第72話 残留

「それで?どうするんだいラミアル。まだ僕を殺すのかい?」


「く……わたしは……」


もう一発位ぶん殴られるかと思ったが、どうやら凄惨ショッキングなシーンを見せられて、ある程度落ち着きを取り戻した様だ。


「契約を破棄するというなら、僕は元居た場所に帰るけど。このままじゃ君は確実に死ぬよ?」


契約を破棄すれば、俺が手を下すまでも無く彼女は死ぬ事になるだろう。

魔族か人間。

どちらかの手によって。


隷属種スレイブである君に、魔族は従わないだろうし。仮に騙し通せても、僕抜きで人間に勝てるとは思えないからね」


隷属種スレイブ!?何を言ってるの!?」


そりゃこっちの台詞だ。

本気で驚いているその表情を見て、逆にこっちが驚かされる。


現段階に到って、未だに通常の方法で魔獣を召喚できていないのだ。

普通薄々勘づきそうな物だが……まあ別の召喚を与えた弊害か。


「だって君。召喚できないじゃないか」


「召喚なら――」


「僕の与えた方じゃなくて、普通の召喚魔法の方だよ。呼び出せないよね?ああそれと言っておくけど、僕の教えた魔法……実はあれ、召喚魔法じゃないから」


ラミアルは教えた魔法で魔獣を召喚していた気になっていた様だが、違う。

実はあれ、俺に対するおねだりの魔法だったりする。


魔力と呼び出したい魔獣のリストを俺に送るだけの魔法だ。

そして俺はそれを元に、ラミアルの元へと要望の魔獣を召喚すると言う仕組みになっていた。


一度でも召喚魔法で魔獣を呼んだ事がある者なら、目の前に現れた魔獣が自分で呼び出したものでは無い事に直ぐに気づいた事だろう。

だが、隷属種スレイブのラミアルは自力で召喚する事ができない。

その為、その事に気づけなかったのだ。


俺はラミアルにその事を懇切丁寧に説明してやる。


「うそ……うそよ……」


「本当の事さ」


因みに彼女の母親は、俺の叔母に当たる人物の様だった。

俺の前に召喚陣が現れたのは、偶然ではなく血縁による物だったのだろう。


彼女の母親は王族でありながら、勇敢な騎士だった。

前線に立ち、戦場を駆けるゴリ……女騎士プリンセス

その彼女が魔族の青年と禁断の恋に落ち、生まれたのがラミアルだ。


まったく……まったくなんて反吐の出る話だろうか。


戦争なんだぞ?

ちゃんと殺し合いをしろよな。

戦争で合コンとか、戦場を舐めてるとしか言いようがない。


まあ恋にかまけた罰が当たったのか、駆け落ちした叔母の方はラミアルを生んで直ぐに病死している様だが。

その後、彼女は出生の秘密を隠されたまま此処へ到るという訳だ。


彼女が脳筋ぎみなのも、きっとそれは叔母の血による物なのだろう。


「しかし君の父親もいい面の皮だよね。隷属種スレイブの子を堂々と純血種トゥルーと偽って育てていたんだ。とんだ裏切り者だよ。もし隷属種スレイブだって事がバレたら、君のお父さんも裏切り者として名前が残ってしまうかもしれないね」


行く末の選択は彼女に選ばせるつもりではあるが、誘導はしっかりとやらせて貰う。


ラミアルはお父さん子だったからな。

きっと父親の名誉を守ろうとするはずだ。


「さあどうするんだい?僕との契約を打ち切って、裏切り者として死ぬのか。それとも、契約を継続して戦って生き抜くのか。決めるのは君の自由だよ」


究極の二択に見せかけた一択。


さあ!

どちらでも好きな方を選ぶと言い!

君の自由だ!


と、声を大にして叫んでやりたかったが止めておく。

キャラが崩れてしまうから。


「……私は……死にたくない……生きたい……」


彼女は絞り出すかの様に、自分の答えを口にする。


「そうかい?だったら二人で頑張って世界を征服しよう。大丈夫、君の願いはきっと叶うよ」


黙って項垂れる彼女を見て、俺は口の端を歪めてニヤリと笑う。


計画通り。

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