第71話 思ったより美味しい

「ぐっ……うぅ……」


最後の一人。

ガンゼーの腹部にラミアルの手刀が吸い込まれ、彼は口から大量の血を吐き出してその場にうずくまる。

勝負ありだ。


「お……おの……れ……裏切り……ものめ……」


ガンゼーは恨めし気にラミアルを睨み付け、最後の力を振り絞ってその手を彼女に伸ばす。

だが悲しいかな、命のカウントダウンは彼の最後の反撃を許してはくれない。

伸ばしていた手がガクンと降ろされ、彼はそのまま力なく玉座の間の床にうつ伏せに崩れ落ちた。


まあ彼はよく頑張った方だ。

線の細い好々爺っぽい爺かと思っていたが、急にマッチョになって荒々しく暴れる様は純粋に俺を楽しませてくれた。

三重丸を上げようじゃないか。


「ラミアルと戦おうだなんて、彼等も無謀な事をしたものだ」


此処にいた魔族は全て自身の領地を持つ、腕利き揃いだった。

並みの混血種レッサーなら100人からを相手に出来る猛者達だ。

だがそんな彼らも、今のラミアルの敵では無かった。


「たった10人で君に挑むなんてね」


ラミアルは消耗こそしているが、ダメージは無い。

正に完勝だ。

因みにガンゼー以外の9人は気絶していただけだったが、ちゃんと俺が止めを刺しておいた。


何せ俺はラミアルのパートナーだからな。

彼女の代わりに、汚れ仕事を引き受けてやったのさ。


「どうして?」


彼女は俯き、小さく呟く。

もっと腹から声出せよ。

俺が難聴だったらどうするつもりだ?


「ラミアル。主語をちゃんと付けないと、言っている意味が伝わらないよ」


まあこの場合は、なぜあんな事を言ったの?か。

もしくはなぜ気絶していただけの奴らを始末したのか?のどっちかだろうがな。


いや待てよ。

ここは、貴方はどうしてそんなに可愛いの?の線も捨てきれんな。

正に可能性は無限大という奴だ。


「全部よ……貴方は今までずっと私を騙していたのかって聞いてるのよ!!」


彼女が顔を上げる。

その表情は怒りに彩られていた。

泣いているのかとも思ったが、どうやらもう昔の泣き虫だった頃とは違う様だ。

こうして彼女の成長した姿を見るのも、感慨深いものがある。


「言っている意味が分からないよ」


「ふざけないで!あなたがあんないい加減な嘘を付くから、こんな事に!!」


「いい加減な嘘?心外だなぁ。君の名の元、僕が人間達に宣戦布告したのは事実だよ。王族を殺したのは、向こうがこっちに手を出してきたからさ。別に他意はないよ」


「な……」


俺の言葉を聞き、彼女は絶句する。

人間への宣戦布告や王族の殺害は、只の濡れ衣だとでも思っていたのだろう。

まさかそれを自分の召喚獣がやっていただなんて、夢にも思わなかった様だ。


まったく……目出度い娘だな。


「ラミアル、僕と約束したよね。まおうになるって。君にはその約束を果たして貰わなければならない。だから人間に宣戦布告したのさ」


「なにを……なにを言ってるの!?」


彼女の虚ろな目が、愛らしい俺の姿を映し出す。

まるで不気味な物を見る様なその眼差し……


いいぞその眼、ぞくぞくしてくる。


「私は約束通り魔王になったでしょ?魔族の王に!?」


「魔族の王?ああ、そう言えばそれも省略すると魔王だったね。でも僕の言っているまおうは別の物だよ。やだなぁ、ひょっとして勘違いしちゃってた?」


可愛らしく首を傾げる。

本体でやると気持ち悪いが、分身の体だとこれが良く似合う。

どの角度が最高に可愛いかちゃんと練習もしたし、完璧だ。


「かん……ちがい?」


「そうだよ。僕が言っているまおうは、真の王と書いて真王さ。当然真の王なんだから、魔族領なんてちっぽけな物だけじゃ足りない。最低でも、この大陸全てを手中に収めててくれないと話にならないよ」


真王少女育成計画は――世界征服で完成する。


彼女は俺と真王になると契約しているのだ。

力を手に入れておいて、今更文句など言わせない。


「真王になる。それが君と僕の契約だよ。忘れたのかい?」


「私は……そんな約束……」


どうやら彼女は少々勘違いしていた様だ。

まあ説明不足による齟齬そごだ。

俺に落ち度がないとは言えないが、ちゃんと確認しなかった彼女も悪い。


ここはお互いイーブンという事で、責任追及は放棄してそのまま話を続けるとしよう。


「だからラミアル。ちゃんと人間を滅ぼして、契約通り真王になってよ」


「ふ……」


「ふ?」


「ふざけるな!」


激高したラミアルの拳が、俺の顔面目掛けて振り下ろされる。

ストレス発散も必要かと思って喰らってやったら、顔面が綺麗に吹き飛ばされてしまった。


少しは手加減しろよ。

こっちはパートナーだぞ。


「やれやれ、酷い事をするなぁ。まったく、訳が分からないよ」


しょうがないので、もう一体分身を送る。

あれのパクリだし丁度いい。

俺は転がっている分身の死骸に近づき、噛みついて咀嚼する。


「――っ!?」


ラミアルの驚く気配がひしひしと伝わって来た。

しかしあれだな、案外美味くてびっくりだ。

今度機会があったら、塩をふって食べてみよう。


うまうま。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る