば大の男二人がかりで何とか持ち上げられる程の重量の大剣を、その重さに振り回されることなく鋭く目の前のアイアンリザードの頭部目掛けて容赦なく振り下ろす。


 それは熟練の戦士の持つ剣筋でも。

 騎士達の振るう合理的な剣術でもなかった。


 誰からも剣を振るうすべを学んでこなかった彼女の、ただ目の前の敵を叩き潰すという目的だけに力任せに振り下ろされた一撃だったのだ。

 その力任せの一撃は、鉄の鱗に覆われた頭部と頭蓋を叩き潰して一匹目のアイアンリザードを瞬く間に沈黙させる。


 すると、突然現れたアタシに、目の前で同族を屠られた二匹目は一旦足を止めて警戒態勢を取り、アタシが一歩踏み込むとササッと後ろへ退がり大剣が届かない間合いを保とうとする。


「……チッ。蜥蜴のクセに頭使ってきやがって……見張り役相手に愚図愚図してると、奥から仲間がやってきちまう」


 そう、群れには必ずと言っていいほど見張りを置く。

 それこそがこの連中の困った習性なのだ。

 メタルリザードは基本、餌場である鉱石層から離れない。それが鉱山に入ってすぐに襲われたということはこの二匹は見張り役だったのだろう。

 ……しかも残りの一匹はやたら警戒心が強い。


 奥に何匹残っているか確認しないままで、この狭い通路で数に物をいわせて攻められたら、いくらアタシでも無事では済まないだろう。


「こりゃ、少しばかり本気・・を出したほうがいいかもしれないねぇ、うん……幸いに周りにゃ誰もいないし、ね」


 本気……つまり魔術文字ルーンを発動させる準備のために、睨み合いを続けるリザードに隙を見せないようにしながら。

 アタシは魔術文字ルーンが刻まれている右眼に魔力を送り始めるのだった。

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