第7話 宝物

「随分と待たせてしまった。すまんな、オメガ」


迎えに来るのが大分遅れてしまった。

簡単にはいかない場所だったのもあるが、他の事にかまけていたのが大きい。

此処は素直に謝っておくとしよう。


「グヴェル……」


「しかし……その格好はなんだ?新たな遊びでも見つけたのか?」


オメガは何故か俺の姿そっくりに化けていた。

戦闘大好きっ子のこいつの事だ、きっと魔王ごっこでもしていたに違いない。


「これは……アウラスが。魔王が人間を召喚するのは不味い事だっていうから、変身して魔獣の振りをしていたんだ」


「ふむ」


あの出鱈目な召喚陣の主は、魔王だった訳か。

しかし人間であるオメガを呼び出したという事は、その魔王も隷属種スレイブという事になるな。


いや、そう考えるのは早計か。

ラミアルの時とは違い、ちゃんとオメガは呼び出されている。

何より、オメガを人間と呼称していいのかは微妙な所だしな。


……まあそれは俺も同じか。


まあいい。

魔王の生い立ちや使った特殊な召喚の事は少し気になるが、今はネッド達の方が良い感じに仕上がっている。

此処での用事はさっさと済ませて帰るとしよう。


「帰るぞ、オメガ」


「……」


俺はオメガに手を差し伸べた。

だが彼は動こうとしない。


おかしいな?

以前のオメガなら、喜んで飛びついてきそうな状況といっていいだろう。

なのに目の前のオメガは嫌がっている様にすら見えた。


さっきから感じていた事だが、態度が少し変だ。

長い事放置されていたから、拗ねているのだろうか?


「俺は……帰らないよ。ここに残る」


「!?」


ん?今なんて言った?

残るって言ったのか?


「俺はこの世界に、掛け替えのない宝物が出来たんだ。だから、俺はこの時代に残る」


かけがえのない宝?

戦い以外に?


オメガの目は真剣そのものだった。

冗談を言っている様には見えない。


「オメガ、お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?ここは200年前の世界だぞ?お前はこの時代に骨を埋めるというのか」


そう、ここは200年前の世界だ。

何故そうなったのかは分からないが、オメガは時を超えてこの時代へと召喚されてきていた。


俺が彼を迎えに来るのに時間がかかったのも、その為だ。

流石の俺も過去に遡るのは容易くはなかったし、おいそれと行き来も出来ない。


「息子が、生まれたんだ。アウラスと俺の子だ。俺はあの子と共に生きて行きたい」


「息子だと?」


何かってに子作りしてやがんだ。

こいつは。


だがまあ息子が生まれたのなら、オメガがこの時代に残ると言ったのも頷ける。

そりゃ離れ離れにはなりたくないよな。

何せ息子と出会うために、こいつは転生しているのだから。


だが――そんな事は俺の知った事ではない。


俺に忠誠を誓っている以上、オメガには俺の都合で生きて貰う。


「ああ。今まで戦う事しか知らなかった俺に、あの子は別の感情を与えてくれたんだ。俺、今すごく幸せなんだ……だから」


お前は幸せかもしれないが。

俺は凄く不幸せだ。

何せ忠臣に裏切られた訳だからな。


まあ子供が出来たら危ないなとは思っていたが……まあそれは置いておいて。


俺だけ不幸な気持ちになるのは不公平だ。

そうは思わないか、オメガ?


怒りとは違う、何か言葉にできない感情が込みあがって来る。

別に他人の幸せが妬ましい訳では無い。

だが、自分を裏切ってそれを得るのかと考えると――


その全てを破壊したくなる黒い感情が、俺の内から湧き上がって来るのがハッキリとわかる。


「だから済まない。俺はこの時代であの子を守るよ」


オメガが後ろを振り返る。

その視線の先では、あほっぽいガキが小さな羽虫を追いかけ回していた。


成程……それがお前の大事な物か……

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