第1話 遭遇

4体の魔獣が左右から同時に襲い掛かって来る。

俺は手にした剣に闘気を籠め、極限まで集中してそれを迎え撃った。


「四神連斬!」


剣が4つの軌跡を描き、襲い来る魔獣達を同時に切り捨てた。

これは俺の切り札。

本来は瞬間的な集中攻撃をする技だが、斬撃の軌道を散らす事で、複数の敵を一気に切り伏せる事も出来る便利な技だ。


更に魔獣が襲い掛かって来る。

切っても切っても、際限なくお代わりが姿を現す。

もう長く戦っているが、さっきから全く敵が途切れない。


魔族との戦いは最終局面を迎えていた。

この黒鳥の平原の勝敗がお互いの全てを決めると言っていい。


魔族側は魔王城の喉元深くまで攻め込まれ、後が無い状態だ。

だが人間側もあと一歩まで追い詰めいるとはいえ、その損耗は激しい。

恐らくこれ以上の戦線継続は不可能だろう。

そのため此処で負ければ、魔族領の大半を放棄して撤退するしかなかった。


炎雷の嵐ダブルサイクロン


雷を帯びた炎が辺り一帯の魔獣達を消し炭へと変える。

とんでもない破壊力だ。


「サンキュウ、レーネ」


魔法を放った主。

時の魔女レーネに礼を言っておく。

彼女のお陰で一息付けた。

奴との戦いを考慮して抑え気味とはいえ、間断なく魔獣達の相手をするのは流石に疲れる。


「ふふ、私がいてよかったでしょ?」


「ああ」


かつて仲間を失って以来、俺は一人で戦場を突っ走って来た。

只ひたすら強くなるため。

そして強くなって、いつかあいつを――赤毛の魔獣を倒す為に。


だけど、やはり一人では限界があった。

それが戦争なら猶更だ。

俺一人だったら、奴の元にまで辿りつけても、疲弊しすぎて真面な戦いにならなかったはずだ。


だが今のペースならいける。

サポートしてくれる彼女が傍にいてくれる事が、本当に心強く有難い。


――今日ここで、俺は奴を超える。


「それで?魔王の居場所は分かったのか」


彼女には魔王の居場所を、無理のない範囲で調べて来るよう頼んであった。

奴は魔王の側に居るはずだ。

何故ならあの赤毛の魔獣は、魔王の従魔なのだから。


「西よ……魔王は此処から西に居るわ」


彼女は少し考えた後、魔王の居場所を口にする。

その表情は冴えない。


「西か」


「貴方の言っていた赤い魔獣。あれは化け物よ」


「見たのか?」


「うん、遠くからだけど少し」


レーネの表情が暗いのはどうやらそのせいの様だ。

今の俺では勝てない。

ひょっとしたら、そう思っているのかもしれない。


「俺は……あいつを倒さなくちゃならない」


「分かってる。私も、出来うる限りサポートするわ」


あの魔獣の強さは他とは桁違いだった。

それを召喚した魔王の力も、きっと化け物じみているのだろう。


そんな相手に正面から挑むのだ。

俺が生き残れる確率はかなり低くなる。

それでも俺は――


「レーネ……君が無理に付き合う必要は――」


「私を見くびらないで。自分の身は自分で守って見せる。それに言ったでしょ?最後まで付き合うって」


レーネが優しく笑う。

何時からだろう、この笑顔が愛おしくてしょうがなくなったのは。

俺は……彼女を愛している。


「分かった。一緒に行こう!」


俺に出来る事。

それは何が何でも戦って勝つ事だ。

そして帰るんだ。

彼女と一緒に。


俺は西へと駆けた。

レーネはそんな俺の背中ついて来てくれる。


途中魔獣の群れを蹴散らしながら進む俺の目の前に、突如強大な火柱が昇る。

奴だ。

そう本能的に察知した俺は、真っすぐに其方へと向かった。


「四神連斬!」


立ちふさがる魔獣達を蹴散らし、遂に俺は奴の元に辿り着く。


魔王アウラスとその魔獣――


「見つけたぞ!オメガ・グラン!!」


奴こそが魔王の魔獣にして、俺の倒すべき相手だ。

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