第14話 乱入者
ふむ、失敗したかもしれん。
周りの邪魔者は全て吹き飛ばした。
ラスボス戦に余計な外野は不要だと判断したからだ。
だが、全てを吹き飛ばしてから自分のミスに気づく。
ネッドが
俺の止めを刺させるにあたって、あいつの加速で翻弄されてやられるというシナリオだったのだが。
よくよく考えると、あいつの能力は俺の時間停止に対する唯一のカウンターだ。
自分で先に使ってしまっては無効化の機能を果たせなくなってしまう。
つまり、ネッドには
「はぁっ!」
ネッドの2連撃を躱す。
悪い攻撃だとは思わない。
とは言え、この程度の攻撃を俺が直撃で喰らうのはかなり不自然だ。
周りに雑魚がいれば、其方に気を取られた風を装って隙を作ったり、数に押されて消耗するという演出も可能だった。
だが纏めて吹き飛ばしてしまった以上、それはもうできそうになかった。
城の外にも敵兵はいるが、さっきの魔法を警戒して暫くは寄って来ないだろう。
……まあ、やってしまったものは仕方ないか。
少々不自然でも、強引に負けを演じるとしよう。
「ふんっ!」
テオードの攻撃を躱し、レイダーの一撃を片手で受け止める。
だがあえて反撃はせず、間合いを少し離す。
本来はネッドとレーネ以外、さり気無く殺すつもりだった。
その方がネッドを絶対の英雄に仕立て上げ易かったのだが……この状態で頭数を減らすと、手数が減って俺を追い込む事が相当難しくなってしまう。
お陰で殺せなくなってしまった。
全く運のいい奴らだ。
「アックス・バスター!」
レイダーが雄叫びと共に、戦斧を大上段から振り下ろした。
何がアックス・バスターだ。
只の渾身の一撃に大層な名前を――
「なにっ!」
ひょいと軽く躱す。
空を切った戦斧はそのまま地面に叩き込まれ――次の瞬間、足元が大きく砕けた。
どうやら奴の狙いは、初めっから俺の足場を不安定にする事だった様だ。
対応する事は簡単だったが、勿論これ幸いと態勢を崩してやる。
只の脳筋枠だと思っていたが、値千金だ。
褒めてやるぞ、レイダー。
「グヴェル!」
瞬間、ネッドとテオードが間合いを詰める。
これは千載一遇のチャンスだ。
当然、この二人がそれを見逃すわけがない。
「グヴェル!」
「四神連斬!」
だがここはあえて回避させて貰おう。
俺は無理な態勢ながらも地面を強くけり、大きく後方へと飛び退った。
千里眼で後衛3人が魔法を唱えているのを確認する。
着地と同時に、アーリンの爆裂魔法が飛んできた。
勿論躱さず直撃を喰らう。
ダメージはない。
だがこの魔法の目的は、ダメージではなく爆炎による目眩まし。
メインは――
「
レーネの握る杖が強く輝いた。
そこから放たれる圧倒的な破壊のエネルギー。
それは光る波となって、まるで津波の如く俺に押し寄せる。
「あたらん!」
だが距離がありすぎる。
加えて仲間への影響を考慮してか、攻撃範囲も狭い。
これでは容易く躱せてしまう。
だが問題ない。
「逃がさないっすよ!」
足元から魔法の茨が飛び出し、俺の体を拘束する。
正直、これぐらいなら一瞬で引きちぎれる。
と言うか引きちぎった。
だが、レーネの必殺魔法を当てる為の足止めとしては十分だ。
「ぬぉ……」
俺の全身を衝撃が駆け抜ける。
思わず吹っ飛ばされそうになるが、俺は両足を地面に深くめり込ませ、なんとかその場に留まった。
く……全身が焼ける。
思ったよりずっと痛てぇ。
なんて魔法使いやがる。
一瞬魔法の中和で威力を殺そうかとも思ったが、勘のいいレーネに気づかれる恐れがあった。
仕方がないので、魔法が終わるのを素直に堪えた。
「この……程度!!!」
魔法の終わりと同時に吠える。
効いている風を装って。
まあ実際そこそこ効いてはいるのだが、動きに大きく支障が出る程ではない。
「グヴェル!」
間髪入れずネッドとテオードが突っ込んできた。
位置的に、テオードの到達の方が早い。
うん、丁度良い配置だ。
「四神――「させん!」」
間合いに入った瞬間、テオードは必殺の技で仕留めにかかって来る。
だが止めを刺すのはネッドの役目だ。
俺は奴が剣を振るうよりも早く、奴の顔面に一撃を入れて吹っ飛ばす。
「く……」
ダメージを受け過ぎた感を口で出しつつ。
勢い余ってふらつく様にみせかけ、わざと態勢を大きく崩した。
「貰ったぁ!」
「させん!」
俺は時間停止を発動させる。
何もなく喰らうより、この方が最後の悪あがき感が増すだろう。
「無駄だ!」
ネッドの力が俺の力に干渉し、無効化される。
戦いに夢中で能力の無効化を忘れていないか少し心配だったが、どうやらそんな事は無かった様だ。
さあ来い。
ネッド。
「ぐぁぁっ!!」
ネッドの2本の剣が、深々と俺の胴体に突き刺さった。
刺された部分が焼ける様に痛む。
化け物になったお陰で、人間だった頃より遥かに痛みには強くなってはいるが、それでも痛いものは痛い。
俺は力強く腕を振り、ネッドを吹き飛ばした。
「俺が……この俺が……ネッド如きに!!!」
無詠唱で魔法を発動させる。
魔法によって生み出された雷が、俺の体を這い回った。
別に何らかの効果があるわけではない。
単に散り際を演出する為だけの魔法だ。
その為だけに――今日という日の為だけに俺が生み出した。
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!おのれ!おのれ!おのれおのれおのれぇ!!!」
次に、俺の体を発光させる魔法を使う。
それに合わせて、全身から大量の魔力を放った。
「兄さん!ネッド!グヴェルから離れて!」
レーネが異変を察知し、叫ぶ。
ちゃんと俺が自爆すると判断してくれた様だ。
まあ実際は、只の振りだがな……。
「くそがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ネッドとテオードがある程度離れた所で俺は最後の咆哮を上げ、仕上げの魔法を発動させる。
俺を中心に、周囲を吹き飛ばす魔法を。
魔法が辺りを吹き飛ばし。
衝撃波で巻き上がった粉塵が視界を覆いつくした。
これで奴らからは、俺が死んだ様に見えた事だろう。
自爆して死んだのだ。
死体が無い事も不自然には思うまい。
俺は気配を殺しつつ、空間に穴を開ける。
後は裏から世界を――
「なにっ!?」
空間に開こうとした穴が突然掻き消え、俺は驚愕に声を上げてしまった。
一体……なにが?
「!?」
煙幕から影が飛び出す。
おれはその姿を見て、思わず固まってしまう。
なぜ?
なぜお前が――
「グゥベェーーー!!!」
ラミアルの拳が俺の顔面を捉えた。
俺はその強烈な一撃に、成す術もなく吹き飛ばされる。
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