終章 ゲームオーバー

第1話 テオードvsアムレ

本当は指輪を渡したかった。

けど、戦いしかしてこなかった不器用な俺には……これが精いっぱいだ。

我ながら情けない。


「え!?貰っていいの!?」


杖を受け取った彼女は嬉しそうに顔を綻ばせる。

俺は彼女の、そんな顔に見とれてしまった。

レーネの笑顔は本当にきれいだ。


「ふふ、大事にするわ。私の宝物ね」


「そんな大げさな……」


「大げさじゃないわよ。だって貴方が初めてプレゼントしてくれた物だもの。ありがとう」


彼女と生きていきたい。

そんな思いから、戦争なんてもう起きなければ良いと考えてしまう。


殺された仲間の仇を取るという目的は、まだ果たせてはいない。

それを果たさず平和な気分に浸る事は、彼等を裏切るようで後ろめたい気分になる。


でも、それでも……俺は彼女と一緒に、こんな緩やかな時間をずっと一緒に生きて行きたかった。


すまない、皆……


「それじゃお礼に、今日は私の手料理を振舞っちゃおうかな」


「ははは、それは楽しみだ」


振り返り、歩き出すレーネに俺はそっと小声で呟いた。


レーネ愛して――


「ごおぉぉぉぉ!」


――魔獣の雄叫びに、俺は意識を取り戻す。


「っ!?」


面前に迫る強大な槌を間一髪回避。

直撃していたらやばかった。


「くそがっ!」


更なる追撃を躱しながら毒づく。

初撃をもろに食らって意識が飛び、危うくそのまま昇天させられる所だった。

まさかこの巨体でこれ程素早いとは……完全に油断だ。


俺は今、魔王の側近と思われる女魔族と戦っている。

他の仲間とは、魔王の連れた魔獣の先制魔法によって完全に分断させられてしまっていた。

ネッドは魔王と、他の皆は魔王の魔獣とそれぞれ対峙している。


仲間の事が気にならないと言えば嘘になるが、今の俺にそんな余裕はない。

気を引き締め直さなければ。

次に同じようなミスをすれば、今度こそアウトだ。

仲間達は自力で何とかすると信じて、今は目の前の相手に集中しよう。


側近の魔族が呼び出したのは、槌を持った巨大な魔獣が2体だ。

魔獣達はその巨体に似合わず相当素早い。


しかも――


「頭が悪そうだってのに、連携してきやがて」


見るからに脳筋タイプの魔獣にも拘らず、お互いの隙をカバーするかの様に連携を取って来る。

あの女魔族が、魔獣達を完璧にコントロールしているせいだろう。

厄介極まりない。


「逃げ回ってばかりじゃ、戦いにならないわよ!」


「そうかよ!!」


挑発に乗るわけではないが、相手に隙が見えたのでそこに剣を打ち込んだ。

剣が深々と刺さり、分厚い肉を裂く感触が手に伝わって来る。

致命傷ではなくとも、この傷なら――


「なにっ!」


だが魔獣は止まらない。

迷わず振り下ろされる槌を辛うじて回避する。


確かに俺の剣は奴を貫いた筈?


だが何事もなかったかの様に、魔獣は襲い掛かって来る。


「くっ」


相手の傷口を見ると、すでに回復が始まっていた。

とんでもない生命力だ。

どうやらちょっとやそっとの攻撃では、殺すどころか、動きを封じる事も出来なさそうだ。


狙うは首か心臓か……


搦手からめてで時間をかけていたのでは不利になる。

俺は手にした剣に、そして全身に闘気を巡らせた。


力には――力だ。


「ぐぇぇぇ!!」


剣を構え、動きを止めた俺に魔獣が雄叫びを上げて槌を振り上げた。

俺はその一撃を、手にした剣で下からはじき返す!


「おらぁ!!」


金属と金属のぶつかり合う甲高い音が響き、魔獣の手にした槌が弾け飛んだ。


その隙を突いて、もう一体が俺の胴目掛けて槌をスイングしてくる。

もちろん喰らってやるつもりはない。

俺は頭上に翳した剣を全力で振り下ろし、その槌を叩き落とした。


「貰った!」


俺は武器を取り落とした魔獣達の首を刎ね、それぞれの胸に連続して剣を突き刺した。

流石に、これでもう起き上って来る事は無いだろう。


「ば……馬鹿な!」


無残に崩れ去った魔獣達の遺体を目にし、動揺から女魔族が声を張り上げる。

余程自慢の魔獣だったのだろう。

だがその隙は命取りだ。

俺は一気に間合いを詰め、剣を振り下ろした。


「くそっ!」


魔族は俺の一撃を躱そうと後ろに飛ぶ。

だが遅い。

俺の一撃は女の体を鋭く切り裂いた。


「俺の勝ちだ」


魔族の女は吹き飛び、地面に転がる。

手応えが少し浅かった気はするが、仮に生きていたとしても、もう戦えはしないだろう。

今は一分一秒が惜しい。

止めを割く事無く、俺は振り返りネッド達の元へと急いで向かう。

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