第10話 竜玉
「これは……」
気づくと、俺は見知らぬ場所に立っていた。
辺りには大量の死体が転がっている。
人、魔族問わずに。
その中に、一人だけ立っている者がいる。
アウラスだ。
彼女は全身傷だらけで、ぼろぼろになっていた。
「アウラス、その傷は?それにこれはいったい?」
「お前がやったんだ……オメガ」
「は?俺が……やった?」
この状況を俺が作ったというのか?
確かに以前の俺は戦う事が好きだった。
だがそれはイモータルが生まれる前の話だ。
今の俺は以前とは違う。
無駄な殺戮を……それもアウラスまで傷つける様な事は絶対にしない。
「イモータルが死んで、お前は狂った……」
「しん……だ?」
今アウラスは何と言った?
イモータルが死んだと言ったのか?
聞き間違いだよ……な?
「イモータルは死んだ。死体は、今はまだ城に保管してある」
アウラスの表情は真剣そのものだった。
そもそも彼女は息子が死んだなどと、悪趣味な冗談を言う魔族ではない。
じゃあ、本当に……死んだ?
死んだというのか……あの子が?
何故?
どうして?
誰がこ……
「あ、ああ……」
自分の手を見る。
そうだ……俺があの子を……
頭の中に、あの時の光景が蘇って来る。
そう……俺があの子を……
「あ……ぁぁ……ああぁぁああぁあああ!!」
張り裂けそうな思いに、頭が真っ白になる。
だが――
「ぐっ……」
鋭い痛みが肩を貫き。
破裂しそうだった感情の波が穏やかになっていく。
見ると、アウラスが魔法の剣を俺の肩に突き刺していた。
恐らく精神を安定させる効果の魔法剣だろう。
「ありがとう。アウラス」
おれは彼女に礼を言う。
危うくショックで、再び狂ってしまう所だった。
もしそうなれば――あの子を助けられなくなってしまう所だった。
「アウラス。あの子の体は、まだ残ってるんだな?」
大事な事を確認する。
さっき、彼女は城に保管していると言った。
その言葉が事実なら――
「本当はさっさと荼毘に服すべきなのだろうが、私には決心がつかなかったんだ……」
「ありがとう」
もう一度感謝の言葉を口にする。
彼女が母として、イモータルとの別れを惜しんでくれたから。
その体を残していてくれたから。
――あの子を救う事が出来る。
本当にありがとう。
俺は自らの力を全て、心臓に集約させる。
竜玉。
それは竜の心臓と呼ばれるものだ。
前世の世界では、竜玉を口にしたものは不老不死になり。
死者に使えば、その者を蘇らせると言い伝えられていた。
元の世界のそれは、きっと只の御伽噺の類なのだろう。
だがこの世界では違う。
俺の心臓は……俺の全てを籠めた命そのものを使えば、あの子はきっと蘇る。
「ぐぅぅぅぅぅぅ……」
「オメガ!何を!?」
全ての力を収束した所で、胸に手を突き入れる。
そして心臓を掴んで無理やり引きづり出した。
「これで……あの子を……生き返らせて……くれ」
俺はアウラスの手に引き抜いた心臓を握らせた。
「オメガ……おまえ……」
「他の……む……アウ……ラス……あの……子を……」
視界がかすむ。
力が入らず、体がぐらついた。
声は聞こえなかったが、霞む視界の中、アウラスが頷くのが見えた。
今度こそ……あの子を守るんだ……
あの子の一部となって……ずっと……いっしょだ……
――イモータル。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます