第15話 第二形態

ラミアルの拳が真面に入り、俺は吹き飛ばされる。

強烈な一撃に、一瞬意識が飛びそうになったが何とか堪えた。


「グゥベェ!!」


馬鹿な!?

何故だ!?

何故ラミアルが生きている!?


ラミアルは真っすぐに俺との間合いを詰める。

その肉体には、魔力が満ち満ちていた。


魔力連撃拳マジカルラッシュ!」


ラミアルの奥義。

これを喰らうのは流石に不味い。

考えるのは後回しだ。


俺は必死に態勢を立て直し、ラミアルの拳に自分の拳を叩きつけ迎撃する。


「おらおらおらおらおらおら!!」


「ぬおおおおおおおおおお!!!」


互角の打ち合いが続く。

ネッド達から受けたダメージを鑑みても、これは異常だ。

生きていた事もそうだが。


こいつ……いつの間にこれ程の力を……


だが――所詮は只の隷属種まぞく


連撃ラッシュの疲労からか、ラミアルの動きが少しづつ鈍って来る。

俺の拳がラミアルの拳を弾き、遂には彼女を捉えた。


「がぁぁっ!」


「死ね!」


態勢の崩れたラミアルに渾身の一撃を――


「死ぬのはお前だ!四神連斬!」


気付けば、いつの間にかテオードが直ぐ傍まで迫っていた。

どうやらラミアルに気を取られ過ぎた様だ。


「くっ」


俺は両手で胴と頭部をガードしつつ、大きく後ろに跳躍する。

間合いが離れた事で、テオードの神速4連撃は俺の手足を浅く刻むだけに留まる。

これぐらいなら問題ない。


4属性融合魔法カルテッドストーム!」


「なに!?」


レーネの最強魔法が俺を襲う。

タイミング的に躱せない。

後ろに飛んだのは大失敗だった。


「はぁ!」


両手に魔法を中和する力を集め――正面から受け止めてみせた。


「ぬおおおおおおぉぉぉぉ!!」


凄まじいパワーに押されて体が吹き飛ばされそうになる。

俺は全身に走る痛みに堪え、力尽くで彼女の魔法の軌道を逸らした。


「はぁ……はぁ……糞が……」


危なかった。

この状況で今のを喰らったら、ゲームを放棄せざるを得なかっただろう。


何とかゲームは――その時、背筋に寒気が走る。


俺は本能的に右腕を上げた。

次の瞬間、右腕に刃が食い込む。


――赤い刃が。


それは肉を、骨を容易く切り裂いて、俺の腕を落とし。

そのまま首へと迫る。


「ちぃっっ!!」


咄嗟に横に飛んで、なんとか躱す。

落とされた腕がズキズキと痛むが、首は薄皮一枚で済んだ。


危なかった。

腕が盾代わりになっていなかったら、今ごろ首を切り落とされていた事だろう。


「イモ……」


俺は襲撃者を睨み付ける。

そこにはかつて俺のしもべとして働いていた、筋肉質でずんぐりむっくりしたイモの姿があった。


その手には赤い刃――ブラッドソードが握られている。


その刃には、吸血の力はもう籠ってはいない。

だがはっきりと分かる。

それは俺が生み出し、オメガに授けた剣であると。


「イモータル……成程、オメガの息子だったという訳か」


イモータル。

それが奴の名だった。


オメガの息子と同名。

そして奴の手にした剣。

そこから俺は推測する。


オメガが何らかの手段で息子を蘇らせたのだと。


「まさか本名で堂々と、俺の側に潜り込んでいたとはな」


オメガの息子の名を聞いた時、どこかで聞いた名だとは思ったが。

こういうのを、灯台下暗しと言うのだろう。


「父の仇、此処で取らせて貰う」


イモータルの姿が変わる。

魔族ダークエルフの青年の姿に。


「仇を取るだと?ドブネズミの様にこそこそしていた男が、随分と大きく出たものだ」


「別に大きくなど出てはいない。お前を倒す上で最大の障害だった2つの能力は、既に封じられている。時間停止はあのネッドと言う人間が。そして、空間跳躍は魔王ラミアルの手によって」


そうか……そう言えばラミアルには千里眼の力を与えていたな。

あれは空間に干渉する能力だ。

さっきのあれは、ネッドと同じ要領でラミアルが俺の能力を妨害したと言う訳か。


「そしてお前は今や満身創痍。俺の行動は慎重に慎重を重ねた結果の行動だ。ずっとこの時を待っていた。ここで……お前を殺す」


イモータルが、赤い刃の切っ先を俺へと向ける。

その瞳には深い悲しみと、怒りの炎が垣間見えた。


「やれやれ」


俺の周囲をネッド達が取り囲んでいる。

どうやら世界共通の敵である俺を倒す為なら、彼らは魔王や謎の魔族とでもすんなり手を組んでしまう様だ。


全く。

節操のない事だ。


「お前達如きが、本気で俺に勝てると思っているのか?」


「その様で、よくもそれだけでかい口を叩けるものだ」


確かに俺の体はボロボロだ。

切られた腕はかなり痛む。

腹部の傷もそうだ。

痛んで痛んで仕方がない。


だがそのお陰で、逆に冷静に判断できる。


――このゲームの放棄を。


遊びゲームはお終いだ」


これ以上の続行は不可能だ。

ネッドには悪いが、此処でリセットさせて貰う。


「なに?」


最早、負け方などと言う面倒くさい事を考える必要は無い。

遺憾だが、圧倒的な力で蹂躙させて貰う。


「生物の能力には限界がある」


神が定めた生物の限界。

ステータスで表すなら99が上限だ。


「だが俺は違う」


俺の体は二つの肉体から構成されていた。

それら2つの力をフルに稼働する事で、俺は神の定めた掟じょうしきを凌駕する。


「限界突破だ!」


俺の体に起こった異変に気付いたのか、ネッド達が一斉に飛び掛かって来た。

四方から刃が迫り、俺の体に食い込む。


――だがもう遅い。


俺の肉体は、その全てを弾き返す。


体が熱い。


力が溢れる。


「馬鹿な!?」


俺の姿の変容に、誰かが叫ぶ。

声の主はよく分からない。

何故なら、遥か下方から聞こえる声だったからだ。


「さあ、ゲームオーバーだ」


首を下に傾け。

俺は足元で慌てふためく、奴らを見下ろした。

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