第75話 遭遇

目の前の敵を切る。

剣に付いた血を拭う暇もなく、別の魔獣が襲い掛かって来た。

次から次へと休む暇もない。


最初の突撃こそ綺麗な陣で分布されていたが、今や敵味方入り乱れての乱戦となっている。

俺達も団で固まって行動するので精いっぱいだ。


「まったく!うっとおしいわね!」


アーリンの爆裂魔法が魔獣を吹き飛ばした。

だがその爆風を突っ切って、更なる魔獣がどんどんと姿を現してくる。


切っても切っても敵がうじゃうじゃ湧いてくるこの状況。

本当に数で勝っているのかと疑わしくなってくる。


「ぐっぁぁ」


軽装の兵士が此方に近づこうとして、魔獣に喉笛を噛み千切られ倒れ伏す。

その腕には黄色い布が巻いてあった。

伝令の証だ。


殺された兵士の横を、もう一人の伝令が駆け抜けた。

だが魔獣はそれを見逃さない。

仕留めた獲物を放り出し、伝令へと素早く襲い掛かった。


「ちっ!」


2重加速ダブルアクセルを発動させる。

一瞬3重加速トリプルアクセルも考えに過ったが、魔王と戦う前に消耗するのは避けたい。

この距離なら2重加速ダブルアクセルでも間に合うはずだ。


「ひぃぃ」


狼型の魔獣が背後から伝令の兵士を押し倒し、首筋を狙ってその咢を大きく開く。


「させるかぁ!」


足を止めて切りつけたのでは間に合わない。

俺は勢いよく相手目掛けて飛びこみ、剣を振るう。


「ぎゅあうぅ!」


剣が魔獣の首筋に食い込み、大きく切り裂いた。

痛みから魔獣は背後に飛び退るが、その傷は深く出血の量も多い。

ふらふらとふらついた後、魔獣は地面に倒れ伏し、大量の血を吐いて息絶えた。


「大丈夫か!?」


声をかけると兵士はよろよろと起き上がる。

首筋から少し血が出ているが、これぐらいなら問題ないだろう。


「は、はい。ありがとうございます。このご恩は――」


「そう言うのはいい。内容は?」


目の前にもう次の魔獣が迫っている。

俺が抜けた穴を埋めるべく、仲間達も奮闘してくれていた。

ここでのんびり話し込んでいる余裕はない。


「あ、は、はい。魔王の所在が判明しました!ここから西にぃっ!?」


言葉は唐突に途切れ、兵士が血を吐いてその場に崩れ落ちる。

見ると、地面から突き出した刃が兵士の背中をを貫いていた。


「クソっ!地中を移動するタイプの魔獣か!」


この手の特殊な魔獣の存在は厄介極まりない。

放っておくと好き放題戦場をかき乱されかねないため、優先的に始末する。


俺は目の前に迫った魔獣を蹴り飛ばし、素早く横たわる兵士の脇へと剣を突き立てた。

手に肉を突く感触が伝わって来る。

地中の相手にきちんと命中した様だ。


素早く地面から剣を引き抜き、再び襲い掛かって来た魔獣をいなす。

地中の魔獣は死んだかどうかわからないが、きっちり止めを刺している余裕はない。

手応えはあったので、もう戦えない事を祈って目の前の敵へと集中する。


「甘いぞ、ネッド」


声と共に影が頭上を横切り、俺の背後にテオードが降り立つ。

その手にした剣は深々と地中に刺さっている。

どうやら俺の代わりに、きちんと止めを刺してくれた様だ。


「助かる」


目の前の魔獣の眉間に弓が突き刺さり、その後ろの魔獣が魔法の爆風で吹き飛んだ。クラウさんとアーリンの援護だ。

見ると、彼女達と一緒に他の仲間達が集まって来る。


「魔王は西だそうです。それ以上は聞けませんでした。西へ向かいましょう」


師匠に、伝令の最後の言葉を伝える。

正確な位置までは聞けなかったが、ある程度の位置が分かれば十分だ。

命がけでここまで来てくれた伝令の死は、決して無駄にはしない


「よし分かった!このまま西へ突っ切るぞ!」


「「了解」」


俺達は混戦の中、一丸となって真っすぐ西へと突っ切る。


「うぉっ!?」


西へ向かっていると、急に目の前を魔法が横切って行く。

とんでもなく強力な魔法だ。

その魔法は敵も味方も無く軌道にある者全てを消し飛ばした。


俺は足を止め、魔法の飛んできた方向を凝視する。

そこには――


「魔王ラミアル……」


魔族の女と目が合った。

その瞬間、本能的に察知する。

小さな紅い魔獣を連れたこの女こそ、魔族の王ラミアルであると。


「行くぞネッド」


「ああ」


「パイセン!」


パールが俺に魔法剣を投げて寄越す。

俺はそれを受け取り、真っすぐに魔王の元へと駆ける。

テオードと共に。


ここで、魔王を倒し――そして戦争を終わらせる!

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