第2話 やるじゃん

「君達、思ったよりやるね」


ネッドはラミアルと一騎打ちしている。

その間アムレをテオードにあてがい、俺はその他雑魚共と戦っている訳だが……


団長の男レイドを起点にパールと大男が連携を組み、少しでも隙を見せようものなら魔道士二人の遠距離からのスナイピング。

時間停止無しとはいえ――ネッドの加速の邪魔になる可能性があるため自重――なかなかどうして、楽しませてくれる。


「パール!常に奴の背後を取れ!レイダーは一撃より動きを優先しろ!敵は小柄だ、フルスイングは必要ない!」


「「了解ラジャ!」」


レイドの指示に2人が従い、3人が俺を囲う。


指示としては定石と言っていいだろう。

但し俺に限っては、この指示は2つとも間違っている。

何故なら――


「ぎゃっ!?」


俺は千里眼で俯瞰主点での視野にあわせて、尻尾も武器として使う事が出来るからだ。

残念ながら俺に死角はない。

それまでは愛らしくフリフリしていただけの尾を伸ばし、パールを弾きとばす。


「むう!?」


大男の斧とレイドの剣が俺に振り下ろされる。

俺はそれをあえて躱さず体で受けとめ、伸ばした尻尾を薙いで二人を弾き飛ばした。


「残念。そんな気の抜けた攻撃じゃ、僕には通じないよ」


多少は痛いが、大ダメージには程遠い。

渾身の力を込めたフルスイングなら今頃三枚に下ろされいたかもしれないが、最小限のコンパクトな動きの攻撃でやられる程、この体も柔ではない。

舐めて貰っては困る。


「僕に小細工は――」


通用しない。

そう言おうとしたが、言葉を中断して背後へと跳躍する。

ほんの一瞬前まで俺の居た場所を、魔法の込められた矢が通過していった。


あれはあたると痛そう――っだ!?


再び跳躍する。

今度は爆裂魔法だ。

見事に着地点を狙ってきた。


「全く、油断も隙もあった物じゃないね」


「それは此方の台詞だ」


レイドも大男も、俺の一撃を喰らった割にピンピンしている。

並みの兵士なら一発KOレベルの攻撃なんだが、大したフィジカルだ。

戦場で鍛え上げられた傭兵の力を素直に感心する。


「パール!」


「大丈夫っす!」


レイドの声に反応してパールが立ち上がる。

若干よろついてはいるが、まだまだ戦える様だ。


……ふむ、これは長期戦になりそうだな。


出来ればさっさと終わらせて、ネッド対アウラスの観戦に集中したいのだが……かと言って、雑魚共相手に本気を出すのは大人げないよな?

何かいい手はないものか。


「どこを見ている!」


レイドは雄叫びと共に切りかかって来る。

そのせいで思考が中断されてしまった。


全く、せっかちな奴だ。

考える時間位くれても良いだろうに。

まあ、もう作戦は考え終えたから構わないが。


俺は3人によって次々と繰り出される斬撃の隙を縫い。

少しづつ移動する。

実行するには、ここでは少し遠い。


「この、ちょこまかと!」


レーネの魔法剣を横っ飛びで躱した。

何気に、この3人の中で最も危険なのはこいつの攻撃だったりする。


「君の攻撃は痛そうだ。悪いけど、当たってあげられないよ」


他の2人は全力スイングでなければそれ程気にする必要はないが、こいつの魔法剣だけは当たれば普通に俺の体を切り裂きかねない。

剣の腕は他の2人に劣っていても、大振りを必要としない分こいつの攻撃が一番躱し辛かった。


「おっと危ない」


この辺りで良いだろう。

俺は態と弓を打ち込む隙を作ってみせる。

誘いという奴だ。


狙い通り魔法の弓が真っ直ぐ俺の首へと飛んでくる。

それを俺は大きく飛んで躱してみせた。

さあ、もう一丁こい。


「貰ったわ!爆裂魔法エクスプロージョン!」


予定通りの行動だ。

俺はそれをあえて躱さず、わざと直撃を喰らってみせた。


熱と衝撃が俺を襲う。

そこそこ痛いが、耐えられないほどじゃない。


俺は尻尾をドリル状に変化させ、素早く地面に穴をあけた。

魔法の爆炎がブラインドになってくれているので、奴らからは俺が何をしているかは見えないだろう。


「やったか!?」


レイドの声が響く。


もちろん、やってなどいない。

寧ろやるのは此方の方だ。

俺は地中に潜り、尻尾で地面を掘り進める。


連携がうっとおしいので、まずは柔らかい後ろから奇襲で潰す作戦でいく。

目指すは後衛の魔術師、弓を使う方クラウだ。

狙撃が無くなればかなり動きやすくなるだろう。


それに嫁を殺されれば、レイドの動きも乱れるはず。

まさに一石二鳥だ。

この作戦の欠点は――まあ地中を進むから体が汚れてしまう事だな。


「この辺りか」


女の居た地点辺りから、地面を突き破って俺は勢いよく飛び出した。

きっと驚くぞ。

その驚いた顔が――


「させん!!」


飛び出した瞬間、レイドの豪剣が俺を襲う。

俺は体を捻ってそれをぎりぎり躱した。

どうやら俺の姿が消えた事で、瞬時に此方の作戦を読み取った様だ。


大した判断力と褒めてやる。

だが――


「残念!」


俺の出頭を叩こうとした事は悪くなかった。

しかし外してしまっては意味がない。

俺の尻尾は孤を描く様に伸び、レイドの妻を深々と貫いた。


まずは一匹目だ。


「クラウ!」


レイドが膝から崩れ落ちる妻を抱きしめた。

その姿は隙だらけだ。

予想以上の効果に、思わず顔がにやける。


「貰ったな」


2コンボだ。

尻尾を引き抜――ん?

見るとクラウが俺の尻尾を両手で掴んでいた。


「にが……さないわ」


辛うじて致命傷を避けた様だが、もう虫の息だ。

女の細腕で何が出来る?


「ああ、逃がさん」


更にレイドがクラウの手の上から、俺の尻尾を強く握る。

ちらりと視線を背後に投げると、パールと大男が此方へ駆けて来ているのが見えた。


成程。

俺を押さえつけて二人に攻撃させようという腹か。

だが、俺の攻撃手段は尻尾だけではない。

その喉笛を噛み切ってやろう。


牙を剥き、俺はレイドの首筋に喰らい付いた。

肉を抉る感触。

噛みついた部分から血が大量に溢れ出す。


これで二匹目だ。


「がっ……げぅ……」


レイドは血を吐き、苦しそうに呻く。

だが奴は尻尾を離さない。

こいつもしつこい奴だ


「クラ……ウ……死ぬときは……」


「ええ……一緒よ……あなた……」


泣かせる一幕ではあるが、正直どうでもいい。


さっさと――


「!?」


その時気づいた。

クラウの魔力が膨れ上がっている事に。

その姿は魔力の収束により、薄っすらと輝き始めていた。


「まさか!?自爆だと!?」


レイドの首元から口を放し、その場を離れようとする。

だが俺の尻尾を二人手ががっちりと掴んでいて、離れられない


「くっ!貴様ら!!」


「道連れだ」


レイドとクラウ達が笑う。

次の瞬間、クラウの肉体が爆発した。


凄まじい熱エネルギーが俺の体を焼き、辺りを火の海へと変える。


「やってくれる!!」


密着状態からのの自爆。

体が焼けただれ、かなりのダメージを喰らってしまった。

だがまだ大丈夫だ。


これぐらいならまだ戦え――


「なっ!?」


渦巻く炎の中、一人の男の姿が目に飛び込んできた。

それは大やけどを負いながらも、斧を振り上げる大男の姿だ。


――まさかこの爆炎の中を突っ込んできたというのか!?


驚きに体が固まってしまう。

そんな俺に大男……いや、レイダーの斧が振り下ろされた。

普段なら問題なく躱せる程度の一撃だ。


だがこの身を激しく焼かれ、驚きで固まってしまった俺には――


レイダーの斧が俺の体を真っ二つに切り裂いた。

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