第3章 裏切り者には罰を

プロローグ

「飽きないな。お前も」


男が椅子にもたれ掛る女に声をかける。

椅子は翼を背後にあしらった無駄に豪華な代物で、声を掛けられた女は手すりの部分に肘を立てて頬杖を付いていた。


女は視線だけを少し動かして、男を確認する。


「あら、来てたの?貴方も一緒にどうかしら?今から良い所よ」


言われて男は目の前に広がる光景へと視線を移した。

そこには魔族の女と、転生者2人の姿が写り込んでいる。


「結果は知っているのだろう?そんな物を見てどうする?」


「やあねぇ。未来視フューチャービジョンで見るのと、生で見るのは全然違うわよぉ」


「俺には違いなど分からんがな」


やれやれと言った風情で男は首を横に振る。

男も目の前に広がる遊戯ゲームに手を加えてはいるが、それは女に借りがあったため手伝ったに過ぎない。

内容自体にそれ程興味はない様だ。


「あまりさぼるなよ。随分仕事が溜まっているぞ」


男がここに来たのは、女が遊びにかまけてあまり仕事をしていなかったからだ。

このまま遊び惚ける様なら、最悪女は不適格の烙印を押されて消滅させられかねない。

女と付き合いの長い男は、心配して態々その事を忠告しに来たのだ。


「それでなくとも、不正な事をしているんだ。仕事位はまじめにやっておけ」


「はいはい。もうすぐ終わるから心配はいらないわよ」


女は視線を動かさず、手だけをひらひらと振って男に答える。

どうやらまともに話を聞く気は無い様だ。


「やれやれ……それで、最後はどうなるんだ?」


女が余りに執心している様なので、少し興味が沸いた男は女に訪ねてみた。

全体を聞くのは時間がかかるので、取り敢えず端的にラストだけを。


「なんだ、やっぱり気になってるんじゃないの?」


「お前が余りにも入れ込んでいるのでな。どんなラストか気になっただけだ」


「ふーん。まあでもラストを教えるのは無理ね。だって私も知らないし」


「知らない?」


女の返事に男は眉を顰めた。

そんな男を見て女は楽しげに笑う。


「あははは、だってラストが分かってたらつまらないじゃない。私が先見してるのは、サプライズプレゼント直前までよ」


サプライズプレゼントとはいったい?

男にはそれが何の事か分からなかったが、どうせ碌な物では無いという事は簡単に想像できた。


「ああ、楽しみだわ。彼が私のプレゼントにどんな表情を見せてくれるのか。ワクワクしちゃう」


「悪趣味な事だな」


男は女の邪悪な嫌らしい笑みに辟易し、急激に興味が失せる。

女にも、女が楽しむ物語にも。


「まあいい。俺は行くぞ。ちゃん仕事をしろよ、ンディア」


「分かってるって。ほんとレジェはしつこいんだから」


「忠告はしたからな 」


そう言うと、レジェはその背にある漆黒の翼を羽搏かせ上空へと飛び上がった。

その体が一瞬輝いたかと思うと、彼の姿は瞬きの間に消え去さってしまう。


「ほんと、レジェったら口五月蠅いんだからぁ……お!分身やられてるじゃん!分かってても、やっぱこのシーンは燃えるわねぇ」


レジェへの愚痴は、途中から物語への感想へと変化した。

もう既に頭の中は遊戯ひまつぶしでいっぱいだ。


「さあ、盛り上がってきたわぁ」


だるそうに椅子にもたれ掛かっていたンディアだが。

テンションが上がって来たのか、居住まいを正し、目の前に広がる光景を注視する。


彼女の瞳の中に映る光景。

それは――

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