第17話 約束

「なんだ?」


俺が空に放った滅びの裂槍ジャベリンブレスが突然途切れ、急にあたりが暗くなる。

驚いて空を見上げると、日食が起こっていた。


「日食だと?」


直ぐにこれが只の日食ではない事に気づく。

何か得体のしれない力を感じたからだ。


空を怪訝な眼差しで眺めていると、天から一条の光が差し込んで来る。

その中を、翼の生えた美しい女性が舞い降りてきた。


「な!女神!?」


何者か気づき、思わず驚愕の声を上げてしまう。

それは間違いなく、俺を転生させた女神だった。


女神は俺の顔の前で停止すると、さらりと髪をかき上げ、にっこりと微笑んだ。


「久しぶりね?」


「ここに……一体何の用だ?まさか俺の邪魔をしに来たのか?」


正直、今の俺はやりたい放題やっている。

その事を女神が罰しに来たのではないかと警戒する。


「まっさかぁ。神様ってのは、地上の出来事には干渉しない物よ?」


その言葉が事実なら、何のためにここ来たというのか?

初対面時のイメージの悪さから、こいつの言動は胡散臭く感じてしょうがない。

その為、女神の言葉を丸々信じる気には到底なれなかった。


「ならなぜ、ここに来た」


「貴方との約束を守る為よ」


「約束?お前と約束などした覚えはないが」


「あら、忘れたの?」


女神はくすくすと笑いだす。

その笑顔は美しい。

思わず見惚れてしまいそうな程に。


だがその笑顔が美しければ美しい程、なお一層、俺は奴を胡散臭く感じてしまう。


「約束したでしょ。体を正常に戻す方法を探しておいてあげるって」


女神が口の端を歪めた。

途端雰囲気が一変し、その瞳が暗く輝く。


それは何かを無慈悲に叩き潰す時に見せる――冷徹にして邪悪な光。


俺はそれを見て背筋に寒気が走った。

何故なら、その瞳は真っすぐに俺を捉えているからだ。


「さあ、体を元に戻してあげるわ。転生体と転移体、どっちがいいかしら」


「ふ……ふざけるなよ」


冗談ではない。

冗談では済まない。

今この場で力を半分持っていかれるなど……


「別にふざけてなんかいないわよ。そうねぇ……自分で選べないなら、私が選んであげる」


そういうと、女神は俺の額へと手を伸ばす。


「させるか!!」


これは俺のゲームだ。

例え女神だろうと、邪魔はさせん。


俺は咆哮と共に、渾身のブレスを奴に向かって吐き出した。

いかに神だろうと、生物の限界を超えた今の俺ならば……


「あらあら、危ないわねぇ。今のを受けたら、流石に私でも只では済まなかったわよ」


だがそんな俺の考えをあざ笑うかの様に、奴はブレスをとんでもない速度で躱し、

そして俺の額へと触れる。

その瞬間、心臓を掴まれた様な感覚が俺を貫いた。


「くそ……がぁ……」


体中の血液が凍り付くような不快感に襲われ、激痛が全身を襲う。

鼓動が五月蠅い位に早鐘を打ち。

余りの痛みに視界が赤く明滅して、今にも意識を失ってしまいそうだ。


「おの……れぇ……」


何とか意識は保ったが、指一本動かせない。

体から力が抜けてしまう。

変身が解け初めたのか、視線がどんどんと低くなっていった。


やがて変身は完全に解け。

俺の視線は人間のそれと変わらない位置にまで落ちた。


「あら、可愛い」


女神の手によって、俺の中から小さな赤い竜が取り出されていた。

彼女は愉快気に、それを両手で抱き抱えるだきかかえる


「それじゃあ、約束は果たしたわ。最悪のタイミングかもしれないけど、精々死なない様に頑張ってねぇ」


やはりわざとか……

糞女神が……


女神は空へと浮かび上がり。

俺の半身を持って上空へと消えていった。


バキリ……と、奥歯が砕ける音が響く。

怒りの余り、噛み締めた俺の歯が砕け散ってしまったのだ。


糞が……


糞が!糞が!糞が!

奴の思い通りに等なって堪るか!

俺は生き延びる!


その為には――

天に向けていた視線を地へと下ろすと、ネッドと視線が合った。


奴だ。

まずは奴を殺す。


大幅なパワーダウンこそしたが、幸い時間や空間を操る力は残っていた。

時間さえ止める事が出来れば、俺に負けはない。


ネッドを……奴を殺して、俺は生き残る!

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