第2話 魔王アウラス

「見つけたぞ!オメガ・グラン!」


目の前の魔獣はひび割れた赤い体に、4つの赤い瞳を持ち。

両肘からは棒状の長い鉤爪がついている。

その頭部からは真っ赤な髪が、獅子の鬣の様に茂っていた。


――オメガ・グラン。


魔王アウラスが呼び出したとされる赤毛の魔獣。

その種族はよく分かっておらず、実は伝説のドラゴンではないかと疑われる程の力を持った存在だ。


「ん?お前は確かあの時の……」


オメガは手を顎にやり、少し考える素振りをしてから口を開いた。

どうやら俺の事を覚えていた様だ。


「覚えていたか、なら話は早い」


3年前。

俺はある傭兵団に所属していた。

孤児だった俺にとって、そこに居た皆は家族で在り。

団は帰るべき家だった。


それを奴が――あの日俺から奪ったのだ。

奴はその圧倒的な強さで蹂躙し、全てを破壊尽くした。


あれから3年。

俺は戦場で命をチップに、腕を磨き続けて来た。

今日こそ皆の敵を討たせて貰う。


「お前を……ここで殺す」


「大分腕を上げたみたいだな。構えで分かる。こいつは楽しめそうだ」


オメガはそう言うと、舌なめずりして顔をほころばせた。

戦いを楽しむ狂人め、笑っていられるのも今の内だ。

俺が今、そのにやけ面を終わらせてやる。


「エリアル!」


突然俺の周囲を炎が舞い上がる。

先程見た炎柱の魔法と同じ物だ。

オメガを意識するあまり、まったく気づけなかった。

レーネが魔法で防いでくれていなければ、今頃丸焦げだ。


「すまん、レーネ。助かった」


「エリアル、気持ちは分かるけど此処は戦場よ。それを忘れないで」


「ああ」


仇を前に高ぶる気持ちはあるが、俺はそれをグッと抑えて辺りにも意識を伸ばす。

俺は奴を倒し、そしてレーネと生きて帰るんだ。

復讐心に足元を掬われるわけには行かない。


「アウラス。こいつは俺の獲物だ。邪魔すんなよ」


「オメガ、これは戦争よ。遊んでいる暇なんて無いわ」


「へっ、俺にとっちゃ戦いは全て遊びだぜ。いいから邪魔すんな」


オメガが腰に掛けてあった剣を引き抜いた。

その剣の刀身は血の様に赤く、不気味な輝きを放つ。


――ブラッドソード。


傷つけた相手の生命力を奪いとる魔剣。

オメガの扱う、伝説級の武器だ。


「エリアル、魔王は私に任せて」


そう言うと彼女は、魔王アウラスに向かって詠唱も無しに魔法を放つ。

一瞬無詠唱かとも驚いたが、魔法が無詠唱で使えるとは聞いて居ない。

恐らく口の中で先に終わらせていたのだろう。


彼女の放った炎雷の嵐ダブルサイクロンが魔王を飲み込む。

直撃だ。


「恐るべき魔法ね」


だがアウラスはレーネの放った破壊の嵐の中から、何事も無かったかの様に姿を現した。

彼女の体には、掠り傷一つない。


恐らく何らかの方法で防いだのだろう。

レーネの炎雷の嵐ダブルサイクロンを無傷で凌ぎきるとは、流石は魔王としか言いようがない。


「私じゃなかったら、今のは即死物だったわね」


その余裕の態度に、心配になってレーネの方を見る。


「大丈夫よ、心配しないで。私にだってまだまだ奥の手があるんだから」


そういうと、どんと胸を叩いて彼女は魔王を睨みつけた。


「分かった」


レーネは俺を信じてオメガを任せてくれた。

ならば俺も彼女を信じて戦うだけだ。


俺は剣を強く両手で握り込み、オメガへと突っ込んだ。

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