第3話 5対5
「くっ!」
不味い。
目の前の人間に手こずる。
この男……かなり手強い。
特に厄介なのがそのスピードだ。
ここぞと言う所でギアが上がり、此方の機先を制してくる。
特にさっきのは危なかった。
剣を躱しながら、痛む腹部を押さえる。
正に神速としか良い用のない、電光石火の連撃。
咄嗟にガードできたから良かった物の、そうでなければ下手をすれば今頃真っ二つにされていただろう。
連発してこない所を見ると、そうおいそれとは使えない物の様だ。
「はぁ!」
連撃で放たれる2刀を捌き、隙を見つけ拳を突き込む。
その瞬間、相手の動きが加速した。
男は私の突きを半身で躱し、下から上へと剣を跳ね上げてくる。
「ちぃっ!」
それを後ろに飛んで躱し、間合いを離した。
さっきから同じ事の繰り返しだ。
時間だけが無駄に過ぎて行く。
これは長期戦になりそうだ。
そう考えた時、視界の端に此方へ駆けてくる人影が映る。
「!?」
一瞬アムレかとも思ったが、違う。
それはアムレではなく、彼女と対峙していたはずの人間だった。
その人間がここへ駆けつけたという事は、アムレはもう……
「待たせたな、ネッド」
「テオード、助かる」
2体1。
かなり不味い。
1人でも手こずっているというのに、アムレを倒した奴まで相手にしなくてはならないなんて。
「ネッドパイセン!」
「テオード!」
そこに更に女達の声が。
見ると、グゥベェと戦っていた筈の人間達が此方へ駆け来るのが見えた。
「くっ……」
5体1……グゥベェまで負けてしまうなんて。
援護を求めようにも、周囲には他の魔族の姿は見当たらない。
絶望的な状況だ。
「パール、師匠とクラウさんは?」
「二人は……あの赤い魔獣と刺し違えて……」
「――っ!?そうか……その話は後にしよう。今は」
「ああ、奴を倒す!」
5人が私を取り囲んだ。
どうやらここまでの様だ。
私は死を覚悟する。
もはや勝ち目はないだろう。
父さん、今私もそっちに……
「諦めるには、少し早いと思うよ」
その時、頭上から声が降って来る。
見上げると小さな赤毛の獣が空から落ちてきて、くるりと一回転して私の足元に降り立った。
「ウゥベェ!?生きていたの?」
「君も知っているだろう?僕は不死身なんだって」
ああ、そうだった。
以前激情に任せてグゥベェを殺した時、彼は何事も無かったの様に私の前で復活して見せた。
そう――彼は不死身なのだ。
「そんな!?クラウさん達が命を賭けて倒したのに!?」
「残念だけど、あの程度じゃ僕は死んで上げられないよ」
再び頭上から声が……
私を取り囲むように、グウベェが頭上から降って来る。
しかも今度は3体も。
今この場には、全部で4体のグゥベェが存在する事になる。
全く……どういう生き物なのやら。
ドラゴンというのは、本当に不思議な生物だ。
「な!?」
人間達の表情が驚愕に彩られる。
「これで5対5だ。さあ対等な勝負をしよう」
だがこれは嬉しい誤算だった。
勝てる。
これなら確実に。
「ああ。言っておくけどラミアル、君が負けたら僕は帰るからね」
「え!?」
「真王は自分の手で勝ち取る物だよ。君にはネッドと1対1で戦って勝って貰う。手助けはしないし、負ければ僕はこの戦いから手を引かせて貰う。いいね」
そう告げると、グゥベェは文字通り四散し、後から来た4人を私から遠ざける様に動く。
「くっ」
勝利は自分で勝ち取れという事か。
恐らくネッドと言うのは、さっきまで戦っていた人間の男の事だろう。
いいわ。
此処でこの男を殺し、私は生き延びて見せる。
「行くわよ!!」
私は全身のバネを総動員し、ネッドに躍りかかった。
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