第3話 戦場

奴の剣が俺の一撃を容易く受け止め、はじき返す。

パワーでは奴に軍配が上がる。

だが――


「スピードなら!」


パワーで負けているなら、手数で相手を圧倒するだけの事。

レーネのお陰で此処に来るまでスタミナをかなり温存できた。

出し惜しみはしない。


奴が連続突きを嫌って大きく後ろに飛ぶ。

俺はそれを全力で追い。

奴の着地際を狙って足元を狙う。


「やるなぁ」


だが剣は空を切る。

オメガは空中で体を回転させ、俺の一撃を回避して見せた。

とんでもない動きだ。


「嬉しいねぇ。今迄の雑魚共とは違う、こんなにワクワクする戦いは初めてだ。礼を言うよ」


「楽しんでいられるのも、今の内だけだ!」


奴がまだまだ余力を隠し持っているのは分かる。

だがこっちにだって切り札はある。


四神連斬。

超高速の4連撃が。


だがまだ使う分けには行かない。

一度見られれば、次からは対応される可能性が有るからだ。

ここぞと言う所で奴に叩き込まなければ。


俺は再び奴に切りかかった。

奴に隙を作る為に。


だがなかなか上手く行かない。

何発かは奴の体を掠め傷をつけるが、致命打や隙を作るには程遠かった。


このままじゃジリ貧だ。


此方の与えたダメージは、奴の剣が俺の体を掠る度に回復していく。

ブラッドソード、分かってはいたが想像以上に厄介な武器だ。


「ぐぉぉぉ!」


背後から魔獣が雄叫びを上げて襲い掛かって来た。


「ちぃぃぃ!」


俺は咄嗟に横に飛びそれを避ける。

此処は戦場だ。

当然オメガ以外にも敵は居る。

一瞬たりとも気は抜けない。


「邪魔すんじゃねぇ」


俺に襲い掛かった魔獣を、オメガが忌々し気に蹴り飛ばした。

内臓が破裂して即死したのか、魔獣は声も上げずに地面を滑っていく。


「仲間じゃないのか?」


「関係ないな。俺は強い奴と戦う。それだけだ」


そういうと、奴は口の端を歪めて笑う。


――生粋の戦闘狂。


奴は本能に従うだけの殺戮者だ。

仲間の仇の事もあるが、それを抜きにしても奴は此処で倒しておかねばならない。

俺の本能がそう告げている。


だが悔しいが、自力は向こうの方が上だ。

このままでは勝つのは難しいだろう。

俺が勝つには状況を利用するしかない。

戦場であるという状況を。


剣を水平に構え、極限まで集中力を高める。


俺は今まで幾多の戦場で死線を潜り抜けて来た。

そのため戦場での戦い方は、誰よりも長けている自信がある。

集中さえしていれば、背後から飛んでくる攻撃だって対応可能だ。

それをフル活用して、奴を崩してみせる。


俺は高めた集中力で、感覚を大きく広げていく。

奴との戦いも、隙を作る戦いからチャンスを待つスタイルへと変化させた。

感情に押されてごり押しせず、状況を見極めて動きに緩急をつける。


と同時に周りの様子を伺い。

チャンスを待つんだ。


「ここだ!!」


チャンスは案外あっさりやって来た。

俺は大振りに剣を振り上げて奴に切りかかる。

もちろんそんな大振りの単発攻撃など、容易く奴に受け止められてしまう。


だがそれでいい。

重要なのは奴の視界を遮る事だ。

俺は剣が弾かれた瞬間、素早く横に飛んで躱した。


「なに!?」


オメガが驚愕の声を上げる。

何故なら、自分の目の前に魔法による炎の矢が迫っていたからだ。


そう、戦場特有の現象。

流れ弾だ。


突如現れた魔法の矢を、奴は対処できずに直撃する。

着弾と同時に炎の渦が巻き起こった。


威力は悪くない。

かなり高位の魔法だ。

しかしそれでも奴を倒すには程遠いだろう。


だが――隙を作るのには十分だ。


「貰った!四神連斬!」


俺の放った四神連斬が4つの軌跡を同時に描き、奴の四肢を瞬時に切り裂いた。

手応えはあった、勝負ありだ――


「ぐあああ」


そう考えた次の瞬間、凄まじい衝撃が頭部に襲い掛かり。

俺は大きく吹き飛ばされてしまう。


「はははは、ほんと楽しませてくれる!」


頭突きだ。

四肢を切られた奴は、上半身の動きだけで俺に頭突きをして来たのだ。


「ばけ……ものめ……」


額から流れ出る血が目に入り、視界がかすむ。

頭がずきずき痛み、気持ちも悪い。


不味いぞ……


何とか立ち上がろうとするが、体が上手く動いてくれない。

このままでは……俺は死ぬ。


「惜しかったな。四肢を狙わず首を狙って集中攻撃してりゃ、今頃お前の勝ちだったかも知れなかったってのにな」


確かに奴の言う通りだ。

だが首元への狙いは、奴の剣が邪魔をする恐れがあった。

だから敢えて首や胴を避けて、確実に決まる隙だらけの四肢を狙ったのだ。


確実な安牌を取ったつもりが、まさかそれが完全に裏目に出てしまうとは……


「その様子じゃ、もうまともに動けない様だな。こっちも手足がきつい」


そう言いながらも、奴は此方へと普通に歩いてくる。

相当な深手の筈だが、奴の動きを完全に止めるには至らなかった様だ。


「それじゃあ止めを刺させて貰うぜ」


オメガはそう言うと、ブラッドソードを振り上げた。


俺は……俺はこんな所では死ねない!

生きるんだ!

レーネと一緒に!!


「うおおおおぉぉぉぉ!」


雄叫びと共に手にした剣を振り上げた。

俺の剣と奴の剣。

二つの剣が交差し、軋む金属音が戦場へと鳴り響いた。

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