第8話 裏切り者には罰を

「オメガ。お前は俺に忠誠を誓ったはずだ。それを裏切るのか?」


「すまない、グヴェル。俺はあの子とこの時代で行きたいんだ」


一応確認するが、意思は変わらない様だ。


「そうか」


……はっきり言って、俺は裏切られるのが大っ嫌いだ。


学生時代、友人に裏切られた事がある。

あれ以来だな。

俺が他人を信用しなくなり、現実より空想の世界ゲームに傾倒しだしたのは。


とは言え、怒り自体はたいしたものでは無かった。

オメガにそこまで期待していた訳では無かったからな。


だだ怒りが薄いとはいえ……俺を裏切った報いは受けるべきだ。


そうだろう?


「残念だよ」


「グヴェル?」


「非常に残念だ」


オメガが戦闘態勢に入る。

俺の放つ殺気に気づいた様だ。


「グヴェル……止めてくれ。俺はあんたと戦いたくはない……」


戦う?

誰と誰が?

彼は一つ大きな勘違いをしている。


「戦いはしない。その必要も無い」


但し罰は受けて貰う。

裏切り者にお仕置きするのは、当然の権利だ。


「オメガ。俺がお前に掛けた魔法を覚えているか?」


「魔法?」


――魂の隷属ソウルスレイブ


自らの下僕を強く縛る、隷属の鎖。

これがある以上、オメガは俺に逆らえない。


「パパー、虫捕まえたー」


「下がっていなさい!」


虫を捕まえたのが嬉しいのか、子供がオメガの元へ走って来る。

そんな息子をオメガが手で制した。


「パパ、その人だーれ?パパにそっくりだよ?」


「イモータル。良いから下がってなさい。ママの所へ行くんだ」


ん?イモータル?

何処かで聞いた名前だな?

まあ気にするほどの事ではないか。


「下がらせる必要はないぞ。これからお前に罰を与えるのだから」


「ふざけるなよ!この子は――」


俺が掌を向けると、オメガの動きが止まる。

魂の隷属ソウルスレイブには何者も逆らえない。

それが例え転生者・・・であろうともだ。


「さて、お前への罰だが……息子を殺せ」


「あ……ぅ……あ……」


オメガは苦し気に呻く。

だがその体は自らの意思に関係なく、従順に俺に従う。


「パパ?」


「に……げ……ろ……」


この状態でまだ話せるのか。

大した精神力だ。

完全なコントロール下にある筈のオメガが、言葉を発した事に感心する。

それだけ息子が大事なのだろう。


――だからこそ、罰には持ってこいだ。


「やれ」


俺の言葉と同時に、オメガは息子の首を掴む。


「パ……パ……苦しい……」


「頼む……グヴェル……たの……む……」


オメガは涙を流し、懇願する。

残念ながら、自分を裏切った者にかける情けなど俺には無い。


俺はオメガに手を翳し、その掌を閉じた。

その動きに合わせて、オメガの手も――


ベキョリと、鈍い音が響く。

オメガに首を掴まれ、藻掻いていた子供の手足が力なく垂れ下がった。


「そんな……いやだ……いやだ……頼む……目を……目を覚ましてくれ!!」


動かなくなった息子を抱きしめ、オメガが慟哭を上げる。

息子をその手にかけて、さぞ苦しかろう?

だが罰はまだ終わってはいない。


「そういえばお前と約束していたな。その内残りの封印を解いてやると」


約束はちゃんと果たそう。

俺はオメガに手を翳し、その中に眠る物を封印から解き放つ。


「っ!?」


さあ、取り戻すがいい。

かつて息子との再会の為に封印された――前世の記憶と力を。


「あ……ああ……ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


オメガが発狂したかの様な声を上げる。

その体からはミシミシと音が鳴り、膨れ上がって行く。

やがてその肉体は巨大な竜へと姿を変える。


「どうだ?我が子と再会する為に転生して、そこで転生した息子を殺した気分は?」


「ごあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


返事の代わりに、ドラゴンは悲痛な雄叫びを上げる。

その口が大きく開かれ、強大な魔力が収束されていく。


ブレスを吐くつもりなのだろう。

但しその方向は、明後日を向いていた。


その瞳からは、一片の光も感じない。

どうやら自分のやった事に耐えられず、完全に発狂してしまった様だ。


ドラゴンからブレスが吐き出された。

その破壊力は全てを吹き飛ばし、地形すらも歪めてしまう。


良い威力だ。

直撃すれば俺でも只では済まなかかったな。


「さて、用は済んだ。俺はこれで失礼させて貰う。ネッド達が待っているのでな」


正気を失った相手に構っていられる程、俺も暇ではない。


「ああ、魂の隷属ソウルスレイブは解いておいてやろう。お前はもう自由だ、好きに生きるがいい。じゃあな」


そういえば、かつて世界を滅ぼしかけた竜はオメガ・グランドドラゴンと言う名だったな。

ただ似ているだけの名前かと思っていいたが、成程、そう言う訳だったか。


「卵が先か鶏が先……か」


オメガは初めからこうなる運命だったのだろう。

神による運命の悪戯と言った所か。


――オメガが此方へ向けて、大きく口を開いた。


今度は俺を狙ったのか?

それとも偶々か?

まあどちらでもいい事だ。


オメガがブレスを放つ。

だがそれが俺に到達するよりも早く、俺は元の時代へと帰還した。

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