第6話 幸福
魔族と人間の戦争が終結して6年たつ。
黒鳥の平原での戦いはお互い痛み分けに終わり。
疲弊しきった両軍は、停戦協定を結ぶ事で戦争は終わりを迎えた。
「ぱぱー!」
息子が嬉しそうに駆け回り、小さな虫を捕まえて俺の所へとやって来た。
手にしているのは大振りのバッタだ。
「おー、凄いなー」
「えへへへ」
俺は息子――イモータルの頭を優しく撫でる。
気持ちがいいのか、息子は胡坐をかく俺の膝の上に乗り目を細めた。
不思議な気分だ。
息子を見ていると、こうして触れ合っていると、心が温かくなって穏やかな気持ちになる。
それは少し前の俺では考えられない事だった。
以前の俺は、自分の中にある何か大きな物に靄ついていた。
形容しがたい感情。
やがてそのやり場のない感情は、破壊の衝動となって俺を突き動かし続けた。
俺は暴れる事で、自分の中にある
やがて発散は快楽となり、いつしか戦う事だけが生きがいとなっていった。
戦い続ける日々。
血塗られた破壊の日々しか知らないそんな俺に……宝物が出来た。
それがこの子だ。
この子が俺を変えてくれたんだ。
「パパ?」
膝の上の息子を優しく抱きしめる。
何と愛おしく、温かいのだろう。
今ならわかる。
俺はこの子に出会うために生まれて来たのだと。
「虫は逃がして上げなさい。彼等も必死に生きているのだから」
「はーい」
息子は素直に手にしていた虫を離す。
自由になったバッタは
「バイバーイ」
アウラスにも感謝しなければならない。
彼女との出会いが無ければ、俺はこの子と出会う事等なかっただろう。
彼女が俺を召喚してくれたから。
俺をパートナーに選んでくれたから。
おれは息子と出会えた。
感謝しても感謝しきれない。
イモータルが俺の膝の上から降り、唐突に駆けだした。
きっと何か、気になる物でも見つけたのだろう。
俺はそんな息子の愛おしい姿を、目を細めて眺める。
「イモータル!あんまり遠くまで行くなよ!」
「はーい」
幸せだ。
こんな幸せが、永遠に続いてくれればいいのに。
戦争なんてもう必要ない。
あの子の為に、世界は平和で在り続けるべきだ。
その為には――
自分の中に眠る力を感じ取る。
俺の中にはまだ、引きだされていない強大な力が眠っていた。
残された半分の力を引き出す事が出来れば、俺はきっと無敵の強さを得られるだろう。
なんとしてもこの眠っている力を覚醒させ、そしてその圧倒的な強さで抑止力となって世界の均衡を保つ。
平和を乱すものは全て、俺の力で叩き潰してやろう。
そう。
あの子のよりよい未来を守る為ならば、俺は神でも悪魔にでもなるつもりだ。
息子が手を振っている。
俺はゆっくりと立ち上がり。
息子の元へと――
「久しぶりだな」
不意に背後から声を掛けられ、驚いて振り返る。
そこには見知らぬ人間の男が立っていた。
「姿が変わっていたから、一瞬分からなかったぞ」
男が笑いながら、此方へと近づいて来た。
まるで俺を知っているかのような口ぶりだ。
俺の知り合いにこんな男は居ない。
だが――
「ああ、俺が分からないか?まあ俺もお前と同じで、変身しているからな」
俺はこの声を知っている。
それに男から感じるこの
間違いない。
この男は――
「グヴェル……なのか?」
男がにやりと笑うと、その姿が人間から化け物へと変わる。
赤くひび割れた肌に4つの目。
肘の部分からは鉤爪の様な物が生えており、その姿は今の俺に瓜二つだ。
「久しぶりだな、オメガ。迎えに来たぞ」
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